第四回 給付つき税額控除具体化PT研究会
「アメリカEITCについて―不正受給の実態―」
2010年2月9日,成田元男米国税理士より「アメリカEITCについて―不正受給の実態―」に関して報告を受け,その後メンバーで議論を行った。
1.米国確定申告の特色とEITC
日本との一番の違いは,年末調整制度の不存在であり,納税者は自分で確定申告しなければならない。税法が非常に複雑であるため,約6割の納税者が第三者に依頼している。公認会計士や税理士がいるが,Preparer(確定申告代行者)には現状誰でもなれるため,フランチャイズ形式の確定申告代行業者が,問題の温床のひとつとなっている(非専門家による不正確な申告書作成,還付金を狙った物品販売等)。また住民票や戸籍等が整備されていないため,世帯の実態は本人しかわからない。
EITCは、主に米国税法上適格な子供をもち、かつ仕事をしている低所得者に、仕事へのインセンティブを向上させるための優遇措置である。EITCの不正受給に関しては,納税者自身および不正な申告書を作成した第三者に対し,罰則が設けられている。
2.不正受給の実態とその対応
TIGTA(財務省税務行政監察総局)のによる2009年発表の報告書によれば,2004年度において、$41.3 billionのEITC受給のうち、$9.6~$11.4 billion (23%~28%)が不正と推測されている。その原因の一つは,税法の変更や雇用の流動性による申請者の変更にあり,2000年から2006年までの間で、EITC申請者の約三分の一が毎年入れ替わっている。IRSは、長期目標の一つにEITC申請者の増加をあげており,様々な取り組みによってEITCの受給者総数や新規受給者は増えている。一方,もう一つの目標であるEITC不正給付の減少については,計算ミス修正、電子申告フィルターや扶養者データベース調査等により,かなり改善はされている。もっとも,調査されるべきEITC申告書のうち,実際に調査されたものは数パーセントに達する程度であり,代替する革新的な手法の開発が必要とされている。
3.不正受給について私見
EITCの不正受給が多いのは確かであるが、その大部分は、米国の個人所得税確定申告制度そのものに起因するのではないか。(1)複雑で毎年変わる税法、(2)稚拙なIRSの事務ミス、(3)能力不足のpreparerの存在、(4)教育レベルの低いまたは過度に節税意識の高い納税者の存在が相まって、不正やミスが多発しているものと考える。我が国に同様の制度を導入するに当たり、米国で不正受給が多いからといって、怖れるべき必然性は薄い。日本では、生活保護の不正受給も問題とされるが、給付つき税額控除の対象者はそれよりは所得の高い階層であり、法令の理解力・遵法精神は、生活保護対象者よりは高いと考えられるのではないか。
4.議論
・アメリカEITCの目的として「社会保障税の相殺」という側面がある。日本では社会保険料控除があるため,この側面はない。
・社会保障番号は,生まれたときに申請すればもらえる。自動的に付与されるかどうかは,州ごとに異なる。
・所得のみならず,世帯構成の把握もきちんとできない状態で,このような制度が実際に運営されていることに驚きを覚える。
・日本の場合は,世帯構成よりも,自営業者の所得の把握が主な問題となろう。
・不正受給・不正申告の罰則が全て事後的なものとなっている。どう防ぐかについて,不正受給が少ないとされるカナダやイギリスから学べないか。
文責:中本淳 プロジェクトメンバー