4月24日、慶応大学の樋口美雄教授から、「雇用問題の深層」 について報告を受け、その後メンバーで議論を行った。
樋口氏の報告の概要は以下のとおり。
最近の雇用情勢の変化
完全失業率の推移をみると,日本の労働市場は予想に反して以外と落ち着いている。昨年の10月と比べると0.5%ほど上昇しているが,これは他の国と比較するとそれほど大きな数字ではない。日米で比べると,日本の雇用の弾性値はアメリカよりもかなり小さいが,この要因の一つとして製造業中心の日本,金融業中心のアメリカという両国の産業構造の違いがあげられる。ただ,日本でも産業構造の変化は起きており,製造業が低下して医療・介護サービスが伸びるという産業構造の変化に伴い,女性の労働需要は今でも伸びている。
1997-98年の金融危機を契機に,労働市場で構造変化が起きたと考えている。この時期を境に完全失業率は大きく上昇し,また,以前は女性の方が高かった失業率も,この次期以降男性の方が高いという結果が続いている。また,正規雇用者数が急激に低下を始め,非正規雇用者の比率は上昇を続けている。この二極化にともない,過剰雇用の解消に要する期間は,80-90年代の2.9年から,98年以降の2.2年へと短縮した。このような「二極化」(有期雇用者の増加)は程度の差はあれ,各国でみられるものである。
雇用対策
このような労働市場への対策としては,財政政策や金融政策といったマクロの景気対策のほか,ワークシェアリングによる雇用の維持,環境や医療・介護・保育分野における雇用の創出,職業紹介や能力開発などの就職支援に加えて,セーフティネットの強化や,二極化を解消するための正規・非正規の均等待遇の強化などが必要であろう。
日本では,製造業を中心に,労働時間の短縮等でワークシェアを行い,政府も「雇用調整助成金」で休業手当の一部を助成しているが,これはいわば「緊急避難型」である。オランダでは1982年に,賃金削減と雇用確保のための労働時間短縮を政労使で合意し(ワッセナー合意),その後も正規・非正規で労働条件に格差をつけることを禁じるなどの政策を行った結果,失業率は大幅に減少し,若齢・高齢ともに就業を促進することとなった(多様就業型ワークシェアリング)。
また,日本のセーフティネットは他国に比べて脆弱で,失業者に占める失業給付の非受給者割合は77%にも上っている。これは多くの非正規雇用者に対して雇用保険制度が適用されていないためで,適用基準の緩和が必要である。また,欧州のような「失業扶助制度」を導入することも検討が必要だろう。雇用保険の給付の仕方にも,モラル・ハザードを防ぐような設計が必要である。
また,積極的雇用政策として,トライアル雇用や紹介予定派遣,さらにはNPOや英国における「社会的企業」を活用した,就業による能力開発・教育訓練が有効ではないか。
報告中にも、参加者からは多くの質問が出され、活発な議論が展開された。
文責:中本淳 プロジェクトメンバー