この数ヶ月、混迷していた共和党大統領予備選のラインアップだが、大体の顔ぶれがようやく決まりつつある。民主党と違い、共和党は早々にエスタブリッシュメントがフロントランナーを決め、ボブ・ドール候補(1996年)やジョン・マッケイン候補(2008年)等、その候補に多少、問題があっても党として一致団結するのが常だ。しかし、今回はこれといった候補が見当たらなず、「救世主」の出現が待望されたため、混沌としている。世論調査会社ギャラップによると、3月頭時点ではフロントランナーが決まっており、そのまま共和党の大統領候補となる。その時点で未定という今回のような事態は1952年以来のことだ。
ここで5月26日時点で出馬した候補、不出馬表明した政治家、まだ検討中で出馬の可能性がある政治家を整理する。
さて、その出馬が大いに期待されていた財政規律が売り物のミッチ・ダニエルズは家族の猛反対に会い、去る5月21日に出馬しないと発表。これで彼の支持層はロムニー、ポレンティ、ハンツマン支持に分散すると見られている。特に同じく財政規律を重視し、中西部の州知事であるポレンティ支持に回ると思われる。フロントランナーのロムニーではオバマ大統領に勝てないという不安を抱いているエスタブリッシュメントの多く、特にブッシュ前大統領の支持者たちがダニエルズに期待していた。
一方のロムニーだが、コンサルティング時代の金融業界とのコネクションによる抜群の資金調達力を活用して、着実に資金を集めている。5月17日にはラスベガスで1000万ドルを集めた実績がある。しかし、マサチューセッツ州知事時代に実施した州民皆保険は、共和党支持層が「社会主義的」と猛批判するいわゆる「オバマケア」の基盤となっており、そのオバマケアから距離を置くために弁明するなど、苦しい立場に置かれている。2000年共和党予備選挙では、風見鶏的にその場その場でポジションをコロコロ変えたため、信用できない人物というイメージも定着した。
ハンツマンはまだ正式には出馬を表明していないが、着々のその準備を進めており、出馬する可能性が高い。オバマ陣営が一番、強敵視している人物と言われている。頭脳明晰という評判で、レーガン政権ホワイトハウス・スタッフ、父ブッシュ政権で商務省次官補、駐シンガポール大使、子ブッシュ政権ではUSTR次席代表を務めるなど政権での経験が豊富だ。が、オバマ政権の駐中大使を務めたという経歴はマイナスである。共和党首脳部との関係もあまり良好ではないし、地元のユタでもロムニーの方が人気が高いくらいで、全米での知名度も低い。今後、ロムニーの一番の代替候補として、どうやってアピールしていくかがカギとなる。予備選段階で、同性愛容認などのリベラルなポジションをどう売り込むかといった点も注目したい。
さて、ロムニー、ハンツマンともモルモン教徒だが、予備選で大きな役割を果たす福音主義者たちのモルモン教に対する偏見は強く、両人がこれどう克服するかが興味深い。どちらかが共和党大統領候補になった場合でも、一般市民が受け入れるかという問題が残る。ケネディーは初のカソリック信者として大統領に就任したが、長い歴史があるカソリックと異なり、モルモン教には依然として「新興宗教」的なイメージが残っている。
5月23日に出馬宣言したポレンティは比較的地味で、知名度も低いが、ロムニーでないという点がセールス・ポイントである。州知事時代には公共交通、社会福祉などの予算を大幅に削減することで財政赤字を削減した。また、2010年10月にはキリスト教右派団体ファミリー・リサーチ・カウンシルとの団結を表明した3人の州知事の1人でもあり、社会問題については保守だ。
知名度が高いギングリッチは5月11日に出馬を表明したが、ネガティブのイメージが強い候補である。大統領候補になるには自己規律が必要だが、失言の多いギングリッチにはそれが欠如しており、すでに問題発言をしている。例えば出馬表明直後、ティーパーティーの代表的存在、ポール・ライアン下院議員の予算案を批判して、共和党保守の反感を買い、謝罪するはめに陥った。クリントン大統領弾劾調査中、現在3人目の妻となった議会スタッフ、カリスタと浮気をしていたことが明らかになり、偽善者と非難された。また、最近では宝石店ティファニーに50万ドルの借金をしていた事実が報道され、スキャンダルになっている。カリスタはティファニーがロビイングしていた採鉱問題も扱う下院農業委員会のスタッフだったので、特別な無利子の口座が開かれたことが明らかになったのだ。そもそも、庶民の感覚からすると、自分たちの家などに比べ、法外に高い宝石や時計を購買するという贅沢ぶりが反感を買っている。
サラ・ペイリンはアラスカ州知事を任期中に辞任した後、スピーチや、フォックス・ニュースのコメンテーターとして高収入をエンジョイしている。一方、ネガティブな面も明らかになり、最近では元スタッフの暴露本も出版されている。本人は大統領予備選に出馬する意欲があるとは述べており、選挙活動のための準備と見られる動きも見せている。アラスカ州より活動がしやすいアリゾナ州に最近、家を購入した。また主任補佐官としてボブ・ドールのアドバイザーだったマイケル・グラサー、そしてジョージ・W・ブッシュ元補佐官2人を採用した。また外交政策顧問として長年、彼女をアドバイスしてきたネオコンのランディー・シューネマンを解雇し、ブッシュに近いピーター・シュワイツァーを雇用した。6月には"The Undefeated" というドキュメンタリー映画がアイオワで上映され、イメージ回復を図る。宗教的なメタファー満載で、ペイリンをジャンヌ・ダルク的存在として描いた作品だという。知名度が高い彼女にはティーパーティーを中心とする熱心な支持者がいる他、ポピュリズムを扇動し、一定の支持を集めることはできても、その幅を広げることは不可能であり、共和党大統領候補になる可能性は低い。同じくティーパーティーの人気者ミシェル・バックマンがまもなく出馬を表明すると発表しており、似たようなキャラクターの女性候補2名が同じ票田を争う形になるのも不利であるから、最終的にペイリンが出馬しないという決断を下す可能性もある。
共和党支持者と共和党寄りの無党派を対象に5月23,24日に実施されたギャラップ社の最新世論調査によるとロムニーが17%でトップ、次にペイリンの15%が続くという次のような結果が出ている。
ロムニー 17%
ペイリン 15%
ポール 10%
ギングリッチ 9%
ケイン 8%
ポレンティ 6%
バックマン 5%
ハンツマン 2%
ジョンソン 2%
サントラム 2%
ようやく候補ほぼ全員の顔ぶれが明らかになり、今後、予備選に向けての活動が展開されることになるが、まだまだ紆余曲折がありそうである。
■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)