1月3日、アイオワ州党員集会が開かれ、共和党大統領予備選挙がキックオフされた。結果はミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事がリック・サントラム元上院議員(ペンシルバニア州選出)に8票の僅差で、1位の座を獲得した。全体の結果は次の通りである。
5月以来、ロムニー、ペリー、ケイン、ギングリッチとフロントランナーがめまぐるしく入れ替わってきたが、共和党予備選挙がこのように混乱を極めたのは、1964年以来のことだと言われている。たとえば、指名候補の行方を占うとされる8月のエイムズ市の模擬投票で1位だったバックマン下院議員は、今回の党員集会では6位という結果が出た翌日、予備選撤退に追い込まれた。
ロムニーが8票の僅差でかろうじて1位の座を確保したことの原因は、彼に対する熱烈な支持が欠如しているという根本的問題を乗り越えられなかったことにあるが、結果的にはロムニーにとって最も好ましい戦況となった。というのも反ロムニー票が分散したからである。今後の予備選挙活動を展開していく過程で強敵になりえた資金力豊かなペリーが5位、そして12月に支持が急上昇したギングリッチが4位と不調で、サントラムとポールという泡沫候補とも言える二人がそれぞれ2位と3位だったのだ。これで当初からの予想通り、ロムニーが共和党大統領候補になるのは、ほぼ確実であろう。
ここでアイオワ州党員集会の結果を整理しておきたい。
全米では保守は40%、そのうち超保守は15%であるのに比べ、アイオワ州党員集会出席者の83%が保守、そのうち50%が超保守である。そして57%が白人福音主義者である(全米では40%)。無党派層は4年前の13%から、今回は23%に増えた。何が一番問題かという問いに、42%が経済、34%が財政赤字と答えている。今回の党員集会の特徴は出席者のほぼ半数(46%)が当日か数日前になってから支持者を決めた点である。これは2008年の30%という数字から大きく増えており、今回の党員集会の混乱ぶりを反映している。
そして、各候補の支持者の内訳は次の通りである *1 。
ロムニーは17郡で勝ったが、2008年には24郡で勝っており、獲得した票のシェアは減っている。高齢者の支持は得たが、若者、低所得層の支持は獲得できなかった。一方、経済が一番の問題であると考えている層の33%がロムニーを支持した。
これに対して、サントラムは2008年にマイク・ハッカビーが勝った地方の超保守郡で、ティーパーティー支持者の希望の星として2位に躍進した。福音主義者の支持も集めた。そして直前になって支持候補を決断した層の支持を30%と、誰よりも多く得た。また、経済問題を重視している層から19%の支持を集めた。
ポールの支持者は圧倒的に若者と無党派層が多い。そして、財政赤字重視者の支持を集めた。経済問題を重視している層からの支持は20%だった。
ペリーはどの候補よりもテレビ広告を打ったが、5位に終わった。
ここで2008年と2012年の党員集会でのロムニーの支持層を比較してみると、ほとんど変化がなく、全く支持が広がっていないことが明らかである *2 。今回、トップになれたのは、単に他に有力候補がいなかったからに過ぎない。
今後の展望
10日のニューハンプシャーではロムニーの勝利が確実視されているが、サントラムの支持もアイオワの結果を反映して、少しだけ伸びた。その次のサウスカロライナは社会保守が多く、ロムニーより、サントラムにとって有利な州である。資金力も組織力もないサントラムがアイオワの後、大きく飛躍する可能性はほぼゼロだが、向こう1、2ヶ月、ロムニーの弱点に焦点を当て続ける存在になるだろう。
一方、アイオワで3位の座を確保したポールだが、2008年のオバマの戦略に倣って、若者や無党派の支持を得ようと努力している。そして予備選の規則を熟知するポールは、他の候補が無視している州で代議員を多く確保する作戦である。ターゲットとしているのはコロラド、ワシントン、メイン、アイダホ、ミネソタ、ネバダ、カンザス、ルイジアナ、ミズーリ、ノースダコタ、アラスカ、ハワイである。ポールが共和党大統領候補に指名されることはありえないだろうが、党大会で撹乱要因となる可能性はある。2008年にも前述の戦略で、35人の代議員を送り込んだ実績がある。2010年中間選挙でティー・パーティーが台頭した結果、共和党自体が保守化している状況はポールにとって有利な材料であり、これまでのように全く無視するわけにはいかない存在となった。
アイオワでは不調な結果に終わったペリーだが、選対本部長ジョー・アルボー(ブッシュ2000年選対本部長)は、保守、軍関係者が多いサウスカロライナでは、空軍大尉だったペリーにとって有利なバトルグラウンドだと読んでいる。ギングリッチももう少し、戦い続ける模様だ。
なお、アイオワの結果によって、ほぼロムニーが共和党大統領候補に任命されることが確実になったという現実に危機感を抱いた白人福音主義者のリーダーたちは、支持する対抗馬を統一すべく緊急に会合を開く予定だ。中心となっているのはギングリッチ支持者でAmerican Family Associationのドン・ウィルドモン、ペリー支持者でFocus on the Family Founder創設者のジェームズ・ドブソン、元大統領予備選挙候補ギャリー・バウワーだが、果たして合意に達することができるか、できたとしてもその候補がどれだけ優勢になるか疑問である。
また、サウスカロライナでも保守や福音主義者、ティー・パーティー支持者、ブルーカラー層によるロムニー支持率が伸びているのは確かである。しかし福音主義者、ティー・パーティー支持者からの支持は3分の1以下、それ以外の支持も半数以下という程度である。したがって、特定の候補がロムニーでは満足しない保守層の支持を一身に集めることができれば、ロムニーの強力な対抗馬となり得るが、その可能性は低い。
*1 : http://www.washingtonpost.com/wp-srv/special/politics/primary-tracker/Iowa/?customview=0,-1,total,3
http://blog.american.com/?s=entrance+poll+highlights&x=0&y=0
http://pewresearch.org/pubs/2161/?src=prc-newsletter
*2 : http://www.weeklystandard.com/blogs/morning-jay-what-iowa-tells-us-about-state-race_615993.html
■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)