*夏の特別企画* 第6回テーマ:今、子どもを持つということ ~進化生物学からみた少子化と生殖補助医療
⇒ 開催日時 :2011年7月10日(日)15:30-17:00
⇒ 開催場所 : 日本科学未来館 7階 会議室3 (江東区青海2-3-6)
⇒ 概要説明(ねらい)
普通にしていては子どもができない「不妊」のカップルが子を持てるように、体外受精が実用化されて30年以上になり、昨年、その開発の功に対しノーベル医学賞が授与されました。
体外受精技術を核にした生殖補助医療は、その後、カップル以外の第三者の精子や卵子を利用した受精や、別の女性に体外受精卵を身ごもってもらって産んでもらう、代理出産など、自然ではあり得ない形の生殖をもたらし、大きな議論の的になってきました。
今回は、生物がどのように繁殖活動をするのか明らかにする進化生物学の目からみて、このような生殖補助技術による子づくりが、ヒトにとってどのような功罪をもたらすのか、長谷川眞理子先生にお話を伺います。
子どもを持ちたいという欲望はどこまで強いものなのか、それを満たそうとするあまり、自然の過程を超えて生殖技術を使おうとするとどういうことになるのか、逆に少子化が進む日本では、なぜ子どもを持ちたいという欲望が低下しているのか、未曾有の大災害に向き合ういまの状況のなかで、ヒトの生殖行動はどのような影響を受けるのか。動物の行動生態を長年観察し研究してこられた長谷川先生とともに、大きな視野から、子どもを持つとはどういうことなのか、参加者のみなさんと考えてみたいと思います。
⇒ 議論の展開
◆2010年ノーベル医学・生理学賞(人間の体外受精成功でエドワーズ氏)をどうみたか
◆進化生物学からみて、不妊とは何か
・ヒト以外の動物にも「不妊」(配偶関係も持ちながら、子孫ができない)はあるのか
・ヒトの不妊は、単に淘汰されるべきだけの事象なのか
・不妊、少子化には、何らかの進化医学的意味を考えうるのか
◆進化生物学からみて、生殖補助医療はどのように考えられるのか
・代理出産は、鳥の「托卵」とどう違うのか
・ヒト以外の動物にも「もらい子」という現象はあるのか
・進化生物学的にいえる代理出産のリスクとは
・カップル間の体外受精におけるリスクとは
・第三者から精子や卵子の提供を受ける生殖補助医療のリスクとは
◆今年の大災害で、人間の生殖行動はどのような影響を受けるのか
・子を持ち育てたいという気持ちは、高まるのか、低まるのか
・子を持ちたいという欲望が低下した「少子化」は、進化生物学からみるとどう考えられるか
・日本社会の少子化の傾向は、今年の大災害で変化するのか
⇒ スピーカー紹介
長谷川眞理子氏(総合研究大学院大学教授)
1976年東京大学理学部生物学科卒、同大学院修了、理学博士。1980年から2年間タンザニア野生動物局に勤務。専修大学教授、早稲田大学政治経済学部教授を経て、2006年より現職。2011年より先導科学研究科長を務めている。日本進化学会会長、日本人間行動進化学会会長、国家公安委員会委員などを歴任。最近は人間の進化と適応の研究を行っている。著書に「クジャクの雄はなぜ美しい?」(紀伊国屋書店)や「ダーウィンの足跡を訪ねて」(集英社)など、多数。
⇒ 聞き手
ぬで島次郎(東京財団研究員)
⇒ スピーカーからのコメント(セッションを終えて)
少子化が起こっているのは、そういう選択をする人が増えてきたということで、個人の選択の問題、何が何でも子どもが欲しいと望むのも、個人の選択の問題、といってすべてよしとする考えもありますが、私はそうは思わない。人間も生物だし、人々が「自然に普通に」子どもを持って育てるのが楽しいことだと思える社会であるのがいいと思います。
生殖補助だけでなく、科学技術一般がそうですが、私たちが思ったことをすべて、確実に手に入れようとすることを科学技術はサポートしています。そこで大きな疑問として、科学が欲望を実現するようサポートしてくれるなかで、最終的に人間の「あきらめ」って何なのだろうということが、いつもどこかに引っかかっています。
死はあきらめないわけにはいきませんが、この文明の心地よさを、どこまであきらめずに追求してよいものなのか、どこであきらめるべきなのか、ずっと考えています。
⇒ 参加者からのコメント
・生殖医療と生命倫理に関しては、以前から関心がありながら、複雑な問題だから、と思って、深く考えていませんでしたが、講演では社会の状況に生物的な見方を導入していて、文理融合的に考えることができました。(20代女性)
・長谷川先生は、妊婦自身に、妊婦と胎児の間に、また出産後にも、さまざまな生物学的変化(ホルモンその他)があり、それは相互の刺激によるものだとも述べられました。このことを人間学的に、また社会としてどのように位置づけていくかは代理出産等を考える際の重要な論点だと思います。(50代女性)
・進化生物学というものが、人口論はじめ自分が学部でやっていた経済学に近いと感じました。物理や化学など純粋自然科学と違い、外部環境などによって人間がとる行動が変化し、その結果があらわれるという点は面白くも、また、恣意的にも感じました。(50代男性)
・中学生の娘と参加させていただきました。子どもにはちょっと難しいかと心配しておりましたが、彼女なりにいろいろ思うことのあった良いお話でした。科学を本格的に学び始める多感な時期に、出来るだけ沢山のことに触れさせ考えさせてあげたいのです。彼女が是非未来に希望を持てますように。(40代女性)
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担当:佐藤麻衣、井野