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アメリカNOW 第1号「共和党と民主党の主要候補者をめぐるアイオワ現地報告」

November 5, 2007

2007年10月18日から21日にかけて、大統領選の党指名争いの開幕戦となる党員集会(コーカス)が開かれるアイオワ州を訪れ現地の大統領選挙情勢を調査した。今回のアイオワ出張は、アイオワ大学国際プログラム主催の学術会議においてパネリストとして口頭発表することを目的としたものであり、アイオワ大学の招聘によるものであった。この学術会議出席の出張期間を通して、アイオワ大学と州の政党関係者の協力で、アイオワ州の大統領選現地情勢を把握する機会に恵まれた。

1「アイオワ州の選挙民見取り図」州内地域ごとの政治傾向が理解の鍵

最初の党員集会(コーカス)が開かれ、指名争いに大きな影響を与えるアイオワ州であるが、当然のことながらアメリカ全体の政治実勢を縮図として均等に反映しているわけではない。中西部独特の歴史的、政治的背景の影響と無縁ではないアイオワの政治状況をまず確認しておくことが、アイオワを勝ち抜く候補者の属性や特性を占う上で肝要であろう。

アイオワを特徴付ける点に、中西部的なデモグラフィック要因があげられる。2004年の人口統計調査では、非ヒスパニック系の白人が州人口の9割を占めており、黒人は2%程度、ヒスパニック系は若干増大傾向にあるものの依然として3%前後にとどまり、アジア太平洋諸島系にいたってはそれ以下の1.4%である。つまりアイオワの政治動態を分析する上では、白人とその他マイノリティの対立軸という、デモグラフィック分布が多岐にわたるカリフォルニアやニューヨークなどの地域、なかんずく都市部のモデルをあてはめることにほとんど意味がなく、むしろ注視すべきは白人層内部の政治思想傾向にもとづく候補者への評価基準であるといえよう。

【「チョコチップ」のアイオワ州】

地元アイオワ州の政治学者や政党関係者によれば、アイオワは地域ごとに政治傾向が明確に異なる州であり、都市やエリアごとの地域政治性をてがかりに動向を分析するのが州の選挙民の投票行動理解への早道である。それは州内の各エリアとエスニシティの分布がかなりの程度符号しているためである。アイオワ州の政治関係者はこれを「アイオワはチョコチップクッキーである」と呼ぶ。メルティングポットへの対比で、州内での地域分住傾向が強いことを表す言葉である。2006年のデータで総人口は2,982,085人。この約半数が、州都デモイン、アイオワシティ(アイオワ大学所在地)、シーダーラピッズ、アーメス、ウォータルーで囲まれた円の中央部に居住している。連邦下院第3選挙区、連邦下院第2選挙区(ともに民主党議員)を含む地域である。この「アイオワ中央部」の特色は、アイルランド系、ローマカトリック教徒、労働組合メンバー、ブルーカラー労働者などに象徴されるもので、支持政党はアイオワシティを中心に民主党が主勢力であるが、共和党員も少なくない。しかし、この地域の共和党支持層は全米全体の共和党からすると極端に穏健な層に属する。アイオワ州は州知事(チェット・カルバー)と2人の上院議員のうち1人(トム・ハーキン)を民主党から輩出しており、このエリアの支持層が中心的基礎票となっている。特に連邦下院第2選挙区のジョンソン・カウンティはリベラル色が強く、ここで15期もの長期にわたり改選を重ねた共和党のリーチ下院議員はイラク戦争に反対した数少ない共和党議員であった。その穏健派のリーチも2006年の中間選挙では議席を失い民主党議員に交代した。

次に面積的には大きいのが「アイオワ下部」で、ミズーリ州境からデモイン、アイオワシティなどまでの高速道路I-80以下の部分である。大多数がアングロサクソン系である。テネシー、ケンタッキー、ミズーリといった隣接南部諸州からの移住者がこの地域に住み着いた。連邦下院第5選挙区(共和党議員)の下部である。そして州の両脇の「リバーエリア」である。文字通り東部境界のミシシッピー川、西部のビッグスー川とミズーリ川の周辺である。州右端の「リバーエリア」東部ウィスコンシン州、ミネソタ州境に顕著なのは、北欧スカンディナビア系の多さである。アイオワ州は南部文化と北部文化の境目にあるが、特に州北部はミネソタ州やウィスコンシン州との政治風土の類似性が高く、リベラルで穏健な政治傾向が特徴となっている。連邦下院第4選挙区(共和党議員)の一部と、連邦下院第1選挙区(民主党議員)を含む。他方、反対側左端の「リバーエリア」で特色すべきは西部スーシティから州上部までの地域である。ここはアイオワ州内で最も保守的なエリアでありオランダ系が大多数を占める。大半が宗教保守とされるグループである。連邦下院第5選挙区(共和党議員)の大部分を占める。

このようにアイオワ州は、白人人口が9割で南部と北部の狭間に位置する中西部州であるものの、州内での政治傾向が地域ごとにかなり分裂している州であることはあまり知られておらず、そのため候補者のキャンペーンの動員傾向をめぐる見通しでは、どの地域のどの都市でどの政党の候補者が行ったものなのか前提を確認しないと分析を誤ることがある。アイオワと一口にいっても広く、民主党支持者が半数以上のアイオワシティで手応えがあることと、保守的なスーシティで手応えがあることでは、候補者によって同じアイオワ戦でも「意味」が180度違う。

2「候補者動向」全米順位との差異の背景にアイオワ州独特の傾向も潜む

さて、このようなアイオワ州の特殊性を確認したうえで、各候補者の動向を読み解くために、今回各政党の関係者にインタビューを試みた。共和党側は共和党アイオワ州ジョンソン・カウンティ委員長のビル・キートル氏(弁護士)。民主党側は民主党アイオワ州前ジョンソン・カウンティ委員長でアイオワ党員集会と世論調査の専門家であるデイビッド・レッドロースク氏(アイオワ大学政治学部准教授)を中心にその周辺の関係者にも聴き取りを行った。

【共和党】

筆者のアイオワ滞在中、動向が激しかったのは共和党側であった。10月21日にブラウンバック上院議員が大統領選離脱を表明し、保守票の収容先選択肢が1つ減った。「ニューズウィーク」(US版, October 8,2007 )の調査では、アイオワ共和党員の支持率は、1位がロムニー前マサチューセッツ州知事(24%)、2位にトンプソン元上院議員(16%)、全米レベルでは善戦しているジュリアーニ前ニューヨーク市長が13%で3位。後にハッカビー前アーカンソー州知事が12%で続きジュリアーニと僅差であった。しかし、アイオワ大学が10月29日に発表した最新の調査では党員集会へのカウントダウンを控えさらにアイオワ独自の傾向が煮詰まっていることがうかがえる。ロムニーが36.2%で独走。ジュリアーニが2位に浮上したが、全米レベルでの人気には追いつかずわずかに13.1%。3位に躍り出ているのがハッカビーで11.4%。トンプソンは3位レースの圏外に転落した。

「最優先課題にテロ対策を求めながらジュリアーニを選ばずの矛盾」

アイオワの共和党支持者に見られる最大の特徴は、2007年10月までの段階で全米ではトップを走るジュリアーニの勢いがアイオワ州では発揮されていないことである。筆者がアイオワ入りする前日にジュリアーニもアイオワシティに入り講演を行った。州内でも最もリベラルなこの地域を人工妊娠中絶と同性愛を容認するジュリアーニとしては確保しておきたい戦術であり、地元紙「アイオワシティ・プレス・シチズン」の一面を飾った。しかし、地元ジョンソン・カウンティの共和党員によれば「ニューヨークから来た」というだけでアイオワでは拒否感を示す党員もいるとして、ジュリアーニに否定的な声が多数聞かれた。しかし、実際に集会に参加してジュリアーニに会ったアイオワ共和党員からは「実際に参加してみて候補者本人の熱意には圧倒された」という声が増加した。ジュリアーニは波瀾万丈の人生で知られ情熱的なスピーチも手伝ってか人物的魅力が大きく、クリントン元大統領と同じく直接会うとファンになってしまう傾向が高いとされている。しかし、アイオワ全体の保守層の間では拒否感は拭えていない。共和党幹部からはジュリアーニのエスニシティを皮肉る発言もきかれた。「大統領になれても負けても、それはジュリアーニがイタリア系だからだ」との見解がアイオワ州内で流布している趣旨は、ワスプから見てイタリア系の大統領が誕生することがどのように映るかのサイレントな本音も反映している。

また、アイオワ州共和党支持者が政策ではなく価値観をより重視していることも、ジュリアーニの弱点となっている。アイオワ大学の先の世論調査では、州内共和党支持者の政策関心事は1位がテロ(21.9%)、2位が経済(15.8%)となっているにもかかわらず、テロ対策を売りにするジュリアーニが善戦できていないところが注目点である。ジョンソン・カウンティ共和党委員長のキートル氏は、「アメリカ大統領になるには、知事、上院議員、戦争における国民的英雄などいくつかの必須要素があるが、例外はニューヨーク市長。ニューヨークは州知事よりも市長のほうが大変な職であることは周知されているし、市長としては世界的にも例外的存在であることは認める。しかし、それでもジュリアーニがここまで有力な大統領候補になれたのは、同時多発テロがニューヨークで任期中に起きたという偶然の後押し以外に理由がない」と述べている。また他の党委員からは、「アルカイダがジュリアーニを作り、彼をヒーローにしてしまった。その事実を一番知っている本人のジュリアーニはアルカイダになんという礼をいうのかあまりに皮肉だ」との声も出ている。犯罪対策など都市政策では異例の実績を積み重ねたジュリアーニであるが、都市部以外の共和党内部からしてみれば、テロの恩恵で偶然に全米で有名になった人に過ぎず、しかもテロが起きたときに市長の任にたまたまあったということでテロ対策の専門家ではないし、関心が国内の治安保持に偏りがちで中東含め外交政策は未経験、というシニカルな見方がアイオワのみならず共和党保守派内部中心に蔓延していることは注視しておくべきであろう。ちなみに前出キートル氏は財政保守派であるが(イェール大学ロースクール卒)、リバタリアンとは距離を置き孤立主義にも懐疑的であり、テロ対策を重視する上で対外関与も容認する立場であるというだけにジュリアーニ離れの傾向は象徴的である。しかし、アイオワ共和党はジュリアーニとマケインをアイオワでは善戦できないだろうがアイオワを取らなくても勝てる可能性がある集団として包括しており、今回の選挙ではアイオワ党員集会の結果が共和党候補指名とリンクしない可能性も感じ取っているため、民主党に比べて投票率が低下する可能性も指摘している。

「価値票の行方とモルモン問題」

このように、テロ対策重視と回答しながらロムニーを第一に選択するアイオワ州共和党支持者が重視するのは「モラルバリュー」である。ロムニーがモルモン教徒であることが、どう選挙戦で左右するかがアイオワの行方を占う上で主要な鍵となる。キリスト教の宗派のなかではかなり特異な存在で福音派のなかには「モルモンはカルトにすぎない」とすら断じる傾向があることは否定できない。それでも、ジュリアーニのような社会問題でリベラルな「マンハッタン・リパブリカン」よりは、人口妊娠中絶に反対を唱えてくれる信仰心の強い候補者を選びたいとするアイオワの保守層の現実的判断は根強い。「プロチョイスの候補者よりはモルモンでもいいからプロライフの候補者」という選択である。アイオワ大学の世論調査ではアイオワ州共和党支持者の44%が福音派プロテスタントの宗教保守派であり、南部ほどではないが社会問題での保守色は強い。

アイオワ州についてあまり知られていないことの1つに、ペンシルバニア州ランカスターやオハイオ州と並んで、大きなアーミッシュの集住地があることがあげられる。2004年の大統領選で激戦州オハイオを狙うためカール・ローブが、通常は選挙に投票しないアーミッシュにまで信仰票の集票を試みたことはあまり知られていないが、アイオワにもアイオワシティ郊外に2つアーミッシュの村が点在する。筆者は今回アイオワでそのうちの1つカローナのアーミッシュ村を訪れた。日曜日の教会帰りのタイミングに非アーミッシュの地域住民を間に彼らとコミュニケーションをはかったが、服装や家屋、馬車、農機具の質からして、過去に訪れたことがあるペンシルバニア州ランカスターのリベラル派アーミッシュに比べても相当に敬虔な保守派である。アーミッシュの集落の周辺をメノナイト派の非アーミッシュの住民が囲む居住形態がアーミッシュの村では一般的だが、アイオワでも例外ではなく敬虔なアーミッシュの周囲を敬虔なメノナイト派住民が取り囲んで居住している。州内で最もリベラルな大学町アイオワシティからわずか車で1時間でこのような集落が広がっていることは象徴的であり、この州でプロライフとして共和党候補を名乗ることが苦しい立場であることは容易に想像ができよう。

したがってロムニーはアイオワを取らねばならないし、取れて当然でもあるといえる。そのロムニーがジュリアーニやトンプソンに負け、アイオワで落としたらその先はないだろう。「南部の福音派にモルモン教徒の大統領を受け入れる用意はまだない」という共和党幹部の共通見解があるからだ。サウスカロライナは、ハッカビーとトンプソンが優勢との共和党内部での見解が根強い。他方、ニューハンプシャーはジュリアーニが優勢。ロムニーは2位に食い込めるかどうかである。深南部共和党は「もし共和党がモルモン教徒を指名したら来年の大統領選当日は投票を棄権する」という趣旨の共和党主流派に対する脅しともいえる意思を示す向きもあるという。「宗教と兵役」という南部共和党が候補者に求める重要な二大要素は、たとえ宗教保守の組織集票が仕掛人の1人であるローブの失脚によって失速しようと消えはしないであろう。このことを自らのモルモン人生で知り抜いているロムニーは、プライベートな信仰をひたすら覆い隠してきたために、かえって政治姿勢の一貫性への不信感を招いていることが弱点でもある。こうしたロムニーのモルモン問題に追い打ちをかけているのが、ハッカビーの追い上げである。ハッカビーはアイオワ共和党支持者内の4割に及ぶボーンアゲインの福音派内の絶大な支持でロムニーに迫っている。しかし、アイオワの福音派は党員集会に実際に出向く率が低い特色があり、ハッカビーが大規模な宗教保守動員をかけることがなければロムニーの優位は揺るがないと見られる。しかし、ロムニーが前出世論調査並みのマージンで勝利をおさめられなければ、アイオワ以後のロムニーの芽は限りなく消え、共和党のレースはかなりクリアに見えてくるかもしれない。

【民主党】

「民主党方式の党員集会では若年票の伸びがオバマの鍵に」

一方のアイオワ民主党は、党員集会の特殊性に着目している。それは2004年の選挙で世論調査では独走していたディーン前ヴァーモント州知事がアイオワ党員集会で負けたことに起因している。理由はディーンのGOTV(動員活動)の弱さであった。一口に党員集会(コーカス)といっても、共和党と民主党では方式が異なる。共和党はストローポールと呼ばれる出席者全員で決める方式だが、民主党はまずプリシンクトごとに代表を選ぶ。共和党はシークレット投票だが、民主党は誰を支持するか集会で表明しないといけない。この方式が意外に投票に影響を与えるという。アイオワ大学政治学部准教授で前ジョンソン・カウンティ民主党委員長のレドロースク氏は「党員集会は参加に時間や手間がかかる上に、人前で支持を表明しないといけない。これは大きな障害であり通常の投票と異なる。アメリカ人一般そうであるが、とくに地域コミュニティ内でアイオワ州民は自らの政治思想について公に立場を明確にしたがらない。党員集会の州でこういう傾向があるのは皮肉であるが、結果としてごく一部の恒常的に政治にコミットする者の票がカウントされやすい」と、インタビューに対して答えている。つまり、シークレット投票でない民主党では、党員集会と世論調査の結果に乖離がおこりやすいのである。こうした状況で一番票が減りやすいのは若年票(ユース・ボート)だという。若者は年配中心で運営している地域集落の行事に参加しない傾向が強く、実際に党員集会に足を運んでこうしたプロセスに参加する傾向には年齢差が影響するという。この傾向で一番割を食うのは2004年ではディーンであったし、今回2008年の選挙では若年層の熱意に支えられているオバマ上院議員であるという。

アイオワ民主党が注目している第二の点は、約50年ぶりの共和党の民主党の同時並行の大統領選による選挙戦の早期化と両党同時選の相乗効果の影響である。副大統領が大統領職を目指さない異例のケースのため共和党も予備選で指名を争う展開となった珍しいケースの今回、党員集会が1月3日に共和民主両党同時日に開催されることとなった。自らの支持政党の党員集会をより多くメディアで扱ってもらうために地域の党員たちは動きを活発化させている。投票率やボランティアの動きも記録的な高さが予測されていて、これまで無関心だった層にも関心が広がり、従来とは傾向のことなる結果が生じる可能性も指摘されている。しかし、結果がどのようになるかは予測不可能であり、推移の詳細把握に向け地元アイオワ大学も10月下旬から政党とは別に世論調査プロジェクトをスタートさせている。

「非主流候補の試金石としてのアイオワ」

アイオワで注目すべき第三の点は、これは民主党だけにとどまらない要素であるが、今年からの法改正によってアイオワ州ではレジストレーション(有権者登録)で、共和党と民主党以外を選択することもできるようになったことである。つまり、共和党や民主党以外のリバタリアン党や緑の党の支持者はそれ以外で登録してもよい。事実上大半の有権者は共和党か民主党で登録するのであり、これらの少数政党支持層が多数を獲得する可能性はゼロに近いが、制度改正を契機に二大政党以外で「登録してみたい」という有権者が共和党、民主党双方でどれだけ出るかが、それぞれ微妙な影響を与える可能性は無視できない。両党の有力候補へのアンチテーゼのデモンストレーションとして、下位候補の支持層があえて「それ以外」で登録する可能性をことさら懸念するアイオワの党関係者も多数みられた。その傾向の前哨として注視しておくべきは、リベラル派のクシニッチ下院議員とリバタリアンのポール下院議員への熱狂的な草の根運動である。アイオワ民主党ではクシニッチへの支持層も一定の割合で存在し、筆者の短期間のアイオワ滞在中に何度もクシニッチのバンパーステッカーやヤードサインを広範囲で目撃した。全米平均の支持率からしたらこれは珍しい光景である。また、緑の党と民主党オバマの支持層もかなりの程度重なっている。こうしたリベラル層がどのような登録を行うかも結果に影響を与えよう。

もちろんアイオワ民主党は全体としてはきわめて中道的であり、あるアイオワ民主党幹部は「アイオワは民主党でも反増税である」と述べているように、政府の過剰支出には懐疑的である。共和党側ではリバタリアンのロン・ポールが反イラク戦争で草の根の支持を拡大している。アイオワ州共和党関係者のブログで、党や候補者の陣営主催ではない草の根の支持者による会合の呼びかけが活発なのは、2007年10月までの段階ではポール支持者のブログである。アイオワは、豚、トウモロコシなどで全米一位の生産を誇る典型的な農業州であり富裕な大規模自営の割合が高く、北部には所得のきわめて高い共和党支持の財政保守の農家、酪農家も多数存在し、彼らのポピュリスト的候補者を求める風潮が無視できないという。アイオワは今回の大統領選でリバタリアン候補がどの程度現実味をもって全米レベルで迎えられるかの試金石になると共和党は考えている。

「政策より動員での争いに」

第四に、アイオワ州民は民主党候補について「政策上は現時点では各候補たいした差がない。少なくともアイオワ州の民主党員はそのように見ている」ということである。外交ではイラク撤退、内政では医療保険という大きな柱に変化はなく、結果として民主党各候補としてはあてにならない世論調査に惑わされずにどれだけ動員を固められるかが鍵であり、前倒しの地上戦が展開されている。ヒラリー上院議員は全米でもアイオワでもトップを走り続けているが、アイオワではヒラリー(31%)、オバマ(25%)、エドワーズ(21%)という「ニューズウィーク」の調査もありやや拮抗している。アイオワ大学の最新10月29日調査では、ヒラリー(28.9%)、オバマ(26.6%)、エドワーズ(20.0%)と20%台で並んだ。後続に、リチャードソンニューメキシコ州知事とバイデン上院議員が一桁台で続いているが勝利の可能性は薄い。追い上げを狙うオバマがアイオワ州内で一番数多く事務所の支部を開く一方、アイオワへの訪問回数ではエドワーズが一位を維持し続けるなど、3者争いが続いている。

選挙民が求める政策優先課題と実際に支持している候補者の間の矛盾は民主党にも見られる。34.9%のアイオワ民主党員が一番の優先課題に「イラク戦争」をあげているが、イラク戦争に当初から反対してきたことが差別化の強みであるはずのオバマが伸び悩み、「イラク戦争を最も重視している」との層でもヒラリーにリードを許している。このことから「イラク戦争問題」とは、少なくともアイオワでは、候補者の戦争への賛否をめぐる過去の議会での投票行動ではなく、今後の撤退をめぐる将来的問題として捉えられていることがわかる。アイオワ民主党支持者の2番目の優先課題は医療保険問題でありこのカテゴリーではヒラリーが圧倒的リードである。ただ、全米レベルでは黒人支持をヒラリーに大きく奪われていることがオバマにとって悩みの種の1つであったが、アイオワでは前述のように黒人票が限りなく少ないため、オバマのこの不安要素はアイオワでは生じない。事実上民主党側も上位3候補でのレースとなっているが、副大統領候補か国務長官など外交関係の椅子を狙う意図が見えるリチャードソンがあえて熱心にアイオワ入りしているのは興味深く、地元アイオワ民主党員の間でも普段アイオワで見かけないヒスパニック系政治家の訪問に人の輪ができるなど話題となっている。

以上見たようなアイオワの特殊性と州の共和党・民主党支持層の独自の傾向をふまえることが、今後の各候補者の動向を読み解く上で、またアイオワでの結果が今後の予備選や本選の展開にどう影響を与えるか占う意味で、少なくない意味を持つであろう。

以上


■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者

    • 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
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