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中国海警局発足について

August 26, 2013

[特別投稿]川中敬一氏/東京財団上席アソシエイト

中国海警局の発足と概要

2013年7月22日、中国海警局が正式に発足した。発足直後の7月24日には新設中国海警局所属の船舶4隻が、尖閣諸島近傍の我が国領海に侵入した。その後、海警局所属船の尖閣海域領海ないし接続海域への侵入は8月17日まで常態化していた。

中国海警局所属船の尖閣海域(領海・接続海域)行動履歴
上表から理解できるように、海警局所属船といいながら、その実態は旧海監(国家海洋局所属)および旧漁政(農業部所属)の船舶の塗装、標章、船名を変更したに過ぎない。現段階における中国海警局の標章を掲げる中国公船の内、日本近海で活動する全てが非武装の非新造船である。 さて、この新しい中国海警局とは、いかなる組織なのであろうか。 まず、中国国務院が本年6月9日に発布した「国家海洋庁(*2)の主要職責と内設機構および人員編成規定」(以下、「規定」と記述)から、海警局の概要をまとめてみる。

1.国家海洋庁と海警局との関係


「規定」によれば、国土資源部が管理する国家庁としての国家海洋庁の一部局として海警局が設置されている。日本に例えると、内閣府の外局たる国家公安委員会や金融庁、国土交通省の外局たる海上保安庁に近似する位置づけにあるのが国家海洋庁であると理解することができる。そして、その国家海洋庁の一部局として海警局が設置されている。よって、上記組織図からも理解できるように、国家海洋庁と中国海警とを同一に格付けすることは適当ではないであろう。

国家海洋庁の主要な職責は、「規定」の第2項に明記され、それは10の分野にわたっている。ただし、海警局が10の各分野にどの程度関与して、いかなる権限を行使するのかは、現時点においては判然としない。もしも、10の分野全てに関わる司法警察行為を中国海警(局)が担当するならば、その権限は極めて広範にわたることになる。

2.海警局の職責と具体的権限

「規定」の第3項(4)には、海警局は、「海警隊伍が展開する海上権益擁護のための法執行活動の具体的業務の統一的指揮管理調整を担当」することが定められている。

「規定」の第5項(1)には、国家海洋庁は、「北海分局、東海分局、南海分局を設置し、所属海域の海洋監督管理と権益維持(のための)法執行職責を履行し、外に対しては(*4)中国海警北海分局、東海分局、南海分局の名義をもって海上権益維持(のための)法執行を展開する。」と定められている。同項(2)には、「国家海洋庁は中国海警局の名義をもって海上権益維持(のための)法執行を展開し、公安部の業務指導を受ける。」とある。 また、同項(5)には、国家海洋庁と海関総署との協力および業務分担原則が定められている。そして、同項(6)には、交通運輸部との関係において、「権益保護のための巡航法執行の過程において船舶および関連作業活動が生み出す海洋環境汚染を発見した場合、直ちに制止と現場調査証拠採取の措置を採らねばならない」と定められている。

更には、第2項(2)では、「(国家海洋庁は、)海上辺界を管理防護し、海上密輸、密航、麻薬密売等の違法犯罪活動を防止し打撃を加え、国家の海上安全と治安秩序を維持擁護し、海上重要目標の安全警護に責任を負い、海上突発事件を処置する。」と定められている。

以上の「規定」の記述から、注目を集めている中国海警(局)の具体的職責は、「規定」に定められた海警局所掌職責遂行に必要な範囲で、中華人民共和国人民警察法(以下、人民警察法)第2章第6条に定められた職責(*5)に準拠するものと推察される。これは、「規定」第5項(2)にある「公安部の業務指導を受ける」との記述からも類推することができる。

具体的職権としては、人民警察法第2章にある各種職権(*6)が付与されるものと類推される。その他、中国海警は、国土資源部、農業部、海関総署、交通運輸部、環境保護部と分業する国家海洋庁所掌職務を遂行する際にも、中国海警局は人民警察法第2章に準拠した権限を行使するものと推察される。

なお、海警局の武器装備問題に関して、国家海洋庁スポークスマンである石青峰は、本年3月20日に、「刑事(法執行権限)問題は関連する法律によって必ず明確にされねばならず、武器は非常に慎重に取り扱われるべき問題」(*7)であると述べた。したがって、人民警察法第2章第10条(使用武器)と規定と石青峰の発言から、中国海警局および所属船舶・航空機は、その職務権限を行使するのに必要と判断される武器を装備することが強く予測されるのである。現時点では、海警所属船にいかなる武器が装備されるかは不明である。ただ、中国が、アメリカの沿岸警備隊、日本の海上保安庁、韓国の海洋警察庁、アイスランドの沿岸警備隊に関心を寄せている(*8)ことから、これら組織に準じた武器の装備が構想されている可能性が考えられる。(*9)

中国海警局設立の背景と国防問題との関係

従来、中国の海洋法執行機関は、いわゆる“五龍”(*10)と呼ばれる5つの組織から構成されていた。こうした異なる部門に隷属した組織の鼎立状態は、重複した検査の問題が際立ち、コストが高く、保執行効率が低かった。これに加えて、各法執行力は相互に隷属関係にないので、管理機能は局限まで強く、法執行効果に影響を及ぼしていた。(*11)

他方、大型船舶を擁する中国海監と中国漁政は遠海で行動可能であったけれども、行政法執行権を有するだけで、中国の海洋権益を侵犯する外国船舶に対して刑事法執行権を行使する方法がなかった。また、刑事法執行権を有する海関海上密輸取締警察と公安辺防海警が装備する大型船舶は少なく、主として沿岸沿海で法執行していた。(*12)

このように従来の中国海洋法執行機能は、組織・制度的にも装備能力の面でも、均衡を欠く状態であった。そうした状態を打破して、効率的に近海・遠海において中国の海洋権益を擁護するための法執行能力を保有することが一義的目的となって、今回の国家海洋庁および中国海警局の創設となったのである。

もっとも、20世紀末には、中国は東海艦隊と南海艦隊とに編成して、専ら海上戦略防御を司らせ、国家海岸警備隊を組織建設して、沿岸水域と近海海域の一般的経済生産、海洋開発利用、海洋権益維持擁護等の大量の日常海上防衛任務を担わせる(*13)ことが、解放軍においては構想されていた。畢竟、海洋とりわけ近海および遠海における平時の法執行能力向上によって、人民解放軍海軍が純軍事活動へ専念できる環境を獲得する、という軍事的要求が、今回の措置の淵源とも言える点には留意する必要があるのかもしれない。 さて、本年2月19日に開催された年度業務座談会における国家海洋庁庁長である劉賜貴は、「海洋強国の建設は軍と地方政府双方の共同の歴史的使命であり、強大な海軍がなければ、強大な海洋法執行力はなく、海洋建設とりわけ海洋強国という目標を実現することは難しい」(*14)と提言した。これに対して海軍副司令である丁一平は、両者の研究・計画段階および非軍事的分野における包括的共同を推進することを述べたのにとどまった(*15)ことは、注目されてよいであろう。

ようするに、国家海洋庁としては、“海洋強国建設”事業において、海軍と同列に並んで参与したいのであろうが、海軍は、あくまでも国防は海軍が担い、国家海洋庁と中国海警局は法執行に従事することを期待しているように感得されるのである。

また、陸上の準軍事力たる中国人民武装警察部隊(以下、武警)は、国防法において明確に国家の武装力量と位置づけられ、国務院、中央軍事委員会の指導指揮の下で、国家が付与する安全保衛任務を担当し、社会秩序を維持擁護する(*16)と定められている。これに対して、国家海洋庁および中国海警局に関する法令では、同組織の国防に関わる任務規定は全く記述されていない。このことから、明確に軍事力と位置づけられている武警と異なり、現時点では中国海警局に対して制度的・法令的に国防任務は付与されていないと見なすのが妥当であろう。

ただし、事実上、中国海警は準軍事力として、中国の外交と軍事闘争準備のために融通をきかせる余地と有力な空間を提供する(*17)ことも事実である。したがって、国家海警局が第一線において権益維持のための法執行を行い、第二線が海軍である(*18)との見方も成立する。それゆえ、国家海洋庁に属する中国海警局と、人民解放軍海軍との任務活動の重複部分および分離する境界とを見極める努力が、中国近隣国にとっては自国周辺海域の安定に極めて重要であると言えよう。同時に、中国海警局に関する条項が国防法に加えられるか否か、「中華人民共和国人民武装警察法」に類似した法令が制定されるか否かもまた重要な視点であると言えよう。

  • (*1)『産経新聞』から作成。
  • (*2)日本では、「国家海洋“局”」と表記されている。しかし、本規定では、国家海洋局は、国土資源部という日本の「省」に相当する官庁の内部に置かれた「副部級」とされている。よって、日本語では、省内部に設置された外局たる「庁」が適当と思料される。
  • (*3)http://www.gov.cn/zwgk/2013-07/09/content_2443023.htm 「国務院辨公庁関与印発国家海洋局主要職責内設機構和人員編成規定的通知」(中国政府網、2013年7月9日)から作成。
  • (*4)原文は「外」。これを「外部に対して」と訳すべきか、「外国に対して」と訳すべきかは判然としない。
  • (*5)人民警察法第6条に定められた職責は以下のとおりである。    違法犯罪活動の予防、制止そして偵査、社会秩序の維持擁護、社会治安秩序に危害を与える行為の制止、交通安全と交通秩序の維持擁護、交通事故の処理、消防業務の組織、実施、消防監督の実行、銃器弾薬の管理、刀剣類と可燃物可爆物、劇薬、放射性等危険物の管制、法律、法規が規定する特殊業務に対する管理の実行、国家が規定する特定の人員の警護、重要場所と施設の警衛、集会、街頭行進、デモ活動の管理、戸籍行政、国籍出入国事務と外国人の中国領内での居住、旅行の関連事務管理、国(辺)境地域の治安秩序の維持擁護、管制、拘留、政治権利剥奪を言い渡された犯罪者と監獄外執行の犯罪者に対して執行する刑罰、減刑、仮釈放された犯罪者に対する監督、視察の実行、計算機情報システムの安全保護業務の監督管理、国家機関、社会団体、企業事業組織と重点建設工事の治安保衛業務の指導と監督、治安保衛委員会等の大衆的組織の治安防犯業務の指導。この他にも、日本の公務執行妨害罪(刑法第95条第1項)に相当する「人民警察執行職務の拒絶あるいは妨害への処罰」(人民警察法第35条)も、中国海警局に付与されるであろう強大な権限根拠である。なお、刑法犯罪に至らない行為に適用される「治安管理処罰法」も、中国海警局の司法警察活動根拠法令とされている可能性は高い。
  • (*6)「行政強制措置、行政処罰の実施」(第7条)、「拘留あるいは採取その他の法定措置」(第8条)、「現場尋問、検査と継続的尋問」(第9条)、「武器の使用」(第10条)、「戒具の使用」(第11条)、「拘留、捜査、逮捕あるいはその他の強制措置」(第12条)、「優先権」(第13条)、「保護性制限措置の採用」(第14条)、「交通管制」(第15条)、「技術的偵察措置の採用」(第16条)、および「現場管制」(第17条)が主たる職権として定められている。
  • (*7) http://news.xinhuanet.com/politcs/2013-03/20/c_115099202.htm?prolongation=1 「国家海洋局重組将明確海警局刑事執法権和武器配備問題」(国際在線、2013年3月20日)。
  • (*8) 「各国海上執法力量一瞥」『解放軍報』(2013年7月23日)。
  • (*9) http://xinhuanet.com/yzyd/mil/20130320/c_115088933.htm?prolongation=1 「中国海警局輿海軍形成梯次防衛体系」(人民網2013年3月20日)。この中で、羅援元海軍少将は、海警所属船搭載武器として、40ミリ砲、35ミリ・バルカン砲、30ミリ砲そして放水銃を例示している。
  • (*10)交通運輸部管轄下の中国海事局、農業部管轄下の漁政漁港監督部隊、海関(税関)総署管轄下の海上密輸取締警察部隊、そして、国家海洋庁管轄下の中国海監部隊を指す。(国家海洋局海洋発展戦略研究所課題組『中国海洋発展報告(2010)』(海洋出版社、2010年)441頁。
  • (*11)張軍社「専家解読「喜看“九龍”帰一」」『解放軍報』(2013年7月23日)。
  • (*12)同上「専家解読「喜看“九龍”帰一」」。
  • (*13)劉一建『制海権輿海軍戦略』(国防大学出版社、2000年)236頁。
  • (*14)http://xinhuanet.com/politics/2013-02/20/c_114735656.htm?prolongation=1 「海洋局輿海軍就海上維権挙行座談会 提出6点合作建議」(中国広播網、2013年2月20日)。
  • (*15)同上「海洋局輿海軍就海上維権挙行座談会 提出6点合作建議」。同座談会において、丁一平は、「一つは双方の戦略的協力の企画とメカニズムの万全化を着実に進め、二つは双方の連合権益のための法執行協力の深化を着実に進め、三つは海洋環境建設の共同推進を着実に進め、四つは海洋文化教育宣伝活動の展開を着実に進める」ことを提示したに止まった。こうした解放軍の思考を反映してか、最新版の中国国防白書である『中国武装力量的多様化運用』では、「公安辺防部隊は海上の重要な武装法(・・・)執行(・・)力量(・・)として、我が国の内水、領海、接続水域、排他的経済水域そして大陸棚における公安行政管理法律、法規、規則に違反する違法行為あるいは犯罪に至ると疑う行為に対して管轄権を行使する。」との表現で記述された。(中華人民共和国国務院新聞弁公室『中国武装力量的多様化運用(2013年4月)』(人民出版社、2013年)23頁。)
  • (*16)「中華人民共和国国防法」第3章第22条。(『中華人民共和国行政法大全』(法律出版社、2011年)48頁。)
  • (*17)前掲「中国海警局輿海軍形成梯次防衛体系」(人民網2013年3月20日)。
  • (*18)同上「中国海警局輿海軍形成梯次防衛体系」。
    • 元東京財団上席アソシエイト
    • 川中 敬一
    • 川中 敬一

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