ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー
米国の世論が変わりつつある。この変化により、2012年の大統領選挙戦において対外政策問題が果たす役割がいよいよ明確になりつつある。依然不透明なのは、選挙後の対外行動に影響が及ぶかどうか、及ぶとすればどう影響するかである。
オサマ・ビン・ラディンの殺害以来ここ数週間でアフガニスタンからの即時撤兵を支持するアメリカ人は56%にまで激増した。政治的な面で特筆すべきなのは、共和党員の間にアフガン・ミッションへの反対意見が増えていることである。これまで共和党員は民主党員や無党派層と比べ、戦争からも対外干渉全般からも手を引く動きは緩慢ながら、その着実さにおいてはひけをとっていなかった。また、共和党の候補者にとっておそらく最も重要なのは、今では「保守派」を自認する人々の66%が部分的あるいは全面的な撤兵を望んでいるという事実である。
すでに退任の決定しているロバート・ゲーツ国防長官は、最近、世論の変化を認識したうえで、「国内の政治的安定」がアフガニスタンに関する様々な決定における一つの要因となった、アメリカ人は「10年にわたる戦争にうんざりしている」、と述べている。バラク・オバマ大統領も、6月22日に計画的撤退を宣言した際に「国内での国造りに軸足を置く時がきた。米国のアフガン・ミッションは大幅に縮小し、(アフガニスタンを)アルカイダその他のテロリスト集団の「安全な隠れ家」にさせないことにのみ専念すべきだ。」と述べ、このことを間接的に認めている。同時に、連邦議会ではリビア介入を巡る議論が活発化しており、下院議員は対リビア戦争を承認する法案の可決を拒否する一方で、リビア進攻作戦の財源削減法案は可決できずに終わっている。
国民の意識の変化は、共和党の政治家にとって特段の課題となっている。ことアフガニスタンとリビアに関しては、民主党よりも共和党の方が党内の意見が割れているからだ。そのため、一部の共和党大統領候補者は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のグローバルな軍事力拡大目標を依然として支持する者と米国の軍事介入を制限または終了させたい者のどちらをもつなぎとめようとするあまり、立場を明確にするのに苦慮している。
ジョン・ハンツマン前ユタ州知事は、この点で自らの立場を臆せず明確に打ち出す急先鋒の一人で、オバマ大統領案よりも迅速なアフガン撤退を主張、リビアにおいて危機にさらされている米国の重要な国益など存在しないと示唆して「安全保障と予算の両面で納得できる」対外政策を求めている。ハンツマンの見解は、財源を国内の経済課題に集中させ、不要で金のかかる戦争は避けるべきだと考える多くの外交リアリスト、財政保守主義者、リバタリアン寄りのティーパーティーの有権者たちの考え方と合致するようである。ティーパーティー支持者の間で人気が高いロン・ポール下院議員も、概ねこれに近い見解をとっている。
前マサチューセッツ州知事であり、共和党候補者指名争いの明らかな最有力候補、ミット・ロムニーは、「可及的速やかに撤兵すべき時がきた。」と述べる一方で「軍司令官が判断する(撤退)条件に基づいて、ではあるが。」とも述べ、アフガニスタンを巡る党内論争に二股をかけることによって、おそらく最も安全な立場をとっている。
ロン・ポール同様、ティーパーティーの有権者に人気のあるミシェル・バックマン ミネソタ州下院議員は、「人々が(アフガン戦争に)いら立つ理由」は理解できるとしながらも、その一方で、「最後までやり遂げなければならない」「ペトレイアス軍司令官を信頼している。」とも述べている。ペトレイアスは米国中央軍司令部を指揮する司令官で、まもなくその新CIA長官就任が上院によって承認される見込みである。だが、バックマンはリビアについてはいささか混乱気味で、(アフガン戦争に関して)関与したこととリーダーシップをとれないでいることの両面で大統領を非難している。
元ミネソタ州知事のティム・ポーレンティーはアフガン問題ではバックマンよりさらに強硬な立場をとっており、オバマ大統領による撤兵の決定と「撤退あるいは孤立主義を深めるかに見える方に向かう共和党」の両方を批判している。候補者ではない2人の有力者、ジョン・マケイン、リンゼイ・グラハム上院議員も、アフガニスタンとリビアの戦争を長引かせることについて仲間の共和党員たちがとっている懐疑的な態度を批判している。
共和党候補者の間に見解の幅があることは、共和党の対外政策議論を構成する要素が2004年や2008年と比べて遥かに幅広くなっていることの証である。当時は、明示的にせよ暗黙的にせよ、政策を否認するかたちでジョージ・W・ブッシュ前大統領を批判する覚悟のある者が共和党内にはほとんどいなかった。 共和党内に強力なリーダーがいないことも、議論が活発化する要因となっている。つまり、国際情勢に明るくない州や地方の党幹部に対外政策についてしっかりした指示を送る中心人物が不在なのである。その結果、共和党の運動家は上から下にいたるまで各自の考え方や直感をより自由に表明できるようになっている。また、彼らの多くは、国防・対外援助・国内治安に対する政府の規模と範囲を大幅に拡大するような、彼らの考える大きな政府の対外政策にはうんざりしている。
しかし、現在の共和党内の対外政策を巡る論争は過去10年で類を見ないものではあるものの、その長期的な影響は依然不透明である。第1に、当然のことながら、次に共和党の大統領が実現して対外政策の方向を定めるのはいつになるのか、またその大統領になるのは誰なのか、皆目わからない。また、現実的な問題として、共和党が候補者を選択したあかつきには、経済成長や失業率のほうがはるかに重要な選挙戦の争点となるだろう。第2に、これも同じくらい重要なことだが、共和党の大統領が実現したとして、選挙運動中の発言にどの程度縛られるかである。やはり候補者としてのブッシュ知事も米国の振る舞いに謙虚さを求め、国造りを非難していた。
オバマ大統領であれ共和党対立候補となる誰かであれ、誰が選ばれたとしても、相当数の共和党員が、外交政策案の実行コストを-- コストなるものが国内問題における重要なポイントであるのと同様に-- 重要な意思決定規準として、ますます重視するものと思われる。同様に、他部門で一律にコスト削減が要求される状況にあって、共和党員が今後も国防予算を聖域扱いし続けるとは考えにくい。この2つの見解が実際に共和党の重要方針として再浮上するならば、その影響は広範囲に及ぶ可能性がある。