研究会概要
○場 所:東京財団A会議室
○出席者:
大塚 洋一郎 (NPO法人農商工連携サポートセンター代表理事)
吉澤 保幸 (場所文化フォーラム代表幹事)
関係省庁政策担当者
(東京財団)
赤川 貴大 (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
井上 健二 (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
冨田 清行 (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
議事次第
1.開会
○第4回研究会での議論等のレビュー
2.ゲストスピーカー報告
演 題::『持続可能な地域社会の実現とそれを支える新しい地域金融の在り方
~場所文化フォーラムの実践を通して~』
報告者:吉澤保幸 氏(場所文化フォーラム代表幹事)
3.報告を踏まえた質疑、意見交換
4.今後の研究会の予定等について
5.閉会
前回研究会の議論等のレビューを行った後、ゲストスピーカーの吉澤保幸氏(場所文化フォーラム代表幹事)から、場所文化フォーラムが推進している「とかちの・・・」や「高崎田町屋台通り」の取組並びに「ローカルサミットin松山・宇和島」での地域金融のあり方に関する議論を踏まえて、持続可能な地域社会の実現とそれを支える新しい地域金融の在り方についてご報告を頂き、その報告をもとに意見交換を行った。以下は主な内容である。
【ゲストスピーカー報告要旨】
○いのちの原点である農林水産業を起点に、既存資源を最大限に活用しつつ、もう一度新しい地域社会を創っていく必要があり、この文脈の中で、金融については、いわゆる資本の論理と一線を画す新しい金融の仕組みを作っていく必要がある。
○昨年秋の金融危機以降、経済効率性と利潤を追求する市場原理主義、グローバリズム、人間中心の物質文明が行き詰まりを見せている中、「確かな未来は懐かしい過去にある」という確信に裏打ちされた逆ビジョンを携え、水の文明、地球に祈る文明として縄文時代からの稲作漁撈文明の中で日本人が培ってきた地球環境と我々の暮らしを両立させる利他と慈悲の心に立脚した価値観を中心に据えながら、経済活動はいのちをつなぐ活動と位置付け、新たな生命文明への転換を図っていくことが必要。その時、助け合い金融の機能をも担った無尽・講などの伝統の叡智に学びつつ、グローバルマネーの複利・短期投融資の論理から脱却するローカルファイナンス(志民金融)を漸次、各地で、志民と地域金融機関、自治体との連携の中で創出していくことが必要。
○自然資源の無限性を前提とした、お金がお金を生み、信用・利殖を創造する従来の資本の論理を問い直し、お金の質を変えて、いのちをつなぐ道具としてお金の使い方が問われている。
○大恐慌でデフレが発生した時期、利子を外した地域通貨を導入し、いのちをつなぎ、雇用を生み、お金を廻し、デフレ的な状況を脱出したという先例もあり、過去の事例に学び直すことも大切。また、地域金融の原点である、相互扶助的な庶民金融の歴史にも学ぶことも重要。
〔参考情報〕
*独国のシュバーネンキルケンのヴェーラ、墺国ベルグルの労働証明書等。毎月額面金額の
数%の法定通貨を支払いスタンプを押さないと減価していくスタンプ貨幣で、労働者の給料等がこれで支払われることで、労働者ができるだけ早く使用し、これが呼び水となって、商流が生まれ、完全雇用の実現が図られた。
○利子を外した形で金融を考える、いのちの道具として上手く使うことを考えた場合、お金は実物として長期間に渡って価値を生むものに投資をする(=貯留)使い方ができる。講や無尽のような共済的なお金の使い方もできる。さらに、地域通貨のように、いのちを紡ぎ、繋ぐためのエンジンとして使うこともできる。その場合、お金ではない形での報酬をもらい、相互扶助の役割を果たすことが可能で、お金がお金を生むことを目的としないで、地域の雇用や事業継続、新しい人・物の流れが生まれてくる。
○川上(生産者)に寄ったところでコミュニティビジネスをつくり、それを支えるような地域のローカルファイナンスをつくっていく、それによって、財政部門に偏った政策自体が是正されていく、地域の中でお金を回し、そこで雇用を生む、ということが重要。
○地域デザインを考えていく上では、資本の論理とは一線を画し、いのちをめぐらせるという意味では、農林漁業・ものづくり、健康医療、教育・人材育成の「いのちの3分野」を地域の中核としての事業としてデザインし、地域金融機関も巻き込んでどうファイナスしていくか、また他の地域とどう関係性を繋いでいけるかが骨子。
○地域のローカルマネーフローを廻していくためには商流、地域でのにぎわいと交流人口が必要。農林漁業、ものづくりや観光資源を生かしながら、地域の食文化屋台事業、コミュニケーション創出事業、森里海のツーリズムを創出、その中で雇用を生み、それを支えるローカルファイナンスモデルをつくっていく。それが、場所文化フォーラム、場所文化機構の実践。
○地域を生かすためには、地域にある既存の資源、地域にしかないものを最大限使いこなすことに価値がある。地域の都市部が田舎の資源を活用しながらにぎわいを創出し、都市部と田舎がそれによってつながっていくような地域の姿を作っていく活動を展開。
○にぎわいと都会にある地域への入り口づくりを目的に取り組んでいるのが「とかちの・・・」。アンテナショップが各地の産品を都市部で消費してもらうための「出口」とするなら、「とかちの・・・」は都市から地域への「入口」。都会で地域のストーリーを含めた食文化を伝えることによって、地域に都会の人たちを送り出す、交流を生みだすことが目的。うそのない食文化を表現すると同時に、作り手のストーリーを伝え、生産者の作品、自然の恵みを提供する場。また、流通を変えることも狙っている。通常の流通を通さず、生産者と直接向き合い、農家の方々の想い、自然の恵みや厳しさを伝えている。ストーリーを伝えることで感動が生まれ、消費者と生産者の交流も生まれる。
○お金の質を変え、補助金に頼らない、自立したモデルの構築を目指したもの。運営主体と投資主体を分離、同時に、投資した人たちの想いは伝わるようにするため、LLC(合同会社)とLLP(有限責任事業組合)という2層のモデルをつくった。出資者は毎年現金での配当はもらわず、代わりに食事券「とかプチ」をもらい、オーナーとして「とかちの・・・」の場所や地域とのつながりを楽しんでいる。この事業には5年の期限が定められていて、一旦、清算されて次にテイクオーバーされていくことになる。形式的には、出資者は期限がくれば払い戻すことは可能だが、できるだけ払い戻さず、貯めておいてもらい、新しい場所文化のプロジェクトに再投資していく、長期にわたって地域の活性化や地域との関係性を自ら体験でき、様々な楽しさを味わうことができる仕組みとしている。株主間協定の中で、経営については、業務執行社員の2名に任せる、毎年の現金配当はない、5年後の払い戻しもできるだけしない、といった取り決めをしている。更に、準オーナーとしての、とかちの倶楽部会員にも加わってもらい、「とかプチ」を発行しているが、いずれ、関係する他地域の地域通貨や食事券と相互に流通していくことも展望した他(多)地域間で流通する擬似地域通貨モデルも組み込んでいる。
○「とかちの・・・」モデルを横に展開する形で、「高崎田町屋台通り」が今年12月にオープン予定。LLC、LLPをつくり、さらに、ふるさと雇用再生特別交付金を活用し、高崎に埋もれている資源を活用した様々なコミュニティビジネスを生み出すための人材を育成するCIPという仕組みを導入、10名程度の雇用を創出。
○高崎モデルでは、地元の地域金融機関もLLCに投資。この金融機関は配当に期待するのではなく、屋台プロジェクトに参加する屋台などの新規事業者やこれらを支える上州の生産者へのファイナスを期待。
○高崎の屋台村でも食事券を出し、その食事券は「とかプチ」とは相互互換の仕組みにしていく予定。「とかちの・・・」と屋台村が相互に連動することで、にぎわいをお互いに送り合うという仕組みを作りあげる予定。
○宇和島では、司馬遼太郎などが愛した、築後約100年の商人宿「木屋旅館」の再生に高崎と同様のモデルのファイナンスを構築し、取り組んでいく予定。
○複数の地域のこだわりの食文化を表現する「にっぽんの・・・」を、地域の金融機関や地域に想いをもつ方々からお金を集め、各地域の生産者から食とその背後にある食文化ストーリーを提供してもらう事業を展開。そして、都会の消費者には、日本の各地域を訪ねる複数の「講」のようなものを作り上げていき、相互交流を活発化させていきたい。
○富山の南砺では、古民家を生かした森里海のツーリズムの展開、屋台村や直売所の運営、地域内のレストランあるいは東京での食の提供をしていこうと、地元の有機野菜農家等を束ね、すでにLLCも立ち上げており、「にっぽんの・・・」との連携や人材交流も図っていく予定。
○マルシェジャポンでは、使用している4トントラックを場所文化機構がリースを組んでいることになっているので、来年以降、これを活用、全国をまわりながら、1つ1つ地域のにぎわいや交流を増やす場をつくり、それを支えるお金の仕組みを作っていきたいと考えている。
○医療・介護・福祉のまちづくりについても、それを支えるお金の仕組みができないか、検討中。さらに、地域金融機関や自治体を巻き込んだ形で、お金をプールし、有効活用する共同管理の仕組みを構築できないかも検討中。高い金利を求める代わりに、現物の供給やいのちをめぐるサービスの提供でよいとする無事で安心なお金を集め、それを上手く活用し、新しいコミュニティビジネスを創り、それによりIターン、Uターンの雇用を創出したり、貯めたお金の半分を地域通貨として、流通速度を上げて廻していくモデルを農林漁業、健康医療や教育分野でつくっていけないか検討中。
○バングラディッシュのようなアジア諸国の10-15%という高い金利を生かし、これらの国の信頼関係ある人に元本のお金を託し、その金利を原資に奨学金に活用したり、小規模なプライマリヘルスセンターを作るような、ODA的な世界ではない、アジアにお金を回す仕組みプライマリヘルスケア支援基金といった仕組みができないか検討中。
○1400兆円の金融資産の半分以上は高齢者、半分弱が高所得者が持っているが、これをどう若者の雇用の創造のために流し込んでいくか。食、農、健康医療・介護、教育の分野で、例えば、食・農では、にぎわいを作りながら安心な食の提供を屋台村など小さいところからやっていくことで、高所得者から若者へお金が流れ、若者の小さな雇用が生まれてくることにつながる。
○金融機関が地域の中でこれからどう生きていくか。地域なくして地域金融機関はないし、商流なくして金流はない。地域のことを本当に知っているのか、目に見える関係性を作っていく必要があるのではないか。リスクを他に押し付け、利益のみを追求するのではなく、間接金融を少し緩めた新たな直接金融的な、貯留的、投資的な仕組みを作っていく必要がある。
○志民、地域金融機関、自治体等目に見える関係性を持ちつつ、地域が自ら自立し、いのちを紡ぎ・繋ぐ、財・サービスの提供を実感する中で、お金を出し、廻す志民金融を作り、これを各地域で実践を積み重ねていくことが大事。
○相手を知り、無尽等の相互扶助の仕組みをもった、かつての金融の姿を取り戻し、相手と一緒にリスク・リターンを分かち、目に見える関係性を大切にする金融の仕掛けを設けることで、地域金融機関が地域にお金を廻す仕組みを作り上げることが必要。
○志民金融もいのちを巡らす手仕事の1つだとの認識を持ち、農林漁業・ものづくり、健康医療、教育のいのちをめぐる3分野を中心に、手作業・小さいを旨に、小さな雇用を創出し、これにより所得移転を図りながら、お金を循環させていくことが重要。
【意見交換ポイント】
○地域金融機関による地域再生・活性化のための取組支援として、例えば、高山信金では、1億円の基金をつくり、4%の高い特別の金利をつけて、その金利分をつかって地域に還元するといった取組を進めている。また、地域の課題解決を応援しようと、日本一汚いと言われた大和川の水質が改善されるに従い預金金利を上げたり、ごみ処理量が減るに従い預金金利を上げるといった取組を、個々の信金が進めている例もある。
○起業や雇用を創出する最初のイニシャル部分やつなぎが部分の手当てができていない。これまでの間接金融や直接金融の手法では難しい。愛媛銀行のガイヤファンドのような、少し直接投資的な仕組みが必要で、ハンズオン支援をしながら、新たなファイナンスにつなげていくような仕組みは参考になる。
○政策面では、金融業をスコアリング等の画一的な基準で縛りすぎている。中小零細事業などへのファイナスを中心業務とした地域金融機関に対しては、グローバルな世界のメガバンクとは違う基準(ダブルスタンダード)が必要。
○農林漁業を基盤とした地域の小さな金融機関は、第一次産業を核に雇用をどう生んでいくのかといった問題に直面しているところが多く、こうしたところから新しい動きがでてくるのではないか。
○戦略として、大きな投資の必要な事業を考えるのではなく、金融機関も出しやすい、目に見える関係性の範囲での小さな事業をたくさん創っていくことがポイント。
○高崎屋台田町通り事業の中で取り組んでいるコミュニティタレント・インキュベーション・プロジェクト(CIP)は、新規にLLPをつくり、「ふるさと雇用再生特別交付金」を活用し、新規に雇用をし、就農支援や屋台村運営事務局の運営、再生古民家を活用した旅館事業などに派遣し、人材を育てようという事業。受け入れる事業者等にとっては事業の立ち上げにかかる経費(人件費)の節減にもなるし、就業者にとっては、新たなコミュニティビジネスを立ち上げるノウハウを学ぶこともできる。コミュニティビジネスを継続的に作っていくためには人を回す仕組みを、物とお金を回す仕組みと合わせて作っていくことが大事。
文責:井上
〔参考:研究会配布資料〕
■ゲストスピーカー報告資料:『持続可能な地域社会の実現とそれを支える新しい地域金融の在り方-場所文化フォーラムの実践を通して-』【10.6MB】