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2009年度第4回国連研究プロジェクト研究会議事概要「安保理改革の現状と鳩山新政権の国連政策」

October 16, 2009

作成:華井和代(東京大学公共政策大学院)

1.出席者

北岡伸一(東京財団上席研究員)、鶴岡公二(外務省国際法局長)、飯田慎一(外務省経済局政策課企画官)、池田伸壹(朝日新聞社経営企画室主査)、紀谷昌彦(外務省国連企画調整課長)、城山英明(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、滝崎成樹(外務省安全保障政策課長)、田所昌幸(慶應大学教授)、中谷和弘(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、蓮生郁代(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)、福島安紀子(国際交流基金特別研究員)、華井和代(東京大学公共政策大学院)

2.報告者・議題

羽田浩二(外務省総合外交政策局審議官)
「安保理改革の現状と鳩山新政権の国連政策」

3.報告

(1)鳩山総理の国連演説に対する国際社会の評価

2009年9月、第64回国連総会での鳩山総理の演説は華々しい国際デビューとなった。特に温室効果ガスを1990年比で25%削減するとの発表が高い評価を得た。「すべての主要国と共に」という前提はついているが現に、途上国から前提なしにやれとの要望を出されており、これからいかに米中等主要国をまきこんでいくか、交渉力が問われよう。12月のコペンハーゲン会合ではさらに強い指導力を求められるであろう。新政権はまずはマニフェストを実現しようとしている。普天間基地や八ツ場ダムなどはすでに議論になっており、これからの課題である。

(2)鳩山総理の演説内容

(1)核軍縮・不拡散
安保理会合は千載一遇のチャンスであった。4月にプラハでオバマ大統領が「核兵器のない世界」構想を示した後であり、たまたま9月にアメリカが安保理議長国であり日本も安保理のメンバーであったため、日本が重視する核軍縮を促す演説ができた。他方、アメリカでは原爆が戦争終結を早めたとの史観がいまだに強いことに留意すべき。

(2)「友愛(Fraternity)」思想
鳩山総理はG20や総会の一般討論で「友愛(Fraternity)」思想を強調した。総理の論文によれば、祖父の鳩山一郎元総理がカレルギーの思想に共感して唱えた精神であり、フランス革命の「自由・平等・博愛」に由来する「自立と共生」を意味するとされる。友愛の意訳は難しい。Fraternityとすると米国では男子学生団体が想起されるので説明が必要ではないか。

(3)安保理改革の現状

(1)政府間交渉の継続
2008年9月の国連総会最終日に、2009年2月までに政府間交渉を開始することが総会決定され、今までに3ラウンド計34回の会合が開催されている。コンセンサス形式であった従来の作業部会と異なり、本交渉では出席メンバーの過半数で決定ができるようになった点は前進。今年9月の前国連総会最終日には、政府間交渉を継続することが決定されたが、ここで「常任・非常任双方の議席拡大」が最も支持を集めたことを明記した議長書簡も口頭で確認されたことはこれまでの交渉経緯を踏まえれば進歩である。

(2)各国の立場
英仏はG4案に基づく常任・非常任双方の拡大を支持しつつ「中間案」を提示した。定義はいろいろあるが、例えば5年程度の一定期間後のレビューにより常任昇格可能な暫定議席創設等を検討する案である。しかし、「中間案」は日本には好ましくない。5年の長期議席にいると、「次は休め」との圧力がかかって再選されにくいというのが国連の相場観である。すでにUFC(United for Consensus)は再選不可の新議席を創設して多くの国に議席を回すよう主張している。

アメリカは改革を支持してはいるが積極的には動かない。それでも、いちばん重要なプレーヤーなのでエンゲージは必要である。また、G20が主たる国際経済フォーラムとなったことに見られるごとくBRICs抜きに国際経済が考えられなくなっている現在では、政治面でもアーキテクチャーの見直しは急務である。ただ、安保理改革には総会で全加盟国の3分の2以上、128国の支持を得るとの高いハードルがあり、アフリカ諸国の支持を得ることは不可欠である。

いずれにせよ改革を求める国が案を提示し、オモテの世界の政府間交渉だけではなく多様な交渉を加速することが必要となる。尚、今後、リスボン条約の交渉が進むと、欧州でドイツだけが常任拡大を訴えることは難しくなろう。

(4)国連分担率交渉の状況

現在、2010~12年の分担率を決定する3年に1度の交渉が行われている。現行の算定方式では低所得割引調整のため中国が2.67%しか分担していない。中国のGDPが日本より大きくなると見込まれる他、20年以上軍事予算の二ケタ増で軍拡している一方で割引を適用されている。日本は今の経済状況を反映する衡平な分担率の実現を求めている。対世界GDP比の減少で日本は通常予算分担率は減ると予想されるが、予算全体のパイが増えているので、実際に払う金額は増える可能性もある。

4.自由討議

Q:鳩山総理の「友愛(Fraternity)」思想の本旨はなにか。誤解を招く言葉ではないか。
A:総理就任前から好んで使っていた言葉。祖父の鳩山一郎がグーデンホーフ・カレルギーの『Totalitarian State Against Man (全体主義国家対人間)』を翻訳したときに、フランス革命の精神としては「博愛」と訳されるFraterniteを「友愛」と訳した。長い歴史に基づく発言なので、誤解を招くからといって他の語句をあてるわけにはいかない。演説でも、友愛とは自他の自由と人格の尊厳を尊重する考え方であると説明している。

Q:「架け橋」は重光葵外相の国連加盟演説の引用だが、主体性の欠如と捉えられないか。
A:日本が東西の「架け橋」というのは伝統的な表現。大隈重信も新渡戸稲造も用いた。日本が役割を果たしたうえで「架け橋」になるのであって、半分になることではない。コンセンサス・ビルダーとしての日本外交のあり方を、主体性のなさと捉えるか実感にもとづいた役割としてあえてその主体性を訴えていくのかの違いであろう。

Q:温室効果ガス25%削減の実現性はあるのか。実現できない場合に追及されないか。
A1:総理が発表すると予算をつける必要が出るうえに、実現には莫大な投資が必要なので、今までは事前に財務省の主計局に相談があった。下からの積み上げで政策決定されていたら25%は絶対に出ない。最初は少なく設定し徐々に増やすのが従来のやり方。今回は実現できなくて徐々に減らし、最終的に従来と同じ数字になる可能性がある。
A2:25%の実現には、森林、海、水田などの吸収量を計算したうえに、クリーン開発メカニズム(CDM)のクレジットを購入しなければならない。年間2000億円程度の予算が必要になる。
A3:発表と現実が多少異なっても心配する必要はない。日本はきまじめすぎる。「国際経済が悪化したから予算を削ったのだ」と堂々と述べる国もある。

Q:具体的な数字を出さない方がよかったのではないか。
A1:今回の発表は革命的発想の転換。従来の日本は「できることを確実にやっていく」姿勢であった。京都議定書のメカニズムはクリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引(ET)、共同実施(JI)の3つで温室効果ガスを削減するが、日本は「自国がどれだけ減らせるか」を問題にしてきた。ところが、今回の鳩山総理の25%演説で日本がCDMの最大の買い手になることが決まった。欧州諸国が演説を評価した本音は、日本相手の商売ができることへの評価ではないか。
A2:麻生政権は「技術革新によって自国の排出量を減らすこと=真水(blue clear water)」について議論すべきと主張してきたが、他国は賛同していない。CDM、ETSを前提に途上国支援との組み合わせ(off set)で議論している。

Q:温室効果ガス削減に向けた諸国の対応はどうか。
A1:CDM市場の売り手は途上国だが、買い手はほとんどない。京都メカニズムのクレジットが暴落しており、2012年以降も同じメカニズムが継続する保証がないためである。中国は売れる市場の存在が利益になるので欧州の努力に期待している。
A2:温室効果ガスを減らすためのCDMの売買と、途上国への所得移転の手段という2つの異なる要素が混在している。日本がエジプトで建設した風車をCDM登録しようとしたところ、援助と気候はリンクさせないという途上国の主張で反対された。日本は援助に加え、お金を払ってCDMを買った。一方で中国は援助で建設した施設のCDM買い付け権を優先的に維持している。中国がCDMに賛成するのは自国に有利に働くためである。
A3:アメリカは麻生政権と同じ立場を表明したくてもできない。豪州は京都議定書では+8なので実現しやすい。真剣に考えているのは日本くらい。日本が浮いているのは当たり前。愚直に言い続けることは難しい。それが、今回の25%発表で転換された。
A4:結果を出すのは2020年でいいのだから、今はもっと自由に議論すべきであろう。

Q:なぜ民主党はマニフェストに固執するのか。
A1:固執しているのは官僚ではないか。マニフェストに沿っている限りは非難されない。
A2:タイミングの問題もある。予算編成の時期にかかってしまったので、指針がマニフェストしかない。次の通常国会までの予算をどう乗り切るかが問題。
A3:今の内閣は政権交代したばかりの試行錯誤内閣。公表した立場をどう実現するか、挑戦である。来年の夏頃にようやく政策評価ができる状態。新政権の体制づくりには時間がかかるものであり、それを民主主義のコストと見るか非難するか。11月にオバマ大統領が訪日するのは早すぎて抽象的一般論にとどまるだろう。

Q:国連分担金の審議における各国の状況はどうか。
A1:ブラジルの分担金が2007年から激減しているのは、デフォルトの結果が反映されているため。分担率には以前の経済状況が反映される。
A2:中国はなるべく過去の数字を使いたがる。日本を追い抜く経済発展をしている国に途上国割引を適用することには疑問がある。しかし、中国を追い詰めると途上国で結託して日本が逆に追い詰められかねないので注意が必要。
A3:日本の分担率は今回の審議で大きく下がるはずだが、負担の増加を懸念する欧州諸国が「激変緩和」を持ち出して日本を下げないようにする可能性がある。
A4:アメリカは22%のシーリーングがはずされないよう議論に消極的。

Q:韓国やシンガポールのような新興国がいまだに途上国扱いであることは適切か。
A1:京都議定書の附属書?国はOECD加盟国とソ連崩壊後の市場経済に転換した国。1992年のリオ会議で作った基準なので、韓国やシンガポールはいまだに非附属書?国。見直すべきではないか。
A2:韓国はOECDに加盟した際に気候変動では途上国であり続けると宣言している。
A3:日本とドイツ以降、先進国入りしている国はない。途上国であることが利益になる状況ができていることが問題である。
A4:李明博大統領は就任時に「5年以内に韓国を先進国にする」と宣言している。また、韓国は来年G20サミットを主催する。来年は日韓併合100周年であり、1907年のハーグ密使事件では国際社会に拒絶された韓国が100年でここまで発展してきたという感慨がある。

Q:日韓の協力関係はどうあるべきか。
A1:潘基文の事務総長選出に際して日本は積極的に協力した。次回再選できなかった場合、今後アジアから事務総長を出せるかどうかが問題となるのではないか。賛成した以上は支援が必要ではないか。
A2:韓国がいちばん指導してほしくない国は日本であろう。韓国の国連加盟のときから日本は積極的に協力しているが感謝はない。
A3:日本と韓国は、特定の問題以外では立場が共通することがよくある。日韓併合100年の今年はどのような関係が築かれるか、注目に値する。


5.総括

国連外交の場を活かせたことは評価できる。これまでは総裁選など国内政治日程の都合で総理が国連総会に出席できないことがあったが、世界の国は国連の日程に合わせて調整をしている。今回の国連出席で、行けばこんなに有意義であることが伝わり、国民に定着することが望まれる。
鳩山総理の演説に対しては批判的な反応もある。日本の新聞はもっとほめるべきであろう。絶妙なタイミングで政権交代が行われた幸運もあるが、この幸運を活かして国連外交が活性化することを望む。

    • 東京大学公共政策大学院
    • 華井 和代
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