2009年度第5回国連研究プロジェクト研究会議事概要「イラン核問題」 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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2009年度第5回国連研究プロジェクト研究会議事概要「イラン核問題」

November 26, 2009

作成:華井和代(東京大学公共政策大学院)

1.出席者

北岡伸一(東京財団上席研究員)、鶴岡公二(外務省国際法局長)、飯田慎一(外務省経済局政策課企画官)、池田伸壹(朝日新聞社経営企画室主査)、紀谷昌彦(外務省国連企画調整課長)、蓮生郁代(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)、関山健(東京財団研究員)、華井和代(東京大学公共政策大学院)

2.報告者・議題

中川勉(外務省中東アフリカ局中東第二課長)
「イラン核問題」

3.報告

(1)イラン核問題のはじまり

イランは、1957年の米国との原子力協力協定締結、1968年のNPT署名後、1960年代後半から原子力活動を開始した。1979年のイラン・イスラム革命前までイランと米国は友好関係にあり、両国間の原子力協定に基づき協力を得ていた(その他、西独(当時)や仏等も協力)。革命後はロシアや中国の協力を得てきた。問題となったのは、2002年8月にイラン反政府組織が未申告の核施設(ナタンズの地下核施設とアラクの重水炉設備)を暴露してからである。翌年、イランで過去18年間にウラン濃縮関連活動を含む未申告活動があったことを国際原子力機関(IAEA)が確認し、2005年9月にはウラン濃縮関連・再処理活動の停止等を要求する決議を採択した。しかし、イランがこれを遵守しなかったため、2006年2月にIAEA緊急理事会はイランのIAEA保障措置協定の「違反(non-compliance)」を国連安保理に報告し、議論の場が国連へと移った。
2005年にIAEA理事会が提示した要求は、?IAEAへの更なる協力、?濃縮関連・再処理活動の再停止、?追加議定書の批准・履行等であり、その後、国連安保に舞台が移ってからも基本的な要求内容は変わっていない。

(2)信頼問題 ―イランの主張

2002年の問題発覚後、2003年10月にEU3(英仏独)の外相がテヘランを訪問し、イラン政府と交渉した。この結果、イランが濃縮関連活動の停止と過去の解明のためのIAEAとの協力を約束する一方、EU3は経済面での協力を約束するテヘラン合意に達した。2003年10月、イランはIAEAに対して修正申告を提出し、同年12月には追加議定書にも署名するなど前向きな対応を示した。2004年11月にはパリ合意が成立し、イランは濃縮関連活動を停止し、同時にEU3との長期的取り決めに向けた交渉が開始された。しかし、イランは、2005年8月にEU3が提示した同取り決め内容を不服として、パリ合意に基づいて停止していた濃縮関連活動(転換)を再開した。
この点で、忘れられがちなことであるが、かつて一度は合意が成立し、イランは濃縮関連活動を停止したことがあるということである。更に、イラン側にしてみると、濃縮関連活動を停止したにもかかわらず、EU3がかたくなであったために交渉が決裂したのであって、信頼醸成ができていない原因はEU3側にあるということになる。

(3)技術的問題 ―ウラン濃縮関連活動とは何か

原子燃料サイクルではまず、ウラン鉱石を精錬して粉末状の精鉱(イエローケーキ)をつくり、それを気体状の六フッ化ウランに転換した後で、遠心分離機にかけて3~4%程度に濃縮し、再び粉末状に再転換して焼き固めてペレットにする。そして精錬・加工して原子炉に使用する。
2002~03年に問題が発覚したときには、まだ精錬・転換の段階にあり、何tものイエローケーキが蓄積されていた。ところが、2006年に安保理に付託された段階でイランは転換から濃縮の段階に移った。しかも、当時はまだ数十機程度の遠心分離機が稼動しているレベルであったが、安保理に付託された後に3000機に増え「産業規模」とも言われる濃縮が行われるようになり、現在では約8000機にまで増加している。現在イランが保有しているとされる約1.5tの濃縮ウランは2007年2月頃からのナタンズの燃料濃縮プラント(FEP)での濃縮活動で蓄積されたものである。つまり、イランの核問題は、安保理に付託され、一連の決議・制裁措置が行われて以降に、濃縮関連活動の実態は進んでいるということである。

(4)法解釈の問題 ―「平和利用の権利」とは

イランは自国の原子力活動は平和的利用であり、NPT条約4条1で認められている締約国の奪い得ない権利であると主張している。NPTでは原子力の平和利用は認められているが、締約国は軍事用ではないことを自ら証明して国際社会の信用を得なければならない(IAEAの保障措置受諾の義務)。しかし、何をどこまで保障したら核の平和利用としてどこまでの核関連活動が認められるかについて明文の規定があるわけではない。イラン側にしてみれば、日本やブラジルに濃縮活動が認められてイランに認められないというのはダブル・スタンダードではないかということになる。しかし、「国際社会」側にしてみれば、そもそもの問題の発端はイランが過去18年間にわたり、未申告の活動をしていたことであり、更に「未解決の問題」や「研究疑惑」と呼ばれるいくつかの技術的な問題についてイラン側が十分な説明を行っていないことが信頼を得られない理由であるということになる。

(5)最近の問題

2009年10月1日に、EU3(英仏独)+3(米露中)がイランとの協議を実施した。オバマ政権が関与政策をとり、イランとの直接交渉の可能性を認め、約1年4か月ぶりに表の交渉が再開された。
この協議で合意された内容は、1. 10月中のイランとの再協議、2. 新たな濃縮施設へのIAEAの査察受け入れ、3. イラン製低濃縮ウラン(約1.5t)の再濃縮・加工のための第三国(露仏)への移送、の3点である。
特に3. の国外移送の意味は、外交交渉上の時間稼ぎにある。低濃縮ウランをイラン国外に出すことで、イランが現在保有する、仮に更なる濃縮を加えれば核兵器の製造が可能となる有意量の低濃縮ウランが一時的に減少する。再び、核兵器製造に必要な量の低濃縮ウランが蓄積されるまでに、相当程度で時間が稼げることになる。

(6)経済制裁と日本の対応

2006~08年に採決された一連の安保理決議では、イランに対し、拡散上機微な原子力活動の停止(すべての濃縮関連・再処理活動、重水関連活動の停止)とIAEAによる検証を求めており、資産凍結等の金融措置など制裁の実施を定めている。
日本は、IAEAやEU3+3の活動を評価し、イランに対して決議履行を求め、累次の決議の要請措置を誠実に実施している。
かつて日本はイランにとって第一の貿易相手国であったが、2006年以降、中国にとって代わられ、また最近では、中国やインドがイランからの原油の輸入量を大きく伸ばしている。

4.自由討議

Q:イランにとっての原子力利用の必要性は何か。
・産油国なのだから原発は必要ないとの見方もあるが、いつか石油は枯渇する。
・原発を持つことで地域内での影響力が向上する効果もある。イラクのサッダーム・フセイン政権の崩壊、印パの核保有によって地域の均衡が崩れ、イランは相対的な力の向上をめざしているのではないか。

Q:イランの原子力利用によって懸念される危険性は何か。
・原子炉に対して通常兵器で攻撃が行われると原爆並みの被害がもたらされる。ことになり、安全保障のためには核兵器による抑制が必要になる。日本の場合はアメリカが守ってくれるが、かつてイスラエルがシリアの建設途中の原発を攻撃した例もある。
・イランが核兵器を持とうとする場合、イスラエルが軍事的な行動をとる危険性がある。

Q:北朝鮮やインドと比較するとイランの核問題の特徴は何か。
・北朝鮮はNPTに加盟していない。インドは核実験を実施したにもかかわらず米印合意で認められている。なぜNPTに加盟して「平和利用」を強調しているイランが強く非難されるのか。
・米印合意を疑問視する意見はある。インドは民主主義国だからよくて、イランは政治体制に不信感をもたれているから、疑惑が恐怖になっているのではないかなどともといわれる。しかし、イランにしてみれば自国なりの民主政治をしているのに批判されることへの反発がある。
・インドが認められるのは核保有国である中国への脅威が存在するからではないか。
・イランはNPT体制にもIAEAにも加盟し、保障上の義務は果たしていると主張している。そこがインドやパキスタンとは異なる。

Q:日本が厳しい態度をとる理由は何か。
・G7が経済制裁を実施しても、インドや中国が参加しないのでは効果が薄れる。安保理常任理事国である中国が制裁に参加しないなかで、日本がアザデガン油田の権益を譲るような形になってまでも制裁に参加する意義は何か。
・日本は唯一の被爆国であり、核廃絶への大義がある。NPTに加盟するときに日本は核の選択肢を放棄した。核のない、広がらない世界を実現しようとしてNPT体制を守る態度をとった。NPT体制に入っていながら従っていないイランの、国際秩序への違反を問題視していくことは日本にとって必要な態度である。

Q:イランの外交政策をどう評価するか。
・伝統のある国であり、もっと外交的かつ現実的な振る舞いをすれば評価されるのではないか。
・アフマディネジャード大統領の発言は、西欧のメディアが一部を切り取ったかたちで見れば過激な表現もあるが、全体を通してよく見ると、それなりに筋が通っていることもある。イランには独自の民主主義があるのであり、米国を頂点としたキリスト教文明が支配する世界の構図に風穴を開けようとしている。
・諸外国に丁寧に説明することをしないのが問題。自分たちが行っていることは最初から正しいと決めてしまい、理解者を作ろうとしない独善性が利益を損なっている。反面、日本はお人よしだが、信頼されて結果として利益を得る。
・イランはもっと世界と協調するという部分を前面に出すべき。EU3+3とイランは真摯な対話が成立しない関係になっているのではないか。例えばインドネシアが調停に入るなどの可能性は考えられないか。

Q:交渉がまとまる可能性はあるのか。
・2005年のIAEA決議の当時までさかのぼって核関連活動の実態を後戻りさせることは相当の抵抗があるであろう。では、どの部分までならば認められるのか。濃縮活動全体の停止か、産業規模での活動の停止か。
・現在まず求められているのは、今の段階で、とりあえず拡大を凍結すること。
・NPT体制のもとでの義務の履行がいちばんの根本であり、信用の部分をどこまで加えていくかが問題である。イランに要求する部分が増えてしまうと、追加議定書に入ったとしてもそれらの要求が満たされないうちはイランを信用できないことになり、交渉のハードルが高くなってしまう。
・10月1日のEU3+3の交渉は一定のブレイクスルーの可能性を見せた。米国が譲歩した結果である。
・しかし、他国の譲歩は引き出せていない。合意した2回目の交渉が実現していない。揺り戻しへの懸念がある。

Q:イランの核問題の状況は他の国際問題にどう影響するか。
・アフガニスタン戦略の見直しとの関連で、オバマ大統領にしてみるとアフガニスタン政策もイラン政策もうまくいかなかった、という結果になることは避けたいはず。

Q:イラン国内情勢をどう評価するか。
・イラン国内では世代交代が進んでいる。イラン・イスラム革命のときに大学生だった50代がいちばん原理主義的。アフマディネジャードもこの世代。自分たちがめざした革命が実現されていないことに不満を持っている。
しかし、その下の世代はわからない。ノンポリ・ノン宗教、保守派でも改革派でもないただ現状に不満を持っている人たちが増えているのではないか。
・イランの予測経済成長率は5.6%で失業率11%。経済的に困窮してはいない。
・イランにも欧米志向で留学帰りの人もいるので、もっと交流したほうがいい。

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