カンザス州上院選が最近、急に注目を集めている。というのも1861年以来、民主党議員が3人しかいないカンザスでは、1939年以降、共和党候補しか当選していない風土で、安泰と思われていた4期目を目指すパット・ロバーツ上院議員が苦戦に追い込まれているからだ。
ロバーツは1967年に議員スタッフとしてワシントンにやってきた後、1980年に下院議員、1997年に上院議員となったベテランである。政策的には同じくカンザス州選出上院議員だったボブ・ドールやナンシー・カッセバウム同様、主流保守で、同州の星ドワイト・アイゼンハワーのようにコンセンサスによる中道的な政治を実行してきた。
そのロバーツが、本中間選挙に向けて突然、ティーパーティー派テッド・クルーズ上院議員に同調し始めた。そして、母校カンザス州立大学向けの連邦政府助成金に反対したり、医療保健制度改革の保険加入サイトの不具合に関して、元上司だったキース・セベリウス下院議員(故)の義理の娘でもあるキャスリーン・セベリウス保健福祉長官の辞任を求めた。
これは予備選挙でティーパーティー候補ミルトン・ウルフの挑戦を受けたからである。予備選では、カンザスの持ち家は貸し、あまり頻繁ではないが自身が地元に戻る際は友人宅に宿泊していることが暴露され、問題視された。これは類似の地元の住居問題によって、2012年上院予備選で落選したリチャード・ルーガ―議員(インディアナ)を彷彿させるスキャンダルで、前回60%で当選していたロバーツは危機感を持った。結局、8月5日の予備選では48%対41%で、ロバーツはウルフに勝った。
しかし、ロバーツの苦戦は続いている。というのも、民主党候補チャド・テイラー地区検事長が9月3日、上院選から離脱したからである。無所属グレッグ・オーマンが支持を伸ばしていたのに対し、テイラーの支持は伸びず、選挙資金も乏しかった。テイラーが本選挙に出馬しなければ、オ―マンがロバーツに勝つ可能性も秘めていたため、ジョン・カーリン元州知事をはじめとする州の民主党重鎮はテイラーに離脱するよう説得工作を行った。離脱する直前の世論調査の1つ *1 ではロバーツ40%、オーマン38%、テイラー11%、そしてロバーツ対オーマンの場合にはロバーツ42%、オーマン48%でオーマンが勝利するという結果が出ている。
州国務長官クリス・コバッチはテイラーに離脱の資格がないと判断し、投票用紙からテイラーの名前を削除しないと表明。そのためテイラーは国務長官を州最高裁に訴え、同裁判所は9月19日、テイラーを投票用紙から削除するよう国務長官に命じた。最高裁判決後、国務長官は民主党が9月26日までに候補を立てる法的義務があると述べた。また18日、民主党支持者が州民主党に対して民主党候補を立てるよう、州最高裁に申し立てた。同裁判所は地方裁判所に本件を差し渡した。これは投票用紙印刷の期日以降に判決を先延ばしにする動きであり、実質的な民主党の勝利を意味しそうだ。一方、国務長官は27日まで待たず、とりあえず海外在住者用の不在投票用紙を郵送することを決定した。
これでベテラン共和党議員に新人が対決することになった。
オーマンは元マッキンゼー社のコンサルタントで、ベンチャー・キャピタル・ファンドを起業。今回の選挙活動費も一部は自己負担である。ロバーツ陣営はオーマンの財産について反対候補調査を始めたが、短期間でどれだけの成果が出るか不明だ。とりあえずインサイダー取引で現在、服役中の元ゴールドマン・サックス取締役ラジャト・グプタ(元マッキンゼー社代表)と同じ資産運用ファンドに投資していたこと攻撃材料に使っている。
オーマンは2008年に民主党上院選予備選挙に出馬した経歴があるため、共和党側はオーマンを民主党候補扱いする戦略である。したがって、民主党側は距離を置いている。オーマンがキーストーンXLパイプライン、同性婚、最低賃金といった問題については立場を明らかにしていない。したがって、不法移民に市民権取得への手段を与えること、医療保険制度改革を撤廃しないことなど、すでに明らかにしたポジションを共和党は攻撃材料に使っている。
スーパーPACも動き始めた。ナウ・オア・ネバーPACやヴィジョナリー・リーダース・ファンドも広告を打ち出す予定だ。共和党だけでなく、ティーパーティーからの攻撃も始まった。カンザスに本社を置くコーク・インダストリーズに近いスーパーPACフリーダム・パートナーズは、2週間で50万を投じて、オーマンを民主党に結び付ける広告を打ち始めた。
ロバーツ支援活動にはドール元上院院内総務が参加し、テレビ広告にも出演することになっている。ジョン・マッケイン上院議員、サラ・ペイリン元共和党副大統領候補、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も応援に駆け付けるなど、共和党の危機感が相当なものであることがうかがわれる。
共和党が上院で多数党になるためには6議席増やす必要があるが、ロバーツが落選すると最大でも50議席止まりとなりそうだ。オーマン自身が当選すると、米史上初、無所属上院議員が3名になる。「先輩」の無所属議員アンガス・キング(メイン)、バーニー・サンダース(バーモント)は民主党とコーカスしているが、二人ともオーマン候補に支援表明の電話をした。オーマン自身は「明らか」に多数党の政党とコーカスすると述べているが、僅差の場合にどうするのか、注目される。
なお、カンザス州では現職の社会保守サム・ブラウンバック州知事が保守と穏健派の対立を増長する政策を施行し、大幅減税によって州財政を大赤字にしたため、州の共和党議員たちは民主党候補ポール・デイヴィス州下院少数党院内総務の支持に回るという事態を招いた。デイヴィスは一連の世論調査で優位に立っていたが、最近になってその優位性が縮小している。なお、カンザスは連邦議員については一貫して共和党議員を選出してきた。しかし、州知事はキャスリーン・セベリウスをはじめ、時折、民主党候補を選出することがあり、過去50年中28年は民主党州知事だった。したがって、デイヴィスが当選する可能性も大いにある。
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*1 : http://www.foxnews.com/politics/interactive/2014/09/17/senate-battlegrounds-kansas/
■池原麻理子 在米ジャーナリスト