: 「脳死移植はなぜあまり増えない? ~改正移植法施行二年を迎えて」
⇒ 開催日時
:2012年8月7日(火)18:00-20:00
⇒ 開催場所
: 東京財団会議室
⇒ 概要説明(ねらい)
:移植件数を増やすために、本人の同意がなくても、家族の同意だけで臓器提供できるように条件を緩めた改正臓器移植法が施行されて、二年が経ちました。
この間、脳死の人からの臓器提供は、年10数件程度から、40数件程度まで増えましたが、推進派が期待していたほどの飛躍的な伸びは実現していません。心停止後提供と合わせた臓器提供者数は、改正前とほとんど変わっていないのが実情です。
移植法改正のもう一つの眼目だった、15歳未満の子どもからの臓器提供も、わずか二件にとどまっています(6月末現在)。そのため、海外に出かけて移植を受けようとする親子は、改正前と同じように後を絶ちません。
世界一厳しいと言われた脳死移植の条件を、世界標準といえるところまで緩めたにもかかわらず、なぜ日本では脳死臓器提供が、それほど増えないのでしょうか。
今回のサロンでは、最近あった幼児からの脳死提供例をはじめ、改正移植法施行後のさまざまなエピソードをあらためて振り返りつつ、日本の臓器移植の問題点と今後進むべき方向について、参加者のみなさんと、じっくり語り合ってみたいと思います。どうぞふるってご参加ください。
⇒ スピーカー兼聞き手 : ぬで島次郎(東京財団研究員)
⇒ 議論の展開
1 移植法改正前後の提供件数推移 これをどう見る?
2 同意要件は世界標準にしたのに、提供件数はそうならない理由は?
[前提として]何件働きかけた結果なのか、提供に至らなかった割合と理由をきちんと把握する必要がある
(提供可能病院の全数調査など公式に)……そのうえで……
・まだ年月がかかる? 周知が足りない?
・日本人の遺体観のせい?
・日本人の死生観=脳死への抵抗感の強さのせい?
・医療現場の体制が不備? 死因の不透明さは?
・海外渡航と生体移植を主としてよしとしているから?
3 移植医療の未来はどうあるべきか?
・やはり脳死の人からもらうのが筋か?
・延命治療中止による「心停止ドナー」は受け入れられるか?
・それとも生きている人から?
・あるいはブタから?[スライド]
⇒ スピーカー・ぬで島氏からのコメント
今回も大勢の方にお集まりいただき、熱心に議論していただけました。ありがとうございました。
臓器移植の倫理の問題は、これまで死生観や遺体観といった面でばかり議論されがちでした。ですが今回のサロンでは、医療現場や行政の消極姿勢、病気でも借金でも生活上の問題は近親者の間でまず解決しようとする身内主義が日本ではまだ根強いので、見知らぬ脳死の人より生きている身内からの提供のほうが受け入れやすいという指摘、またその裏には見知らぬ他人への提供なら断りやすいが身内への提供では断りにくいという心情がある、など多種多様な面からの議論が出ました。
移植法改正を推進した人たちは、外国へ移植を受けに行くことがもうできなくなるから、提供条件を緩めて国内で移植を増やさなければならないと訴えていました。なのに、改正後も依然として募金を集めてよその国に臓器をもらいに行く例が絶えないのはどういうことか、という疑問も出されました。
「身内主義」は、卵子の提供や代理懐胎などの生殖補助医療や、遺伝子検査のような、ほかの先端医療の問題にもつながるキーワードになりそうです。この身体は、この命の元は誰のものか。どういう人間関係の範囲で分かち合えるのか、分かち合っていいのか。これからそういう方向で議論を広げ、深めていければと思います。
⇒ 参加者からのコメント
・生体移植の問題で、「健康な未婚女性のドナーに付く傷が残酷」という問題提起には違和感があります。(中省略)「残酷だからダメ」という議論よりも「生体移植を断れない」「親族だからやって当然」という社会的な圧力、風潮の強さをもっと考えてみたいとい思いました。(20代女性)
・社会的プレッシャーではない形で、ドナー側が臓器提供を価値的と捉えることができる環境整備が必要で、「生命を救う」という観点からの攻撃的な働きかけが必要だと思いました。(30代男性)
・普段の生活の中で議論しないような、できないような話をしたり聞いたりできたことで、家に戻ってから身近な人、友達などときちんと話をしてみようと思った。移植をとりまく状況を考えることと、そもそも医療をどこまで受けたいのか、どのような医療を望むのか、医療は人の命を救うために何をやってもいいのか、といったことも同時に自分自身が考えを深める必要があるなあと思った。(40代女性)
・生体移植、脳死移植、心停止移植の問題の複雑さは理解できた。しかし、社会通念、歴史、倫理観、死生観など色々からみ合い(中省略)解決は難しそう。結局、再生医療、再生臓器移植が残った選択肢のような気がします。私は生体提供も死後提供も、あまり積極的にはなれません。(60代男性)
・脳死移植と生体移植の問題は裏表の関係で考えなければいけないということを感じました。そして、生体移植をめぐる情報公開が不十分だとも感じます。(30代男性)