リベラル派の間では、オバマは2つの違う「哲学的な方向性」をめぐる選択を提示し、それに対しての審判が下ったという理解が大勢である。選ばれたオバマの示したビジョンとは、E・J・ディオンヌが言う「富裕層増税」「経済再生のための連邦政府の介入」などに象徴されるビジョンである。GMとクライスラーの救済は「介入」政策の象徴であり、これが「オバマのオハイオ勝利の鍵だった」(ディオンヌ)以上、保守的なビジョンは退けられたという勝利宣言である。実際には一般投票では接戦で、オバマ自身が「政治の歴史上最も秀逸なチーム」と称したオバマ再選陣営が選挙人獲得に的を絞った頭脳ゲームで、州ごとの正確な票読みに基づく資源配分を適切に行ったことや、2008年の組織をそのまま土台にした地上戦の動員戦略の勝利であるが、勝因を純粋に技術論に帰結させる議論はリベラル派内では限定的である。
他方で、保守派の反発に対して、早くも「キャンペーン後キャンペーン」のような共和党攻撃も激しさを増している。「選挙結果は共和党にオバマ政権に反対し続けるマンデートを与えた」という選挙後の日曜朝の討論番組の共和党関係者の一連の発言に応戦するとして、激戦州の出口調査(NBC NEWS)に基づき、富裕層増税への賛成が過半数の50%を上回っていることを強調する議論も目立つ。ウィスコンシン64%、ヴァージニア63%など、全米平均60%より高い支持の州もあると、ロバート・クレーマーは「ハフィントンポスト」で指摘する。こうした一連の「キャンペーン後キャンペーン」は、オバマ再選がすなわち「オバマのビジョン」への全面的な収斂とは言い難い一般投票が示す現実を、逆説的に浮き彫りにしているかもしれない。
加えて、リベラル派の選挙評価に見られる特徴は、2012年選挙を偶発的な勝利ではなく永続的な民主党優位の始まりと位置づける論調である。リベラル派論壇の評論の多くは、選挙総括のかなりの部分を共和党の没落論で展開している。オバマがマイノリティの圧倒的支持で再選されたことに重ねて、人口動態が民主党優位に推移していることで共和党に未来はないという論理である。
アフリカ系とヒスパニック系の動員が鍵となったことは、ほとんどの主立ったリベラル系コラムニストが論じているが、オバマが白人票で伸び悩んだ事実を棚上げした上で、ヒスパニック系の増大がそのまま民主党優位を今後も支えるという見通しが支配的である。ライアン・リザは「現在の調子でいけば、2016年までに白人率は全有権者の70%未満となる。ロムニーの敗北は8年間の大統領職への野望にとどめを刺しただけでなく、共和党のアメリカの有権者をめぐる想定にとどめを刺した」と述べ、1992年に87%だった白人率がどんどん低下しているので、白人票で伸び悩んでもマイノリティを獲得すれば勝てるという開き直りすら垣間見える。
しかし、現時点でこれらの議論には2つの視座が欠けていることも見逃せない。
1つ目は、民主党をマイノリティ政党として純化させ、共和党を「反マイノリティ」の政党と位置づけることでマイノリティと白人のラインを際立たせる副作用である。人口動態別政党帰属を上塗りするかのような党派的論調は、「1つのアメリカ」に逆行するオバマのジレンマを象徴している。
2つ目は、人口動態の変容が半永久的に民主党優位を保証する楽観論の検証の必要性だ。アフリカ系の投票行動は、堅固な民主党支持の時期が長く、早晩変化する兆しはない。他方でヒスパニック系の民主党支持は、完全に定着したとは言い難い。一定の世代交代の後に、人口増は将来的に共和党側を利する可能性もゼロではない。不法移民問題が収束し、ヒスパニック系の所得水準や教育レベルが格段に向上したさいに、同じように民主党を支持し続けるのかは未知数だ。選挙サイクルごとの争点変化もある。2012年は失業率の高止まりで、南西部中心に「職を奪う存在」として移民への反発感情が燻り、防衛意識からヒスパニック系内に移民アイデンティティが高まった様子が窺える。経済選挙のはずが、移民問題がロムニーの足を引っ張った。しかし、雇用が安定している選挙サイクルであれば、ヒスパニック系のカトリック教徒としての信仰アイデンティティに響く価値争点が台頭しないとも限らない。民主党がヒスパニック系をアフリカ系のようなソリッドな基礎票として完全定着させられるかは、アフリカ系にとっての公民権やアファーマティブアクションに相当する「何か」をヒスパニック系に対して行う必要がある。オバマ政権が包括的な移民改革法案を多くのヒスパニック系に有利な形で実現できるかは試金石となろう。
共和党批判の中に民主党への苦言を滲ませる言説も見られる。NDNのサイモン・ローゼンバーグは、グローバル化に対応した改革なくして共和党は生き残れないとして、イデオロギー的な党内保守派ではない穏健派に期待する、共和党の「近代化プロジェクト」の必要性を説くが、民主党の過度な左傾化を暗に戒めているようにも聞こえる。
最後に興味深いのは、宗教左派系の有力者がオバマを「コンパッション・イン・チーフ」と呼び、2012年選挙の勝利を「寛容の勝利」と位置づけて賞賛している点だ。シカゴ神学セミナリー元学長のスーザン・ブルックス・シッスルウエイト師は、同性愛者、女性、移民などのマイノリティへの寛容の勝利であるとしている。ハリケーン災害への連邦政府の対応も高く評価する。2012年のオバマ陣営の各ターゲット票と災害での連邦政府の役割に端的に示された「連邦政府の意義」というメッセージが、宗教左派好みの「寛容」というキーワードのもとで、見事にシンクロしたのは象徴的である。
参考文献記事(本文言及順)
Dionne, E.J., "Obama's Victory Should Settle a Bitter Argument", The Washington Post, (Nov. 7, 2012)
http://www.washingtonpost.com/opinions/ej-dionne-obamas-victory-settles-a-bitter-argument/2012/11/07/00be6164-2892-11e2-96b6-8e6a7524553f_story.html
Creamer, Robert, " Obama's Electoral Mandate and Where It Leaves Republicans" Huffington Post, (Nov. 19, 2012).
http://www.huffingtonpost.com/robert-creamer/obamas-electoral-mandate_b_2157708.html
Lizza, Ryan, "The Party Next Time: As Immigration Turns Red States Blue, How Can Republicans Transform Their Platform?" The New Yorker, (Nov. 19, 2012)
http://www.newyorker.com/reporting/2012/11/19/121119fa_fact_lizza
Rosenberg, Simon, "Election Day 2012 Memo: Why Voters Are Not Voting for the Status Quo, The Consent of the Governed and More", NDN(Nov. 5, 2012)
http://ndn.org/blog/2012/11/some-thoughts-2012-election-and-what-comes-next
Thistlethwaite, Susan Brooks, "Compassion in chief: Why Obama won", The Washington Post, (Nov. 8, 2012).
http://www.washingtonpost.com/blogs/guest-voices/post/compassion-in-chief-why-obama-won/2012/11/08/5b57018a-29d7-11e2-bab2-eda299503684_blog.html