5月25日、国立国会図書館・調査及び立法考査局 財政金融課の鎌倉治子氏(個人の資格で報告)より「現代的な付加価値税と逆進性の緩和策-ニュージーランドの経験から-」の報告を受け、その後メンバーで議論を行った。
鎌倉氏の報告の概要は以下のとおり。
1. 付加価値税の国際的な動向
付加価値税は,現在130カ国以上が導入しており,OECD加盟国の総税収(2005年)の25%を占める基幹税である。生産・流通・販売の全段階が課税対象となるが,土地取引や金融・保険サービス,医療・教育・福祉などは非課税の対象となりやすく,また,食料品などは,軽減税率・ゼロ税率の対象となりやすい。
このような軽減税率・ゼロ税率は,逆進性の緩和策として導入されることが多いが,問題も多い。適用範囲の合理的な設定が困難であるうえ,税収が減少するため,一定の税収を確保しようとすれば,標準税率の方を高くする必要がある。こうした問題点を受けてか,近年,付加価値税を導入した国の多くは,複数税率を採用していない。また,現在取りまとめられているイギリスの税制改革案でも,付加価値税におけるゼロ税率や非課税の廃止を提言している。
2. ニュージーランドのGST
このような動向のベンチマークとなっているのが,ニュージーランドのGST(1986年導入)である。これは金融サービスや公的機関のサービスも課税対象とするなど,きわめて広い課税ベースに単一税率で課税しており,「経済に対してもっとも中立的な付加価値税」と言われている。
特に,金融仲介サービスについては,付加価値の定義が難しいなどVATにはなじまないとされてきたが,企業向け金融サービスに対してゼロ税率を適用するなど,付加価値を特定しなくてよい方法で,仕入れ税額控除の鎖が断ち切られることを防いでいる。また,医療・教育をはじめ,公的機関が課す手数料や補助金の受取なども課税対象となっている。
3. ニュージーランドの税額控除
GSTによる逆進性については,所得税制で対応していると言ってよい。18歳以下の扶養児童を有する低・中所得世帯を重点的に支援することで,子どもの貧困を提言することを目的とした「Working for families tax credits(WFFTC,「家族のために働く」パッケージ)」や,中間所得層の個人の負担軽減を目的とした「Independent earner’s tax credit」などが存在する。また,高所得者に有利な基礎控除や配偶者控除はない。
OECDの統計を見ても,これらの公的給付や所得税制が,ニュージーランドの所得格差の縮小に貢献していることがわかる。
現在の日本で非課税とされている金融サービスや医療・教育なども付加価値税の課税ベースに取り込みうること,付加価値税の逆進性の緩和を所得税制で行っていること等,ニュージーランドの税制が我が国に示唆する点は多い。
4. 質疑応答
Q: イギリスの軽減税率の採用が消費税収に与えている影響は?
A: 税収が773億ポンドであり,軽減税率・ゼロ税率・非課税による減収は約417億ポンドと算定されている。従って,軽減税率等による減収は3~4割程度。
Q: GSTは義務教育にも課税されるのか。
A: 非課税の対象とはなっていない。
Q: 生活保護とWFFTCの関連は?
A: WFFTCは就労要件ありのものもある。生活保護は働けない人たちを中心とした急になると思われる。
Q: OECDの統計では,日本の所得税制が所得格差に寄与する程度が小さいようだが。
A: 税・社会保障を合わせた効果を示しているが,社会保険料の定額部分などがあることで相殺されているかもしれない。
Q: GST導入時における,国民の反応は。
A: 政府が長く広報・対話に努めたため,大きな反対はなかった。特に,GST導入による逆進性の問題はそれほど大きくないこと,軽減税率の採用はむしろ高所得者を優遇するものであることを訴えた。
Q: 金融取引に対する課税の,国際的な導入の程度について。
A: 実験的に行われたケースはあるようだが,基本的には導入されていない。取引相手としての個人・企業の区別ができない。ニュージーランドでも,GST登録事業者を対象に仕入れ税額控除を認めている。金融取引課税の代替手段として,銀行税も一定の根拠があるといえる。
報告中にも、参加者からは多くの質問が出され、活発な議論が展開された。
※なお、報告内容は鎌倉氏が個人としてまとめたもので、組織としてのものではない旨、御断りいたします。
文責:中本淳 プロジェクトメンバー