■ 第5回 「税・社会保障制度の抜本改革」を考える討論会【日時】 2011年3月8日(火)18:00~20:00
【会場】 日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)
【発表者】 西沢和彦(日本総合研究所 主任研究員)
堀江奈保子(みずほ総合研究所 上席主任研究員)【コーディネーター】 亀井善太郎(東京財団研究員・政策プロデューサー)
【共催】 東京財団、(株)PHP研究所、構想日本、みずほ総合研究所(株)、(株)日本総合研究所
【議論に参加した国会議員】(50音順、敬称略)
阿部俊子(衆)、小川淳也(衆)、風間直樹(参)、河野太郎(衆)、階 猛(衆)、白石洋一(衆)、竹本直一(衆)、津村啓介(衆)、橋本 勉(衆)、谷田川元(衆)
討論会概要
第5回の討論会は、みずほ総合研究所 上席主任研究員の堀江奈保子氏(以下、堀江氏)、日本総合研究所 主任研究員の西沢和彦(以下、西沢氏)より、それぞれの税と社会保障制度改革に関する考えについて説明があった後、出席した国会議員による質疑応答、意見交換が行われました。
堀江氏からは高齢化率の上昇、高齢者扶養比率の大幅低下を受け、必要とされる年金制度改革に関する提言の説明がありました。世代間格差の是正を含む、国民が信頼・安心できる年金制度の構築が不可欠で、そのためには、基礎年金の全額税方式、報酬比例部分の被用者年金の一元化(国民年金第1号保険者の内の被用者は報酬比例部分に加入、国民年金も含めた一元化は中長期の課題に位置付け)を実施すべきというものです。併せて、報酬比例部分を圧縮し、私的年金の拡充を図ると共に、基礎年金の支給開始年齢の引き上げや年金課税・相続税の見直し等にも取り組むべきと訴えました。一方、第1号保険者の内の被用者を報酬比例部分に加入させると企業負担が増加してしまい、従業員雇用にもマイナスとの懸念も指摘しました。医療・介護保険分野では、税源の負担割合のあり方について問題提起がありました。
西沢氏からは、制度体系に議論が集中している年金改革の現状について、少子高齢化と低成長経済の下で持続可能性を確保するためには、むしろ年金財政への取り組みも不可欠と訴えました。具体的には、2004年改正の批判的検証と対応(マクロ経済スライド不発動の認識と対応、基礎年金の対応は別)、2009年財政検証のやり直し(保守的経済前提によるやり直し)、基礎年金拠出金の継続か否かを議論の起点とすべき(第3号被保険者等の不公平問題、制度のわかりにくさ等の原因)、与党案の大幅な軌道修正(最低保障年金は重要なコンセプトであるものの、所得比例年金の現実性の低さ、スウェーデン型を軌道修正しカナダ型に転換を)、野党の責任と期待(マクロ経済スライド不発動の問題提起と改善策提示、官僚によるものでない政治家自身の政策提示への期待)の5点です。とくにマクロ経済スライドについては、現在、政府で進められている集中検討会議における官僚の発言を見ても明らかなとおり、問題意識は見当たらないのは問題で、政治主導と言うからには政治家自身のチェックを求めました。同じく、同会議では、ハッピーシナリオに基づく09年財政検証を容認する委員発言もあり、これを容認している政治家の姿勢も問い質しました。
なお、議論の冒頭、私が、年金制度改革の検討案の一つとして、2008年12月25日に公表された与野党議員7名による提言を紹介しました。これは、賛否はともかく、今後の議論のたたき台として活用することができると考えたためです。
国会議員の参加は10名となり(出席国会議員の個別名は上記参照)、上記の説明を受け、年金制度の改革を中心に議員を交えた議論が展開されました。
世代間格差の是正(賦課方式への賛否は割れるも給付引き下げは不可避)
拡大する世代間格差の是正は、その必要性について参加議員で大筋合意したものの、その方策については意見が分かれました。現行の賦課方式では格差が拡大するばかりなので積立方式に移行すべきとの意見、たしかに賦課方式では格差是正できないが積立方式への移行が困難との意見、現行の賦課方式のままでも対応可能の3つの意見です。それぞれの主張は異なりますが、現行の賦課方式の継続を主張する議員でも、給付の思い切った切り下げは不可避であるとの認識が示されました。また、マクロ経済スライドについても、その必要性を共有すると共に、これを上回る引き下げも視野に入れるべきとの意見も出されました。
企業負担のあり方
堀江氏から問題提起のあった企業負担の拡大懸念については、単に企業に義務付けるだけでは企業のコスト負担増、ひいては従業員解雇につながる懸念があり、慎重な対応が必要との認識で一致しました。具体的な方法としては、総人件費を対象に賦課するなど、正規/非正規の格差を是正させる取り組みがそもそも必要との提案が出席議員からありました。
出席議員が独自の年金改革提案を提示
出席議員から独自の年金改革案が示されました。2008年12月の超党派議員提言と同様、税方式の基礎年金にクローバック(基礎年金受給者のうち前年度の総合所得が一定額を超えた人に限り基礎年金給付を超過額に応じて抑制する仕組み。カナダで導入されている。)を導入し、所得比例年金と組み合わせて年金給付の最低保障を確保するものです。具体的な数字も入ったものでしたが、その財政インパクトは明らかにはされませんでした。出席者の大半は目新しいものではないが、選択肢の一つとして考えるべき要素が含まれたものであると評価しました。
5回の討論会を経て見えてきたこと
私から、以下のとおり、一連の討論会を経て見えてきたことを示しました(詳細は第6回終了後公表)。
1. 「税・社会保障制度の抜本改革」は本当に最優先課題と認識されているのか
-政治家の関心がきわめて低い
2. 「社会保障政策」の枠組みを定義し、課題として認識すべきことを明らかにすべき
-年金、医療、介護ばかりではない問題の本質を
3. まずは年金制度の抜本改革から着手すべき
-与野党合意が可能なのは年金、医療・介護等は各党の主張が異なる
4. 方式論の神学論争をやめ、数字に落とした議論でなければ合意に至らない
-保険方式vs税方式では議論は深まらない
5. 抜本改革をやり抜くことこそが財政危機への対応につながる
-国民に負担を求められるか、政治の覚悟を市場は見ている
6. ロードマップ(いまできることばかりでなく、将来すべきこと)を明らかにすべき
-消費税引き上げの議論で終わらせてはならない
事実を踏まえた問題意識の共有化、同じ場で顔を合わせることの意義
世代間格差の議論は、西沢氏、堀江氏が示した数字をベースにしたため、問題の深刻さが明らかとなり、議員の問題意識の共有化が進みました。解決手法については意見が分かれましたが、意識の共有ができているために、解決策を見出し、合意できるのも時間の問題と感じられました。
出席議員から数字も入った提案が出てくるのは初めてで(すでに公表された提言を除く)、5回目にして、本討論会を積極的に活かそうとする議員の姿勢がようやく表れてきました。その一方、当初は、提案した議員自身、自分の提言と他の提言の違いを把握していない等、議員相互の考えの共有化が進んでいないことも明らかになりました。しかしながら、上に挙げた問題意識の共有プロセスと同様、お互いに率直な議論を交わすにつれて、大枠では重複していることに気が付くなど、同じ場で顔を合わせて議論することの重要性を認識することができました。
依然として、議員の参加は低調ですが、そもそも、本討論会を企画した意図である党派を超えて議員が「同じ場」に集まることの意義を強く認識した会となりました。議員からも「なぜ、この議論が国会でできないのか、それが問題だ」との指摘がありましたが、政局優先、ねじれ等、機能低下した国会ではなかなか議論が進まない現状です。本討論会に限らず、自由に議論できる場の設定がきわめて重要です。一連の討論会は次回をもってとりあえず終了しますが、引き続き、政策シンクタンクとして、その機能を果たしていきたいと思います。
東京財団 研究員・政策プロデューサー
亀井善太郎
■当日の資料等
* 堀江奈保子氏の配布資料はこちら
* 西沢和彦氏の配布資料はこちら
*「いまこそ、年金制度の抜本改革を。」―超党派による年金制度改革に関する提言― はこちら
* 小川淳也衆院議員の年金改革案はこちら
堀江氏からは高齢化率の上昇、高齢者扶養比率の大幅低下を受け、必要とされる年金制度改革に関する提言の説明がありました。世代間格差の是正を含む、国民が信頼・安心できる年金制度の構築が不可欠で、そのためには、基礎年金の全額税方式、報酬比例部分の被用者年金の一元化(国民年金第1号保険者の内の被用者は報酬比例部分に加入、国民年金も含めた一元化は中長期の課題に位置付け)を実施すべきというものです。併せて、報酬比例部分を圧縮し、私的年金の拡充を図ると共に、基礎年金の支給開始年齢の引き上げや年金課税・相続税の見直し等にも取り組むべきと訴えました。一方、第1号保険者の内の被用者を報酬比例部分に加入させると企業負担が増加してしまい、従業員雇用にもマイナスとの懸念も指摘しました。医療・介護保険分野では、税源の負担割合のあり方について問題提起がありました。
西沢氏からは、制度体系に議論が集中している年金改革の現状について、少子高齢化と低成長経済の下で持続可能性を確保するためには、むしろ年金財政への取り組みも不可欠と訴えました。具体的には、2004年改正の批判的検証と対応(マクロ経済スライド不発動の認識と対応、基礎年金の対応は別)、2009年財政検証のやり直し(保守的経済前提によるやり直し)、基礎年金拠出金の継続か否かを議論の起点とすべき(第3号被保険者等の不公平問題、制度のわかりにくさ等の原因)、与党案の大幅な軌道修正(最低保障年金は重要なコンセプトであるものの、所得比例年金の現実性の低さ、スウェーデン型を軌道修正しカナダ型に転換を)、野党の責任と期待(マクロ経済スライド不発動の問題提起と改善策提示、官僚によるものでない政治家自身の政策提示への期待)の5点です。とくにマクロ経済スライドについては、現在、政府で進められている集中検討会議における官僚の発言を見ても明らかなとおり、問題意識は見当たらないのは問題で、政治主導と言うからには政治家自身のチェックを求めました。同じく、同会議では、ハッピーシナリオに基づく09年財政検証を容認する委員発言もあり、これを容認している政治家の姿勢も問い質しました。
なお、議論の冒頭、私が、年金制度改革の検討案の一つとして、2008年12月25日に公表された与野党議員7名による提言を紹介しました。これは、賛否はともかく、今後の議論のたたき台として活用することができると考えたためです。
国会議員の参加は10名となり(出席国会議員の個別名は上記参照)、上記の説明を受け、年金制度の改革を中心に議員を交えた議論が展開されました。
世代間格差の是正(賦課方式への賛否は割れるも給付引き下げは不可避)
拡大する世代間格差の是正は、その必要性について参加議員で大筋合意したものの、その方策については意見が分かれました。現行の賦課方式では格差が拡大するばかりなので積立方式に移行すべきとの意見、たしかに賦課方式では格差是正できないが積立方式への移行が困難との意見、現行の賦課方式のままでも対応可能の3つの意見です。それぞれの主張は異なりますが、現行の賦課方式の継続を主張する議員でも、給付の思い切った切り下げは不可避であるとの認識が示されました。また、マクロ経済スライドについても、その必要性を共有すると共に、これを上回る引き下げも視野に入れるべきとの意見も出されました。
企業負担のあり方
堀江氏から問題提起のあった企業負担の拡大懸念については、単に企業に義務付けるだけでは企業のコスト負担増、ひいては従業員解雇につながる懸念があり、慎重な対応が必要との認識で一致しました。具体的な方法としては、総人件費を対象に賦課するなど、正規/非正規の格差を是正させる取り組みがそもそも必要との提案が出席議員からありました。
出席議員が独自の年金改革提案を提示
出席議員から独自の年金改革案が示されました。2008年12月の超党派議員提言と同様、税方式の基礎年金にクローバック(基礎年金受給者のうち前年度の総合所得が一定額を超えた人に限り基礎年金給付を超過額に応じて抑制する仕組み。カナダで導入されている。)を導入し、所得比例年金と組み合わせて年金給付の最低保障を確保するものです。具体的な数字も入ったものでしたが、その財政インパクトは明らかにはされませんでした。出席者の大半は目新しいものではないが、選択肢の一つとして考えるべき要素が含まれたものであると評価しました。
5回の討論会を経て見えてきたこと
私から、以下のとおり、一連の討論会を経て見えてきたことを示しました(詳細は第6回終了後公表)。
1. 「税・社会保障制度の抜本改革」は本当に最優先課題と認識されているのか
-政治家の関心がきわめて低い
2. 「社会保障政策」の枠組みを定義し、課題として認識すべきことを明らかにすべき
-年金、医療、介護ばかりではない問題の本質を
3. まずは年金制度の抜本改革から着手すべき
-与野党合意が可能なのは年金、医療・介護等は各党の主張が異なる
4. 方式論の神学論争をやめ、数字に落とした議論でなければ合意に至らない
-保険方式vs税方式では議論は深まらない
5. 抜本改革をやり抜くことこそが財政危機への対応につながる
-国民に負担を求められるか、政治の覚悟を市場は見ている
6. ロードマップ(いまできることばかりでなく、将来すべきこと)を明らかにすべき
-消費税引き上げの議論で終わらせてはならない
事実を踏まえた問題意識の共有化、同じ場で顔を合わせることの意義
世代間格差の議論は、西沢氏、堀江氏が示した数字をベースにしたため、問題の深刻さが明らかとなり、議員の問題意識の共有化が進みました。解決手法については意見が分かれましたが、意識の共有ができているために、解決策を見出し、合意できるのも時間の問題と感じられました。
出席議員から数字も入った提案が出てくるのは初めてで(すでに公表された提言を除く)、5回目にして、本討論会を積極的に活かそうとする議員の姿勢がようやく表れてきました。その一方、当初は、提案した議員自身、自分の提言と他の提言の違いを把握していない等、議員相互の考えの共有化が進んでいないことも明らかになりました。しかしながら、上に挙げた問題意識の共有プロセスと同様、お互いに率直な議論を交わすにつれて、大枠では重複していることに気が付くなど、同じ場で顔を合わせて議論することの重要性を認識することができました。
依然として、議員の参加は低調ですが、そもそも、本討論会を企画した意図である党派を超えて議員が「同じ場」に集まることの意義を強く認識した会となりました。議員からも「なぜ、この議論が国会でできないのか、それが問題だ」との指摘がありましたが、政局優先、ねじれ等、機能低下した国会ではなかなか議論が進まない現状です。本討論会に限らず、自由に議論できる場の設定がきわめて重要です。一連の討論会は次回をもってとりあえず終了しますが、引き続き、政策シンクタンクとして、その機能を果たしていきたいと思います。
亀井善太郎
■当日の資料等
* 堀江奈保子氏の配布資料はこちら
* 西沢和彦氏の配布資料はこちら
*「いまこそ、年金制度の抜本改革を。」―超党派による年金制度改革に関する提言― はこちら
* 小川淳也衆院議員の年金改革案はこちら