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気候変動対策で対米協調に転じたインド

January 30, 2015

[特別投稿]竹内幸史氏/東京財団アソシエイト

地球温暖化と気候変動の問題で先進国がより大きな責任を果たすべきだと主張していたインドが、米国との協調路線に転換した。背景には、中国が2014年秋、温暖化ガスの排出量の削減方針を示し、米国に歩み寄った事情がある。今回は、孤立感を深めたインドが事実上、中国に追随した形だ。とは言え、貧困削減のために経済成長を優先したいインドの実情が変わったわけでない。どれだけ本格的な温暖化ガス削減に踏み出せるのか、見通しにくい。

オバマ大統領は温暖化問題を最重視

1月25日にニューデリーで行われたオバマ大統領とモディ首相の米印首脳会談で合意した。2020年以降の「ポスト京都議定書」の新たな枠組み合意を目指し、今年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で多国間の最終合意を目指し、米印が協力することになった。(*1)

オバマ大統領は今回の首脳会談で、気候変動問題を最も重視し、インドに温暖化対策に踏み出すよう圧力をかけてきた。大統領の任期も二期目の後半に入ったが、目に見える実績は少ないだけに、気候変動問題で成果を上げようという思惑もうかがえる。オバマ政権は石炭火力発電の規制強化に乗り出し、温暖化ガス排出について2025年までに2005年比で26~28%削減する方針を打ち出した。 大統領の考えは、27日にニューデリーで行った市民対象の講演に表れた。

「米国のような先進国がインドのような新興国に対し、化石燃料への依存度を同じように減らせというのは不公平だ、という議論があるのは知っている」

こう指摘したうえで、大統領は「海面上昇やヒマラヤ山脈の氷河溶解、予想が難しくなるモンスーン、サイクロン…。インド以上に大きな気候変動の影響を受ける国は他にない」、「米国はこうした問題を分かっているからこそ、温暖化対策を主導する」、「米国はインドが気候変動のインパクトに対応するのを支援し続ける。インドは一人で戦うわけでないのだ」と述べた。(*2)

「南北対立」が深刻化したリマ会議

一方、インドは気候変動問題の国際交渉で、2009年から中国、ブラジル、南アフリカの新興4カ国のブロックである「BASIC」を構成している。そこでは「共通だが差異のある責任」を主張し、開発途上国の「成長の権利」を訴えて来た。

また、インドは、中国のほか、サウジアラビア、ベネズエラ、マレーシア、スーダン、シリアなど産油国や反米感情が強い国々など20カ国以上で「開発途上国有志グループ(Like Minded Group of Developing Countries:LMDC)」を形成している。ペルーの首都リマで2014年末に開催された第20回締約国会議(COP20)では、米欧が合意形成を主導しようとしたのに対し、LMDCが団結して異議を主張し、「南北対立」の構図を深めた。LMDCは温暖化ガスの排出量削減目標の提出期限を設けることにも反対し、「パリ合意への道」の険しさを予想させた。

だが、インドと並ぶ途上国のリーダーである中国は、昨年11月に北京で行われた米中首脳会談で米国との協力に合意し、温暖化ガス排出量について2030年ごろをピークに削減する方針を示した。中国はやはり2030年ごろまでに全エネルギーに占める原子力や風力、太陽光発電など非化石燃料の比率を20%にする目標も打ち出した。

人口増加を支える成長を確保

米中の歩み寄りに、インドは強い孤立感を抱いた。温暖化ガス排出量では中国、米国が合わせて世界の約4割を占める二大排出国だが、インドはそれに次ぐ第三の排出国である。気候変動問題でインドは同じ「巨大な途上国」である中国と共同歩調をとってきた。 ところが、人口構成などから考えると、長期的な温暖化ガス排出の傾向は中印で大きく異なる。国連の推計によると、中国は2030年ごろに人口増加が14億5000万人程度で頭打ちになるとされる。こうした傾向に基づき、温暖化ガス排出削減の方向性を打ち出したものと考えられる。

これとは対照的に、インドは人口が増え続けて2030年ごろに中国を追い越し、2065年ごろに16億4000万人程度でピークを迎えると予想される。 インド政府は、そのころまで右肩上がりの経済成長を確保する責務があると考えている。シンクタンクの報告では、2040年にかけてインドでは主要国で最も高い年平均6.1%の経済成長が期待されるが、それには依然として石炭など化石燃料へのエネルギー依存が必要という。(*3) とすれば、温暖化ガス排出の総量を削減するのはきわめて困難だ。

米印首脳会議の共同声明では、米国が原子力、再生可能エネルギーなど幅広い非化石燃料のエネルギー開発を技術面、資金面で支援し、温暖化対策に協力することが確認された。 だが、膨大な貧困層を抱えるインドでは、国民一人当たりの二酸化炭素排出量(2013年)は米国17.6t、中国6.2tに対し、1.7tだ。実に米国の10分の一に過ぎない。長期的に見ても一人当たり5-6tを超えることはないという見通しがある。このため、インド国内では国の規模と貧困層の多さなどを考慮し、温暖化ガスの総量削減を一律に課すことがないよう「特別扱い」を求める声が根強くある。

オブザーバー研究財団のサミール・サラン副所長は「インドは大きな責任を伴う新興大国と、開発途上国というアイデンディティーの間でジレンマに直面している」という。(*4)

  • (*1)インド首相府HPから。 http://pmindia.gov.in/en/news_updates/joint-statement-during-the-visit-of-president-of-usa-to-india-shared-effort-progress-for-all/
  • (*2)ホワイトハウスHPから。 http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/01/27/remarks-president-obama-address-people-india
  • (*3) Bruce Jones and Samir Saran,“An ‘India Exception’ and India-U.S. Partnership on Climate Change”, http://www.brookings.edu/blogs/planetpolicy/posts/2015/01/12-india-us-partnership-on-climate-change-jones-saran
  • (*4)同上
    • 元東京財団アソシエイト
    • 竹内 幸史
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