共和党予備選でのティーパーティー
春先の共和党予備選挙では、一連のティーパーティー候補は相次いで落選し、ティーパーティーの勢力は失われたと見られていた。ジョン・コーナイン上院議員(テキサス)やミッチ・マッコネル上院院内総務(ケンタッキー)などが、ティーパーティー候補の挑戦に勝っていたからだ。
しかし、6月10日のヴァージニア州予備選挙で勝つことが確実視されていたエリック・カンター下院院内総務が、ティーパーティー候補エリック・ブラットに10ポイント差で敗戦し、ワシントンのエスタブリッシュメントは衝撃を受けた。何しろ下院多数党の院内総務が敗れたのはこのポストが新設された1899年以来、初めてのことだったのだ。カンター陣営が投票日一週間前に把握していた有権者調査によると、カンター議員はブラット候補に34ポイントの差をつけており楽勝すると考えていたとのことだ。
挑戦者ブラットは地元大学の経済学者で、政治は素人である。しかし、彼はティーパーティーの地元グラスルーツ・グループ、およびアン・クルターやローラ・イングラムといった保守派論客に支持されていた。カンター議員は540万ドルもの大金を投じていたにもかかわらず、選挙資金はわずか20万ドルの新人候補に敗れたのだった。ブラットを支持した有権者たちにとっては、カンター議員が下院でナンバー2の重要な役職に就いていたことや、保守であることも意味がなく、例えば移民法改正を支持しているように見えること、「ワシントン・インサイダー」であることなどを問題視した。カンターは選挙の翌日、7月末で院内総務を辞任すると発表。
このブラット候補の勝利後、6月24日のティーパーティー候補クリス・マクダニエル州議会上院議員とサッド・コックラン上院議員(ミシシッピ)の決戦選挙が注目された。6月3日の予備選挙では313,443票のうち、マクダニエル議員はコックラン議員より1,386票多く獲得していた。が、第三候補がいたため、過半数に達しなかったことから、決戦選挙で決着を図ることになった。決戦選挙では375,000票が投じられ、コクラン議員はマクダニエル議員より6,373票多く確保し、当選した。これはコクラン陣営が、民主党支持者である黒人票を獲得すべく精力的に運動した結果である(注:ミシシッピは非拘束のオープン・プライマリー)。黒人有権者たちはティーパーティーのメッセージに警戒して、コクラン議員の支持に回った。
同日、オクラホマ州でも任期中の引退を発表したトム・コバーン上院議員の後任者を選らぶ選挙が行われた。エスタブリッシュメントが選んだジム・ランクフォード下院議員が、ティーパーティー候補T.W.シャノン元州議会下院議長に勝った。
ここで注目したいのは、オクラホマ地元の複数のティーパーティーのグループがランクフォード議員を支持し、部外者の介入に批判的だったことである。そもそも同議員が2010年に当選した時には地元ティーパーティーのグループから支援されていたのだった。
マクダニエル議員もCitizens United, Club for Growth, FreedomWorks, Madison Projectといった全米規模で活動しているティーパーティー組織以外に、地元のティーパーティー・グループからの支援を受けることで、健闘した。
ケンタッキー、サウスカロライナ、テキサスでも全米規模のティーパーティー組織が支持した候補は敗北したが、全米規模の組織が選挙資金を注ぐだけでなく、地元のティーパーティーの支持は熱意がある選挙ボランティアが戦力となることが重要であることが明らかになった予備選挙だった。またアーカンソー、コロラド、ジョージア、モンタナ、ノース・カロライナ、サウス・ダコタ、ウェスト・ヴァージニアの共和党上院議員候補たちは、地元のティーパーティーの支持を狙うスローガンを提示することで、ティーパーティー候補の挑戦を避けるか、打ち負かすことに成功した。
2010年中間選挙で多数の共和党候補を送り込んだティーパーティーだが、その議員たちが「ワシントン・インサイダー」になってしまったと判断すると、グラスルーツ・レベルのティーパーティー活動家は対抗馬を立ててきた。小さい政府を信望するティーパーティー支持者にとっては、予算の成立を阻むために21時間以上、本会議場で演説を行い、同僚共和党議員との対決も辞さないテッド・クルーズ上院議員(テキサス)が理想的な議員の姿なのだ。そして、ティーパーティーは一枚岩ではないので、エスタブリッシュメント候補を全米規模のティーパーティー組織が支援しても、地元の活動家はそれに従うわけではない。
進む有権者の二極化
ピュー研究所が6月12日に発表した1万人を対象に行った世論調査 *1 では、この20年で有権者の二極化が著しく進んだことが明らかになった。20年前は10%だったのが、2014年の調査では21%ほどの国民が政府規制といった主なトピックに関して、一貫して保守、またはリベラルなポジションを貫くようになっている。そして、共和党支持者と共和党寄りの無党派3分の1、および、民主党支持者と民主党寄り無党派4分の1が、自分が支持しない政党が国家のよいあり方にとって脅威だとみなしている。
<図1 Democrats and Republicans More Ideologically Divided than in the Past>
出所:1994年、2004年、2014年の民主党、共和党支持者の分布(ピュー研究所)
本調査の個別の質問結果から、政府に対する考えが共和党支持者と民主党支持者では大きな格差があることがわかる。75%の共和党支持者が政府は無駄と考えているのに対して、民主党支持者は40%しかそう考えていない。環境規制も69%の共和党支持者が経済活動を妨げ失業を生むと見ているが、民主党支持者でそう考えているのは一貫して4分の1に過ぎない。貧困層に対する態度も対照的である。
<図2 政府はほぼ常に無駄に非効率である>
<図3 より厳しい環境規制は失業を生み、経済に打撃を与える>
<図4 貧困層は政府福祉で楽をし、何も貢献していない>
過去20年で二極化が進んだのは、同じ考えの者たちと同じ地区に住み、交流し、異なった意見を持つ者は受け入れないといった「エコー・チェンバー効果」が起因しているようである。例えば、一貫して保守の50%が同じ政治思想の者と住むことが重要で、63%が親しい友人は同じ政治思想を持っている。これに対して、一貫してリベラルの35%にとってしか同じ政治思想の者と住むことは重要でないし、49%しか親しい友人が同じ政治思想を持っていると答えておらず、リベラルの方が保守より寛容であることが判る。
<図5 Ideological Echo Chambers>
共和党支持者であればフォックス・ニュースを、民主党支持者であればMSNBCという、バイアスがかかった報道だけを観るようになっていることも「エコー・チェンバー効果」を悪化させているようだ。調査結果を見ると、保守派の74%がフォックス・ニュースを好み、71%がMSNBCに否定的だ。これに対してリベラル派の45%がMSNBCを好み、73%がフォックス・ニュースに否定的だ。ここで注目したいのはリベラルのMSNBC好きの数字に比べて、保守のフォックス・ニュース好きの数字の方が圧倒的に多い点だ。
<図6 Fox News, MSNBC Stir Up Negative Views among Ideologically Consistent>
さて、実際の政治活動はどうか。リベラルの38%が政治活動しており、1994年の8%、2004年の20%から増えている。保守も1994年の23%、2004年に10%だったのが、2014年には33%に増えている。そして予備選挙で投票するのは保守の54%という数字が出ており、これはリベラルの34%より多い。民主党に対してネガティブな考えを持つ共和党支持者の43%が必ず予備選挙で投票すると答えている。それに比べ民主党の数字は33%となっている。この数字を見ると、ジェリマンダリング効果に加え、共和党予備選挙でより保守的な候補が勝ち貫くようになってきているのも不思議ではない。
<図7 Percent who always vote in primaries>
保守の方が思想の異なる者や妥協に対する反感が強い。リベラルの82%が妥協を好ましいと考えているのに大して、保守の32%しかそう考えていない。
政治家はどうか。民主党と共和党のギャップの広まりは、共和党が右にシフトしたことが主な原因となっている。第112期(2011-12年)において、共和党議員全員が、一番保守的な民主党議員よりも保守的だという結果が出ている。40年前の第93期(1973-74年)では、下院議員240人と上院議員29人が、最もリベラルな共和党議員と最も保守的な民主党議員の中間にいた。一般的に北東部の議員たちが南部の議員よりリベラルだったことを考えれば、この数字は不思議ではない。それが、20年前の第103期(1993-94年)ではそれは下院議員9人、上院議員3人に減り、両党のイデオロギーの違いが広まりつつあったことがわかる。
実は別の調査でも二極化は対称的ではなく、保守の方が激しいというデータが出ている。これはブルッキングス研究所研究員トーマス・マンとアメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員ノーム・オーンスティーンが指摘している点である。例えば下院議員のイデオロギーについて、これは顕著である。議会で90年代初頭は今ほど二極化していなかったのが、1993年頃からギングリッチ下院議長をリーダーとした政府閉鎖、クリントン大統領弾劾といった共和党の民主党に対する極端な妨害工作が始まった。
マンは有権者の二極化が政治家の二極化を生んだのではなく、その逆であると指摘している。つまり、政治家、政治コンサルタント、ラジオ・トークショーのホスト、ケーブル・ニュース、ブログやソーシャル・メディアの影響の結果であると。
<図8 Asymmetrical Polarization>
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*1 : Political Polarization in the American Public, Pew Research Center for the People and the Press
http://www.people-press.org/files/2014/06/6-12-2014-Political-Polarization-Release.pdf
■池原麻里子
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