⇒ 開催日時 : 2012年2月9日(木)18:00-20:00
⇒ 開催場所 : 東京財団会議室
⇒ 概要説明(ねらい)
日本だけでなく世界中で、臓器移植の実施は提供臓器の不足で限界に来ています。21世紀の移植医療は、いつどこで出るか分からないドナーに頼るのではなく、必要な人体組織を培養・保存・供給できる再生医療に転換しなければならないのではないでしょうか。
また、臓器移植の対象にならず、ほかの有効な治療法もなく苦しんでいる難病の患者がたくさんいることも忘れてはなりません。その代表例が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄損傷などの、脳・神経系の疾患や障害です。そこでは、心臓や肝臓の病気より以上に、ES細胞やiPS細胞などによる治療法の開発に大きな期待が寄せられています。
今回は、その神経難病を中心とした再生医療研究の日本の第一人者のお一人である岡野栄之氏をお迎えして、研究の最新の見通しについて伺い、いま私たちが考えなければならない課題について議論したいと思います。どうぞふるってご参加ください。
⇒ スピーカー紹介
: 岡野栄之氏(慶応義塾大学医学部生理学教室教授)
1983年、慶應義塾大学医学部卒業。同年、慶應義塾大学医学部生理学教室(塚田裕三教授)、85年大阪大学蛋白質研究所(御子柴克彦教授)の助手を経て、89年に米国ジョンス・ホプキンス大学医学部生物化学教室に留学。その後、筑波大学、大阪大学での教授を経て、01年4月より現職。また、03年より21世紀COEプログラム「幹細胞医学と免疫学の基礎・臨床一体型拠点」拠点リーダー(慶應義塾大学)、07年10月より慶應義塾大学大学院医学研究科委員長、08年7月よりグローバルCOEプログラム「幹細胞医学のための教育研究拠点」拠点リーダー(慶應義塾大学)、10年3月内閣府・最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)「心を生み出す神経基盤の遺伝学的解析の戦略的展開」・中心研究者も務める。
⇒ 聞き手紹介
: ぬで島次郎(東京財団研究員)
⇒ 議論の展開
◆米国ES細胞臨床試験第一例(分化神経細胞による脊髄損傷治療) 中止の影響は?
治療として行なうまでには何が最も問題で、それを解決するには何が必要か
◆米国での第二例(網膜へのES由来分化細胞注入による黄斑変性症治療)
-臓器移植の対象になっていなかった部位(神経、網膜)が先行
心臓、肝臓、膵臓などへの再生医療の道は開かれるか。
将来、臓器移植に取って代われる可能性はどれだけあるか。
◆「万能幹細胞クエスト」の行方
最も有望なのはどれか? 課題は?
由来の倫理性 vs 細胞自体の性質、安全性
胎児由来幹細胞、ES細胞、iPS細胞
各系統の体性幹細胞、骨髄由来幹細胞、間葉系MUSE細胞
これらを介さないダイレクト分化
◆ES細胞、iPS細胞のバンク化について
公のバンク vs 自己利用のための民間バンク
バンクに集まる細胞は、誰のものか?
◆再生医療ツーリズムの現状について
日本は規制の緩い「再生医療天国」か? 外国への渡航は? 必要な取り組みは?
◆何をどこまで再生していいか、その線引きの基準は何か
卵巣組織、生殖細胞 から 大脳まで
◆サルのES細胞は胚に注入してもキメラ個体を生じない、との研究報告について
→霊長類のES細胞は、マウスのES細胞とは異なる?
今後の再生医療研究への影響は?
⇒ 聞き手からのコメント
サロン始まって以来の盛況で、遅くまで多くの方々にご参加いただき、議論していただけました。ありがとうございました。
スピーカーの岡野先生には、難しいデリケートな問題にも誠実かつ率直にお答えとお話しをいただき、再生医療研究の実際がよくわかりました。この知識をふまえ、研究を見守る私たちとしては、次々と現われる成果を見極める眼を養わなければいけないと思います。
とくに、日本で忌避され、研究が事実上放棄されている胎児由来幹細胞が、安全性と有効性の点で、現状では(そして近い将来も)iPS細胞を遥かにしのいでいる、という事実は、重く受けとめる必要があります。この問題は「生命倫理の土台づくり」プロジェクトでも一度取り上げ、問題提起いたしました。
《人の尊厳探求プラン》第1回研究会報告
現状は、認めるか認めないかが曖昧で、議論をする土壌さえないことが一番の問題だとの認識を共有できました。生命倫理サロンでは、今後こうした具体的な論点から、倫理の根本を掘り下げ固める議論を提起していきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
⇒ 参加者からのコメント
・対話形式で進んでゆくのは、論点や内容が効率よく示されて良いと思います。聞き手からの解説・質疑で理解が高まった事柄がいっぱいありました。ただ、希望としては最初の20分くらいに招待者からのまとめのプレゼンがあった方が、内容が理解できて助かります。
細胞、組織、臓器がどのように医療に役立つかは、技術の進歩によって様相が大きく変わり得ることが驚きでした。また、医療倫理面、サンプルを得られる困難さ、疾患・障害の重要度などの要素によってどこまでの医療が成立するかは、個々で大きく事情が異なるので、ある一定の規則を作るのはかなり難しいと感じました。個々の規則を定めるためには、生命、生体組織・細胞、個人情報の定義・位置づけが求められると思いました。これは、臓器移植のためにこれらの定義・位置が必要とされた程度より遙かに高いものになったと思います。
胎児由来幹細胞を巡る議論では、「科学者・医療の専門家は技術的な情報を提供するだけで、それを実行可能か不可能か決めるのは、主権者たる国民。ただし、禁止ではなく長期の不作為は、近代の社会では許されない」と感じました。
内容で一点だけ、安全性のところが少し不明瞭でした。岡野先生が話す臨床試験前の安全とは、動物を使ってその時代で適切と考えられるレベルの安全性を検討することであり、人で臨床試験をしてみないことにはわからない要素が多いのは常識ですが、一般の人には理解できていないと思います。このあたりは司会から適時解説を加える、講演者へ質疑を施すことが効果的と思います。(50代男性)
・再生医療研究の専門的な話は難しく理解できませんでしたが、その中でもとりわけ万能幹細胞研究の話には大変驚きました。そして、問題の本質は違うかもしれませんが、輸血や骨髄移植、臓器移植医療が初期より現在に至る過程についても興味がわきました。
再生医療研究の議論は、どこまでの研究が許されるのかという点に終局的には行き着くのかなと感じます。そうした価値観(倫理観)を確立する上でも、問題点を提起し、広く共有して議論する場が重要であると思いました。(30代女性)
・胎児由来の幹細胞を用いることの是非をめぐる討論に、日本という国の不思議さを感じさせられました。聞き手から問題提起があったように、研究への抵抗感は、一般にかなり高いと思われますが、それがいったん治療法として確立されたり医薬品として用いられたときには、積極的に用いることに賛成するでしょう。一方で、安全性や有効性の倫理面に議論がないというのは非論理的と感じます。しかしさらには一般に、ES細胞やiPS細胞細胞を用いた治療がすぐにも確立する、それが保険で受けられるようになる日も間近と誤解している向きも一般にあるように思い、そういったことが議論を難しくしているのではないでしょうか。(40代女性)
⇒ お申込み
お名前・ご所属をご記入の上、生命倫理サロン事務局(東京財団内) seimei-rinri@tkfd.or.jp
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