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【経済論文レビュー第3回】新型コロナウイルスの出口戦略
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【経済論文レビュー第3回】新型コロナウイルスの出口戦略

July 17, 2020

日本では緊急事態宣言が全国的に5月25日に解除され、世界各国でも外出禁止令を解除する動きが出るなど、新型コロナウイルスの流行について一段落したかのような印象を受けます。 一方で、全世界の感染者数はいまだ発展途上国を中心に増加傾向にあり、また厚生労働省が6月16日に発表した抗体検査の結果(https://www.mhlw.go.jp/content/000640287.pdf ) では抗体保持者率は東京で0.1%、大阪で0.17%程度と大半の人が抗体を保有しておらず、緊急事態宣言の解除に伴い経済活動が活発化するにつれ再度の感染拡大が懸念されています。 再度の感染拡大やそれに伴う外出自粛の可能性が残る中では将来の不確実性が大きく、経済活動の再開に大きな足かせとなってしまいます。 経済論文レビュー第三回の今回は、新型コロナウイルスの流行をどう終えるかについて、出口戦略を考察した以下の論文を取り上げたいと思います。

Karin, O., Bar-On, Y. M., Milo, T., Katzir, I., Mayo, A., Korem, Y., Dudovich, B., Yashiv, E., Zehavi, A. M., Davidovitch, Z., Milo, R., & Alon, U. (2020). Adaptive cyclic exit strategies from lockdown to suppress COVID-19 and allow economic activity. medRxiv. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.04.20053579v4

Krueger, D., Uhlig, H., & Xie, T. (2020). Macroeconomic dynamics and reallocation in an epidemic (No. w27047). National Bureau of Economic Research. https://www.nber.org/papers/w27047

要約

  • 緊急事態宣言は解除されるも、再度の感染拡大のリスクは健在
  • 出口戦略として、周期的なロックダウンと接触減少社会への移行を取り上げた論文を紹介
  • 経済への悪影響を最小化しつつ感染拡大防止を達成する出口戦略が必要

周期的なロックダウンによる感染拡大防止と不確実性減少

Karin et al. (2020) では、周期的なロックダウンを提案しています。具体的には、2週間ずつのサイクルで、最初4日間は働き、その後10日間はロックダウンを行う、というものです。このようなサイクルを組むメリットは感染拡大を防止するとともに不確実性を減少させることです。最初の働いているフェーズで感染したとしても発症までには時間があり、即座に他者に感染させる状態にはならず、多くの場合外出自粛の間に回復し、他者に感染させずに免疫を獲得することができます。また、予め決められた周期でロックダウンを行うことで、完全なロックダウンに比べて4日間は働くことができるだけでなく、第二波の到来や再度の外出禁止の必要な状態などを防ぎ、将来の計画が立てやすくなります。これにより、不確実性の減少を通じて経済へのダメージを最小限に留めることができます。このサイクルを通じて感染者一人が何人に移すかを表す実効再生産数を1未満に引き下げ感染症拡大を防止し、その間にワクチンの開発や治療法の確立、あるいは集団免疫による感染収束を目指す、というのがこの論文での出口戦略になります。

接触を減らす社会への移行

一方で、Krueger et al. (2020)では、経済活動がより接触の少ない活動に向かうことで政策介入がなくとも感染が減少していく、という非常に強い結論を導いています。彼らの論文では、消費活動によって感染者と接触することで感染症が拡大するという、感染症から経済、のみならず、経済から感染症へのフィードバックを取り入れたモデル[1]を基礎に、消費活動を接触の多い部門と接触の少ない部門の2つに区分しています。接触の多い部門の財の消費を少ない部門の消費で完全に代替させることができるのであれば、免疫を持たない人は接触の少ない部門の財のみを購入し、接触が減少することで新規感染が減少していきます。シミュレーション結果によると、接触の多い部門の消費を少ない部門の消費で代替させる場合、そうしない場合と比べ、GDPの減少量を80%程度小さくするとともに、死亡率も50%程度減らすことができます。 この論文のモデルは、接触感染を避けるという点で、新型コロナウイルス感染症専門家会議により提案された「新しい生活様式」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html )に似たものでありますが、それが個々人の自発的な選択の結果として達成されることを示しています。

現実にはそこまでスムーズに部門間の移動が進むでしょうか。現状では対面での面接が難しいため新規採用ができないなど、労働者の部門間移動がスムーズに行かない可能性が考えられます。 また、東京都で「夜の街」クラスタが緊急事態宣言解除後に確認されるなど、部門間移動がスムーズにいったとしても消費者側の財の代替性が低いために接触率の高いセクターに留まる可能性もあります。 前者であれば部門間の移行に対する政府による支援が必要であると考えられますし、後者であれば接触率の低い部門への移行は自発的に起こらないため、別の手立てが必要になります。

まとめ:感染拡大防止と経済への悪影響

本稿では新型コロナウイルスに関する出口戦略として、周期的なロックダウンと接触を減らす社会への移行を提案した論文を取り上げました。両者に共通するものとして、どちらも感染拡大防止のみならず経済への悪影響をなるべく少なくしようとしている点があります。新型コロナの完全収束には時間がかかり、経済への影響を無視して出口戦略を提示しても一般国民はそれにより発生する生活苦に耐えられず、結果としてその政策に協力が得られません。そのため、感染拡大防止と経済への悪影響を最小化した出口戦略を考察していく必要があるのではないでしょうか。

[1] Krueger et al. (2020)は以下の論文を基礎としています。
Eichenbaum, M. S., Rebelo, S., & Trabandt, M. (2020).
The macroeconomics of epidemics (No. w26882). National Bureau of Economic Research.
https://www.nber.org/papers/w26882

この論文についての解説はこちら「「疫学」と「マクロ経済学」の視点から ―最新論文に見る感染症対策と経済活動維持の最適解とは―」の「外部性としての感染症」の節をご覧ください。

    • 猪野明生/Akio Ino
    • 元東京財団政策研究所リサーチアソシエイト
    • 猪野 明生
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