2009年4月24日、3月に続き、有識者を交えての「生殖補助医療の規制に関する政策提言検討のための会議」を開催した。参加者は、医師、弁護士、宗教学者、社会学者、NPOスタッフ、マスコミなど多岐の分野に渡った。参加者は以下の通り。
参加者:光石忠敬(弁護士)、澤倫太郎(産婦人科医師)、水谷渉(弁護士)島田裕巳(宗教学者)、橋爪大三郎(社会学者)、鈴木良子(フリー編者・NPOフィンレージの会)、南砂(読売新聞社編集委員)、ぬで島次郎(東京財団研究員・研究リーダー)、洪賢秀(研究メンバー)、小門穂(研究メンバー)、大沼瑞穂(東京財団プログラム・オフィサー)
1 受精卵と精子、卵子の地位:人の始期はどこかという論点について
●人の胚にはどのような「地位」と「扱い」がふさわしいかをきちんと議論しておくことが、多様な生殖技術の是非を考えるうえでの前提になるとの意見が出された。
●臓器移植の是非を判断する際、脳死を人の死=人の終期として認めるかどうかが議論になるのと同じように、人の始期はどこかを決める議論を行うべきだとの意見が出された。
●胚は物でなく人に近い存在として扱われるべきだとすれば、他の不妊カップルへの胚の提供を認める場合、特別養子縁組に近い条件と手続きを課すべきだという議論になる。
●胚にどのような地位を認めるかという議論は、胚提供の是非に対する判断基準にはなるが、胚提供の是非は日本ではこれまで現実の問題として認識されてこなかった上、需要も非常に少ない。そのため、胚提供よりも、実際に問題にされている、代理懐胎や卵子提供の是非に対する判断基準にはならないとの指摘がなされた。
●現実に問題があるとすれば、売買を禁止すべきなのはどこまでかを決めなければいけないという点で、人の胚、精子、卵子の売買は禁止すべきだとの意見が大勢だった。
この点を、人の胚、精子、卵子にふさわしい扱いを考える具体的な切り口にすればよいとの指摘がなされた。
さらに、法的、倫理的問題とは別に、第三者の卵子や胚の提供を受け妊娠を試みると、異物に対する反応が強まり、着床段階などに様々な医学的異常が起こる頻度が高まるという最近の知見が披露された。
2 代理懐胎の是非について
これまで日本では代理懐胎を禁止する立法の提言はあったが、長く実現できずにいるうちに、容認する機運も一方で出てきた。だがそのための立法の検討はまだ行われたことがない。
そのため、今回は、代理懐胎を禁止する立場での立法事項の検討を行うとともに、認めるとすればどのようなルールが実際に必要かを突き詰めて考えることを試みた。
そこで禁止、容認双方の基本的論点として、おおよそ次のような議論が行われた。
代理懐胎禁止のための論点
●刑罰を科して禁じるのか
→誰が処罰されるのか(医師か、依頼者か)
金銭の授受や斡旋だけを処罰すればよいか
引き受けた女性は処罰対象から外してよいか
禁止すると外国に行く人が増える→国外犯処罰規定を設けるのか
●刑罰を設けず「行ってはならない」との宣言規定だけでよいか
→契約を違法とするだけだと当事者の保護がかえって行き届かなくならないか
●生殖技術を介し生まれる子については分娩した女性を母とすると決めるのが最適
→遺伝的事実や親になろうとする意思をどう考えるか
代理懐胎容認のための論点
●生殖技術利用により生まれる子を育てる意思のある女性を母とすると決めればよい=出産していない女性を母とする出生届を認める
●この場合、生殖技術の利用への同意は撤回できない、嫡出否認はできないとする
●代理懐胎を引き受ける女性は生まれる子の親になる意思を持つことは認められない
意思は客観的に証明される必要がある
●一件ごとの適正さを保障するため、家裁などによる審査を義務づけてはどうか
<どのような基準で審査するのか>
●代理懐胎を依頼できる人の条件:
医学的条件:不妊? 子宮を欠く? 不育症は?
社会的条件:特別養子制度の資格基準を準用? 事実婚は? 年齢制限?
国籍は?
経済的条件:生まれる子を育てるに足る収入等の資格?
●代理懐胎を引き受けることができる女性の条件
リスクや結果について正しい情報を得たうえでの自由な同意が大前提
医学的条件:健康状態や年齢などの欠格事由を決める?
社会的条件:既婚者? 出産経験や子持ちなどの資格制限?
経済的条件:実費だけでなく報酬を認める? 職業として認める?
●出自を知る権利:特別養子に準じ、産んだ女性の情報にたどれるようにする
以上の検討の結果、代理懐胎を容認するルールづくりを行うことも容易ではないとの認識が参加者の間で共有された。
また、そもそもの理念として、懐胎と出産という大きな負担を人に負わせてまで自分の子を得る権利があるのかという根本的疑問が出された。子の取引を禁じた子どもの権利条約に抵触しないかとの意見も出された。
3 議論をまとめる場のつくり方について
代理懐胎の是非などのルールの内容を検討するだけではなく、そこで検討された多岐にわたる論点に対する多様な意見を、どこでどのようにまとめていくかを考える必要もあるとの指摘がなされた。
それに対しては、立法案という形で提起し、社会の合意を最終的には国会でまとめていくのを求めるやり方が一番よいとの意見が出された。他方、法律をつくる必要はない、医学的問題、親子関係を中心とした法的問題、倫理的問題を分かりやすく組織的に情報提供する場を設け、あとは個々の当事者の適切な判断に委ねるのがよいとの意見も出された。
両者は二者択一ではないので、多様な論点と立場を提示する情報提供を行ったうえで、検討すべき政策オプションを提示する報告書を出すという方向で、これまでの議論をまとめることとした。
とりまとめ:ぬで島次郎(東京財団研究員・研究リーダー)