「諸外国における給付付き税額控除の動向-カナダを中心に-」
1.諸外国の給付付き税額控除の動向
所得税の世帯の人員構成にかかわる負担調整の手法として,(1)所得控除(高所得者に有利),(2)税額控除(給付なし,低所得の納税者に有利),(3)税率表におけるゼロ税率適用所得((1)と(2)の折衷的な性質),(4)給付付き税額控除(課税最低限以下の低所得者等にも恩恵)の4つをあげることができる。(1)~(3)に関して,基礎的な人的控除との関連から整理すると,近年の特徴として,カナダ・オランダがすべての人的控除を税額控除化したこと,配偶者控除については控除がない国も多いこと,扶養児童控除については児童手当による負担軽減策との兼ね合いで,控除無し・選択制・両方支給など様々な措置が行われていること,などがあげられる(詳細は資料参照)。(4)については導入国が近年増えているが,制度設計については,相殺の範囲(所得税、社会保険料、地方所得税、相殺せず全額給付),就労促進のしくみ(フェーズインor就労時間の要件),フェーズアウトの有無,所得の算定単位(個人 or 世帯)などの観点から様々なあり方がある。
2.カナダの給付付き税額控除
消費税の逆進性対策としての税額控除としてカナダのGSTについて整理する。カナダのGSTは5%の単一税率。基礎的食料品に対してはゼロ税率が適用され,一定の所得以下の人に対しては,所得税の枠組みの中でGST/HST クレジットが与えられる(趣旨は、生活必需品に係る税額の還付)。クレジットの構造はシンプルではあるが,片親への配慮なども組み込まれている。
また,カナダの給付付き税額控除については,従来のGSTクレジット(1991年~)や児童手当(CCTB,1993年~)に加え,財政再建の達成や好景気を背景に,児童税額控除(2007年~)や勤労税額控除(2007年~)が導入されている。前二者については,給付額がそれほど高くないことなどもあり,過誤支給・不正受給はさほど問題とはなっていない。ただ,会計検査院レポートや歳入庁の内部監査レポートを受け,制度上の改善が求められている。
3.日本への示唆
カナダの実態・対応を鑑みると,日本に給付付き税額控除を導入する場合は,不正給付の事後的な回収よりも,給付前の不正防止策が重要となる。また,制度設計上の論点として,イギリスのようにきめ細かく複雑な制度にするか,カナダのように柔軟さに欠けるが簡素な制度にするか,という選択がある。
4.議論
・1年に一回の申告で,毎月の給付がある場合,世帯の実態や,受給者の生死を税務当局が随時把握することは,かなり難しい。
・イギリスの場合は,支給要件がかなり複雑。カナダの場合は要件が緩やかな代わりに末端職員の裁量による部分もあり,地方による対応の違いを問題視する指摘もある。
・低所得者対策として考える上では,前年所得か当年所得かということは,非常に重要。
・GSTクレジットは,あくまでも消費税の逆進性対策。給付額が小さいのもそのためで,勤労税額控除と比較するのはムリがあるのでは。
・GSTの税率は、導入当初が7%で現在が5%。日本で消費税率引き上げに伴って制度の導入を考えるなら,規模は大きくなる。
※なお、報告内容は鎌倉氏が個人としてまとめたもので、組織としてのものではない旨、御断りいたします。
文責:中本淳 プロジェクトメンバー