ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー
海外のリーダーおよび一般層は、オバマ大統領再選の過程を概ね余裕を持って眺めていたようである―大部分の政策が継続されるものと予想し、それを受け入れるのにやぶさかではないようだ。だが、実際のところ、今後4年間の米外交政策には未知数の部分が多い。国内経済不安や政治的緊張が続く状況においては、国として重大な選択を迫られる場面や、不測の事態に直面することもあろう。首尾よく乗り越えていくには、これまでオバマ大統領が示してこなかった、説得力ある手腕が必要になる。
今後を占う上で念頭に置くべき重要なポイントは、オバマは選挙人投票では完勝したものの、一般投票ではそれほどの差はなかったということである―米国世論は依然として大きく二分しているのだ。さらに、選挙は「当然の結果」であったとする論評が多いが、仮に共和党およびロムニー陣営上層部が異なる戦略的、戦術的判断を下していれば、共和党、そしてロムニー知事に勝ち目はあったのだ。
例えば、共和党は今回、長期間にわたり熾烈を極めた2008年の民主党指名争いのプロセスを自党で再現しようとした。それが、共和党候補者の「強化」につながるだろうという思惑だ。しかし、この戦術は誤りであり、指名争いの過程で、ロムニー知事は明らかにダメージを負った―必要以上に長期間、「厳格な保守派」候補者であることを余儀なくされたのだ。これにより、移民問題など意見が分かれる問題に対するロムニー候補の立ち位置について、多くの投票者が固定観念を持ってしまった。こうした戦略をとらなければ、共和党全国大会で指名を受け「それまでの発言をチャラにできる」瞬間を迎えた際、ネガティブな印象を消し去ることもより簡単だったかもしれないのだ。このことは、本選挙でもロムニー候補の足を引っ張ることになった。
共和党指導者は過去数回の選挙戦を通して、この問題を悪化させてきた。過激主義的活動家を指導し、上手く抑制するのではなく、取りこみ、あまつさえ刺激するような選挙活動に注力してきたのだ。この観点からすると、共和党の2012年上院選での敗北は、ロムニー知事の落選よりも厳しい結果であったものに思われる―わずか1年前の予想に照らすとなおさらである。
しかし、共和党候補者および上層部が大きなチャンスを掴み損ねたことは、米国民がオバマ大統領を支持してきた、ということと同義ではない―現実は程遠い状況である。そして、いわゆる「財政の崖」が近づく中、あらゆる方面から柔軟姿勢を望む発言が相次いでいるにもかかわらず、税制や歳出を巡る党派間の厳しい争いが収まる気配はなさそうである。オバマ大統領が議会で民主・共和両党の協力を取り付け、実際的な政策実現にこぎつけられるかどうかで、第2期オバマ政権の基調は決まるだろう。しかしながら、景気刺激法案や医療制度改革法案に関するオバマ大統領の手腕を振り返るに、楽観視することはできない。
もう少し先を見据えた場合、米国は財政の崖を回避するのか、するとすればどのような方法か、という問題が、米国の外交安全保障政策に大きな影響を及ぼすことになるだろう。防衛予算への影響がまずあるが、問題はそれだけに留まるものではない。連邦予算編成で成功を収め―そして大幅な経済成長を成し遂げられれば―国内外でのオバマ政権の実行力も増すだろう。各国のリーダーは、内政面での実績も踏まえてオバマの手腕を見定めるはずだ。
こうした巨大かつ複雑な課題に取り組む中で、オバマ政権は外交政策及び国家安全保障チームの再編を迫られるだろう。報道によれば、ヒラリー・クリントン国務長官およびレオン・パネッタ国防長官は、後任が上院の承認を受けるまでは政権に留まるようだが、比較的早い段階で退任するという。デビッド・ぺトレイアスCIA長官の突然の辞任により、更に課題は膨らんだ。
こうした人事の刷新により、重要な2つの問題が浮上する。1つ目は、オバマの新チームは力を発揮できるのか、という点である。クリントン国務長官は、共和党内で大統領よりも高い信頼を得ることが多かったが、果たして後任長官はどうか。同様に、パネッタ国防長官は、議員経験も長く議会との協力という点でも豊富な経験の持ち主だ。次期国防長官も、同様の能力を持つ人物だろうか。知名度に欠けるトーマス・ドニロン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、新たなチームメンバーとうまくやっていけるのだろうか。
2つ目の問題は、新政権の陣容が、大統領の優先事項にどのような影響を及ぼすのか、という点である。オバマ大統領の大きな目標に変化は無いと思われるが、新たな人材の登用に伴い、どの目標を優先させるのか、どのように実行していくかについて、影響が現れる可能性がある。こうした場合、下位レベルの人事変更でさえ重大な結果をもたらす可能性がある。つまり、国務長官および国防長官が政権を去る場合、彼らに近いがゆえに独自の実行力を持つ次官や次官補も共に退くことは珍しくない。その結果、日々官僚の立場から、政権の取り組みについて説明し、擁護する人材が失われることになる。
今後4年間の米外交政策について考える上での最後の検討事項は、他陣営や他国の動向である。。すなわち、 共和党が政策策定において果たす役割、米国内の出来事に対する諸外国政府の反応、そして、次なる不測の事態の3つの要素である。共和党は下院多数派であり、予算編成に関する議論を通じて重要な決定に影響力を行使できる立場にある。そして、ロムニー氏にとってほとんど役に立たなかったブッシュ政権以来の新鮮味に欠ける表現ではなく、よりアピールするレトリックを作り出すことができれば、民主党とは異なる視点を提示するプラットフォームを持ち合わせているのだ。同様に、オバマ政権の政策は、ドイツや日本のような友好国、または中国やロシアのようなライバル国のいずれにかかわらず、他のグローバルプレーヤーの動きと無縁ではいられない。
残念ながら、不測の事態への対応に関するオバマ政権の実績は芳しくない。この点は、エジプト、リビア、あるいはシリアなど、中東で続いた騒乱への対応を見れば明らかである。これは、同政権に、外交政策の戦略的枠組みの明確な全体像が欠けていることが一因ではないか。こうした点を踏まえると、オバマ大統領およびそのチームは、不測の事態の予測に努め、潜在的な問題や選択肢を事前に検討しておくべきである。そして、米国の外からオバマ第2期政権の政策を予測しようとする者にとっても、不測の事態の可能性を織り込んでおくのが賢明だろう。