12月22日、議会は中間選挙後のレームダック・セッションを終え、オバマ大統領もハワイでの10日間の冬休みに入った。中間選挙では民主党が大幅に議席を失い、オバマ政権の危機と言われたが、このレームダック・セッションでオバマは経済、社会政策、外交の3分野で重要な3法案を可決させるという快挙を成し遂げた。
まずは経済分野では、追加景気対策としてのMiddle Class Tax Relief Act of 2010が可決され、ジョージ・W・ブッシュ共和党政権の減税が延長された。減税策のうち、富裕層向けの減税までも延長することについては、オバマ政権も民主党議員も反対していたが、共和党側に失業保険の延長を受け入れさせることで、妥協を図った。富裕層の減税延長についてはリベラル派から厳しく批判された。いずれにせよ、同減税策は大統領選挙年である2012年に失効するため、再び争点となる。
社会政策では1993年から施行されてきたいわゆる”Don’t Ask, Don’t Tell”(訊かない、言わない)という同性愛者の軍務禁止規定を撤廃した。1993年の改正によって、同性愛者であることを公言しなければ、軍務に従事できるようになっていたが、1万3000人以上が公言したため除隊処分になっていた。軍部からは同性愛者がいても支障はきたさないという報告書も出ていたが、保守議員からの抵抗は根強かった。しかし、減税延長を超党で達成したことて、オバマ大統領は本件について、共和党穏健派の支持をとりつけることができた。その結果、オバマは公約の実現を達成することで、リベラル層の支持者たちを満足させることができたのだった。
最後に外交政策で達成したのが、上院による新戦略兵器削減条約(新START)批准承認である。オバマ再選を阻むことを第一目標とする共和党上院のリーダーシップは最後まで抵抗したが、本条約は軍部、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領、ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ジェームズ・ベーカー、コリン・パウエル、コンドリーザ・ライスという5人の国務長官経験者等、共和党の国家安全保障問題関係者から支持されていた。そして、オバマ政権は共和党議員13人の支持をとりつけることで、批准承認に必要な出席議員の3分の2を上回る賛成71対反対26で批准させた。
今年4月に米ロ首脳が調印した新STARTだが、米上院に次いで、ロシア下院が批准することで、発効後には7年以内に両国の配備戦略核弾頭数が現行上限の2200から1550に制限されることになる。大統領は22日の記者会見で「核拡散を防止し、核なき世界を追求する米国の指導力を高める、最近20年間で最も重要な軍縮合意だ」と「核なき世界」を掲げる大統領にとっての国際公約上の成果をアピールした。また国家安全保障のために、民主、共和両党が一致協力したことを強調した。
来年の新議会では、上院は共和党議員が5人増え、下院は共和党支配となる。オバマ大統領は今議会で成立しなかった移民法改革などを優先課題として掲げているが、共和党はすでに異議を唱えている。本格的に大統領選挙モードに入る2011年、議席を増した共和党からオバマ政権が妥協をとりつけるのは至難の業であろう。
その際、味方として活用しなければならないのが世論である。中間選挙では無党派層のオバマ離れが顕著だったが、22日に発表されたCNN世論調査によると、オバマ大統領の支持率は56%に回復し、共和党議員の支持率42%より14ポイントも高かった。また55%がオバマ大統領の政策が国を正しい方向に導くと回答し、共和党政策の支持51%より上回った。その上、59%がオバマは共和党と十分に協調を図っている、共和党が妥協すべきであると回答している。
つまり、オバマ大統領がレームダック・セッションに続いて来年も成功するには、「共和党は民意を反映せずに、政治的計算ばかりしている」という印象を与え続けることで、共和党に妥協を迫る必要がある。2008年、2010年の選挙結果から明らかなように、国民はワシントンに従来型の政治ではなく、任務遂行を求めているのだ。
■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)