⇒ 開催日時 : 2012年3月26日(月)18:00-20:00
⇒ 開催場所 : 東京財団会議室
⇒ 概要説明(ねらい)
生命体を人の手でつくろうとする、「合成生物学」の研究が進められています。現状で結果が出ているのは、必要最小限のゲノムを合成するか、細胞の部品をつくって組み立てるか、どちらにせよ単細胞生物を生み出そうとするアプローチです。一方、多細胞生物の合成を、それも哺乳類でやろうと志している科学者もいます。
生き物を人工的につくることはできるのか? そこではどのような問題が出てくるのか?
今回のサロンでは、発生工学者の田川陽一氏をお迎えし、彼のグループが目指す研究の最先端を伺いつつ、合成生物学の科学としての意味と、それが社会にもたらす問題点について考えてみたいと思います。
どうぞふるってご参加ください。
⇒ スピーカー紹介
: 田川陽一氏(東京工業大学生命理工学研究科准教授)
1989年、東京大学工学部工業化学科卒業。91年に東京大学大学院工学系研究科工業化学専攻修士課程修了後、同大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程(単位取得退学)、東京大学医科学研究所実験動物研究施設を経て、97年にベルギー・ルーベン大学レガ研究所に博士研究員として赴任。その後、信州大学医学部、同大学ヒト環境科学研究支援センター、同大学大学院医学研究科での助教授を経て、05年4月より現職。専門は、発生工学・再生医学・分子生物学。主に、ES細胞からの器官(組織)形成。
⇒ 聞き手紹介
: ぬで島次郎(東京財団研究員)
⇒ 議論の展開
1)科学として
*「わかりたい」と「つくりたい」はどうつながるのか?
*日本ではこの分野はどれだけ盛んなのか?
2)倫理として
*生命と非生命、自然と人工:越えてはいけない境目はあるか
*安全性:既存の仕組み(P1,P2,./BSL1,2,..)で対応できるか
*保安性:公開の利益と悪用の危険をどうバランスさせるか
合成生物学は新しい固有の問題をもたらすのか
*科学の責任/国家、社会の責任
環境への、将来世代への、悪用への、…監視すべき対象は科学者か
専門家の訓練のあり方:多分野の研究者が生命を操ることに対して
*つくられた生き物は誰のものか
発明品?製品? 新しい生き物に所有権、財産権を設定できるか
研究成果? 情報だけでなくモノとしても無償で供与、共有するのか
⇒ スピーカー・田川陽一氏からのコメント
「合成生物学」が日本でもようやく注目されつつあるこの時期に、この学問・技術がもたらすリスクや利益についてヨーロッパ連合やアメリカ大統領の諮問機関からすでに報告された内容についてこのサロンで議論できたことは、私にとっても大変に有意義でした。アメリカのクレイグ・ベンター博士が目指している「ミニマル細菌」を代表として、合成生物の対象範囲がウイルスや微生物に留まりつつあるところに、その対象範囲を哺乳類まで拡大し、私の計画している「ミニマル哺乳類」が生物かどうかということについて根本から議論させていただけました。また、iGEMコンテスト(国際遺伝子工学マシン大会)に参加している世界中の生物系学部学生への倫理教育がいかに重要であるかについても改めて認識しました。皆様から多くのご意見を頂き、議論し、勉強になりましたことを今後の研究・教育に生かしたいと思っています。
⇒ 参加者からのコメント
・共通一次試験で倫理社会を選択したのと、高校時代にフロイトだのユングだのを読み漁ったというだけで、仕事ともアタマの程度とも程遠いテーマのイベントに飛び入り参加させていただき感謝しています。さすがに偉い研究者の研究内容や論文に対する解釈の討論には全くついていけませんでしたが、基礎知識はなくても一般論として、あるいは単なる感覚やイメージとして多少なりとも理解できる内容であったことが嬉しかったです。それでも何を質問していいのかわからないほどの理解度であったことは否めませんが、今度は少し勉強してもうちょっとわかるようになってやろう、という気持ちになれる間口の広さがありがたいと思いました。今までほとんど知ろうとしなかったことに興味を持たせ、調べてみようと思えるような貴重なイベントを、今後も(特に門外漢に対して)広くアピールしていただければと思います(50代男性)
・第9回から参加させていただいています。毎回、その分野でご活躍の先生からのお話が伺えて、新たな発見があるだけでなく、単なる制度論に終止することなく「倫理」の議論が伺える貴重な場であると思います。
今回のお話は、合成生物の定義、技術によって人工的に改変される生命、そして、そもそも生命とは何かという根本的問題を考えることが出来ました。誘った友人たちも、生命倫理を学んでいる人たちなので、面白い!と言ってくれていました。(30代女性)