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【開催レポート】第4回「『税・社会保障制度の抜本改革』を考える」討論会

March 1, 2011

■ 第4回 「税・社会保障制度の抜本改革」を考える討論会

 【日時】 2011年3月1日(火)18:00~20:00

 【会場】 日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)

 【発表者】 伊藤元重(東京大学大学院教授、総合研究開発機構 理事長)
        森信茂樹(東京財団上席研究員、中央大学法科大学院教授)

 【コーディネーター】 亀井善太郎(東京財団研究員・政策プロデューサー)

 【共催】 東京財団、(株)PHP研究所、構想日本、みずほ総合研究所(株)、(株)日本総合研究所

 【議論に参加した国会議員】(50音順、敬称略)
  阿部俊子(衆)、風間直樹(参)、河野太郎(衆)、階 猛(衆)、白石洋一(衆)、津村啓介(衆)、遠山清彦(衆)、橋本 勉(衆)

 

討論会概要

第4回の討論会は、東京大学大学院教授の伊藤元重氏(以下、伊藤氏)、東京財団上席研究員の森信茂樹氏(以下、森信氏)より、それぞれの税と社会保障制度改革に関する考えについて説明があった後、出席した国会議員による質疑応答、意見交換が行われました。

伊藤氏からは、我が国の財政がきわめて厳しい状況にあるにも関わらず、政治が本問題に取り組む意志を示せていない現状のままでは、財政危機は国全体のマクロ経済危機となり、金融危機に至るとの懸念を示しました。また、そもそも、現状の問題は単に財政危機にとどまらず、日本経済全体の構造問題として認識すべきとも指摘しました。具体的には、企業の預貯金残高が過去最高水準にあること、家計部門も過剰に金融資産を積み上げてきていることなど、将来不安が支出を抑制し、結果として内需がふるわない現状にあります。「痛み」を伴わなければ変われないのではなく、本問題に政治が取り組む姿勢を打ち出すことが重要で、大きな岐路に立たされていると訴えました。

森信氏からは、まず、税・社会保障一体改革においては、社会保障の拡充と安定財源の確保、そして財政再建を目標とすべきであり、その際、いわゆる”請求書方式”(社会保障の充実のためにはこれだけの財源が必要だから、それに見合う消費税率アップが必要という方式)は取るべきでないと主張しました。その理由としては、社会保障の「効率化」(私的年金の拡充など)が不可欠であること、デフレ経済下にあることなどを挙げました。消費税の引き上げのタイミングについては、政令に委任しデフレ脱却宣言と連動させるなど、経済に十分な配慮が不可欠としました。また、消費税率アップの際に課題となる逆進性対策については、軽減税率を採用するのは問題が多く、給付付き税額控除が有効であると示しました。加えて、給付付き税額控除であれば、勤労税額控除によって、セーフティネットとしてばかりでなく、労働意欲も促し、結果として財政としては、社会保障の「効率化」を実現できる優れた政策であると主張しました。

国会議員の参加は8名となり(出席国会議員の個別名は上記参照)、伊藤氏、森信氏それぞれの説明を受け、議員を交えた議論が展開されました。

最低保障年金・給付付き税額控除

最低保障年金の導入については、老後生活を保障させる政策の必要性に対する認識は共通していたものの、これを年金制度の下で行うのか(財源は保険料あるいは税でも意見は異なる)、他の制度で担うのか、意見が分かれました。

給付付き税額控除の導入についても意見は分かれましたが、単に高齢者のみならず、若年層に対するセーフティネットとしての活用への期待が寄せられる一方、所得把握の限界に対する指摘もありました。

社会保障の「効率化」が重要

社会保障の「効率化」ついては、多くの意見が出されました。この内、私的年金の充実については出席者全員が賛成しており、具体策としての検討が求められます。また、年金給付年齢の引き上げについても賛成が多いものの、現実的な導入の難しさも共有されていました。このほかにも、とくに医療分野を中心に、社会保障の「効率化」は進められなければならず、あらゆる分野での検討が求められるとの意見が大勢を占めました。

資産課税の拡充にも賛意

金融資産課税、死亡時消費税など、資産面の課税強化の必要性について、参加議員の全てから賛成意見が聞かれました。個別には導入に際してのハードルに関する懸念は示されましたが、給付付き税額控除と同様、制度導入の前提となる納税者番号制度の導入にも賛意が示されました。

財政危機への対応は政治の踏み込みが求められる

財政危機に関する深刻さは出席議員のすべてが共有するものであり、負担を先送りし、給付ばかり先行させてきた政治に対する反省の声もありました。消費税率をアップできた場合に社会保障に限定して使うのか、一部を財政再建に回すのか、意見は分かれましたが、社会保障に回すとしても、長年にわたって、政治が取り組むことができなかった「税金を上げること」に踏み込むことがマーケット等に対する大きなメッセージになると伊藤氏は主張されました。

併せて、消費税率アップ分の地方への分配については、既存の枠組みにこだわらず、実態面を踏まえた配分で地方との協議を進めるべきとの数字も含めた具体的な問題提起が出席議員より出されました。

数字に落とし込まねば議論は深まらない

これらの議論を進める中、大きな壁となったのは、「具体的な数字が無いこと」です。

最低保障年金を導入するならば、最低保障する水準はどの程度とするのか。財源で見た場合、税あるいは保険料を、それぞれどのくらい充てるのか。クローバック(高額所得高齢者への課税強化あるいは年金減額)を導入するならば、どの所得にどのくらい課税するのか、結果として、どの程度の財源を確保できるのか。等、具体的な数字がないために、議論が深まらずに、税か・保険か、自助・共助・公助といった抽象的な神学論争に陥ることがしばしばありました。また、実際のところ、同じことを言っているのに、数字がないために議論が噛み合わないこともありました。

政府における検討もそうですが、抽象的な議論を収束させ、党派を超えた協議を経て、精緻な政策に落とし込むためにも、国民への説明力を高めるためにも、ベースとなる数字(現時点および将来予測)の提示は不可欠です。政府与党における迅速な対応が求められます。

以上、出席した国会議員にはそれぞれの主張はあるものの、個々の論点の対立、合意ポイント、現在の政府の進め方に対する問題提起など、充実した議論になったと思います。(個々の発言の詳細は議事録あるいは中継録画をご覧ください)

本討論会の参加こそが国会議員への試金石

今回で4回目となる討論会ですが、国会議員の出席が8名でした。前回に比べれば増加したものの、依然として、700名以上いる議員のごく一部にすぎません。

ペーパーメディア、インターネット等も含め、世間の本討論会への関心は高まってきています。様々なルールがある国会での議論とは異なり、有識者や国会議員相互の率直な質疑や討議は、本件に対する議員自身の理解を深めると共に、国民にも、本問題に真正面から向き合い、議論を深めている様子が伝わり、政治の信頼回復にも寄与するものだと思います。第1回から傍聴されている方からは、昨日の議論の中で、自分自身の考えをわかりやすく示すために図表を自ら描いて説明した国会議員の姿に、国会ではあり得ないシーンだと討論会の意義を、そして、その姿に国民の代表としての信頼を感じたとのご意見もいただきました。

本討論会の案内は、毎週、議員会館のそれぞれの議員の事務所にファックスしています。間違いなく各事務所に届き、議員のスケジュールの選択肢の一つとして、その参加は議員の判断に委ねられています。火曜日の夕刻に設定したのは、公務がなく、国会議員がもっとも出席しやすい時間だからです。国会議員が数あるスケジュールの中から本討論会を選ぶかどうかは議員自身の政治判断です。国民の期待が極めて大きく、管総理も政権の重要課題と掲げているからには、それなりの関心がなければいけません。

本討論会は、「税と社会保障制度の抜本改革」という重要課題に政治家がどう向き合うかを明らかにする試金石でもあります。引き続き、国会議員への参加を呼びかけながら、本問題に関する論点も明らかにしていきたいと思います。

東京財団 研究員・政策プロデューサー
亀井善太郎


   <議事録はこちら>

   <録画はこちら>

  

■当日の配布資料

   * 森信茂樹 東京財団上席研究員の配布資料:「社会保障・税一体改革を考える」はこちら

   * 伊藤元重 東京大学大学院教授の配布資料:
    「財政を問う(上)―「閉塞感の中の安定」続かず」(2月16日付『日経』経済教室)はこちら

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