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【アメリカ大統領選 論調Update第1回】パンデミック分断浮き彫りに
写真提供 Getty Images

【アメリカ大統領選 論調Update第1回】パンデミック分断浮き彫りに

May 15, 2020

世界が注目する2020年11月のアメリカ大統領選挙。アメリカ国内では今、何が論点となり、どのように論じられているのでしょうか。主要メディアによる記事や、シンクタンク報告書、学術論文の要点など、アメリカ国内の最新論調をわかりやすくまとめ、シリーズで紹介します。



アメリカ政治のイデオロギー的分極化が進んでいると指摘されて久しい。新型コロナウイルスの感染拡大によって、その分断・対立がまたもやあらわになった。経済活動の再開を訴える保守派と外出制限の継続を主張するリベラル派の対立の高まりを、ニューヨーク・タイムズ紙の政治記者リサ・レーラー氏は5月7日のコラムで「新たな文化戦争」と表現した。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、5月13日現在、新型コロナウイルスによるアメリカ国内の総死者数は8万2000人を超えている。感染が拡大する中、多くの州では州知事による在宅命令が出されており、郡や自治体レベルではより厳しい規制も実施されている。

このような厳しい外出措置への反発から、全米各地で抗議活動が多発している。4月15日に行われたミシガン州での抗議は、民主党のグレッチェン・ホイットマー知事が出した在宅命令が行き過ぎであるとして、自家用車で集合し渋滞を起こすという形で行われた。主催者により「オペレーション・グリッドロック」と命名されたこの抗議行動は全米で注目され、各地の抗議活動の皮切りとなった。注目すべきは、これらの反ロックダウン抗議活動が、経済生活上の不安感と同等以上に、政治的保守主義のイデオロギーに基づいていることだ。

外出制限に反対する保守派の論理には、経済へのダメージの他に2つのポイントがある。1つ目は、州政府の措置が権力の濫用であり、合衆国憲法によって保障されている個人の権利を侵害しているとする主張だ。保守派の中でも個人の自由を最重要視するリバタリアニズム(「自由至上主義」と訳されることもある)の立場をとるランド・ポール上院議員は、保守系FOXニュースに寄稿したオピニオン記事において、民主党の州知事たちが公衆衛生を名目として皇帝であるかのように専制的に振る舞い、かつての東側諸国のように市民の相互監視を奨励していると厳しく非難している。2つ目の論点は専門家や官僚制に対する根深い不信感だ。著名なテレビ司会者であるタッカー・カールソン氏は同じFOXニュースのオピニオン記事で連邦政府のコロナウイルス対策チームを率いるファウチ博士を批判し、選挙で選ばれていない専門家に大きな権限を持たせるべきでないと警告した。個人の経済活動の自由や政府への不信感を強調するこれらの議論は、およそ10年前にオバマ政権の「大きな政府」路線を批判したティーパーティー運動の主張と重なるところが大きい。

他方でリベラル派は、トランプ大統領が民主党知事を攻撃するために非科学的・陰謀論的主張を含む抗議活動を煽動していると非難する。4月中旬、トランプ大統領は民主党員が州知事を務めるミネソタ、ミシガン、ヴァージニアの3州を「解放せよ」とツイートして物議をかもした。抗議の矛先はほとんどの場合州政府に向けられており、デモ隊の中にはトランプ大統領支持の旗やプラカードを掲げる人も多い。

また、保守派の富豪が資金を提供する政治団体が抗議活動を陰に陽に支援していることもリベラル派の攻撃材料の一つとなっている。ワシントン・ポスト紙は4月22日の記事で、保守派の政治活動組織コンヴェンション・オヴ・ステーツやリバタリアン系のフリーダム・ワークスなどが州政府の措置に不満を持つ個人を結びつける役割を果たしていると報じた。「草の根」の保守派運動は実は富豪に操られた「人工芝」運動ではないかという批判もティーパーティー運動を彷彿させる。

21世紀最大の公衆衛生上の危機も、アメリカ国民の結束を促すことなく、分断の図式に回収され、対立を再生産していく。再選を目指す共和党・トランプ大統領と政権奪還を目指す民主党・バイデン候補は、それほどまでに根深い分断の中で選挙戦を展開していくことになる。

  


 ◇参照記事◇

    • 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
    • 宇野 正祥
    • 宇野 正祥

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