ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー
2012年アメリカ大統領選挙が終わり、アメリカ政治において、民主党が新たに優勢な立場に立ったと自信を深める民主党員が増えている。しかし遅かれ早かれ、こうした見方は間違っていることがわかるだろう。
民主党が永続的な多数党へ向かう分岐点に立っているという認識は―民主党の幹部や党員が昨年11月以来明言しているのだが―基本的に、アメリカ有権者の構造変化、とりわけ人口動態の変化により、民主党が共和党に比べてはるかに大きな支持基盤を獲得しているとの議論に依っている。この種の議論は―すでに共和党がこれに対して試みている反論は置いておくとしても―ごく最近のアメリカ政治の歴史や、人類の長い歴史の記録から学ぶことのできる基本的な教訓の一つを考慮に入れていない。
すなわち、人間とその社会は集団化する誘惑に抗しがたいという事実を、心理学と社会学は、完膚なきまでに示してきたということだ。また、はるか昔の部族社会から古代ギリシャの都市国家に至るまで、そして戦争に明け暮れた中国の諸王朝から20世紀ヨーロッパに至るまで、歴史学と人類学の文献にはこの傾向が記録されてきた。さらに、政治学は、ユーゴスラビアからルワンダとスーダンを含む世界各地で、この問題を分析してきたのだ。
もちろん、近代の諸国家を成立させたのと同じプロセスが、民族、宗教、階級、政治などの軸をめぐってそれぞれの国家の内部においても起きている。21世紀のヨーロッパはその典型的な例だ。ヨーロッパ諸国が国家間の争いを解決したいま、内部の食い違いが激化し、スコットランドをはじめあちこちで、独立運動が勢いづいている。
アメリカ政治において、国民がグループにより分断化される傾向に最初に警告(空しい警告ではあったのだが)を発した一人は、ジョージ・ワシントンであり、彼は(離任演説で)国民に「政党魂(the spirit of party)」を避けるべきだと注意を促した。不幸なことだが、彼の警告は効果がなかった―そもそもできない相談だったのである。
今日、民主党が抱く最も過激な夢が実現したとしても―いや実際に実現すればなおのこと―こうしたパワフルな衝動が容赦なく党内を衝き動かすだろう。これについては、共和党の有力議員たち―政治的に失敗したのではなく成功したがゆえに共食いの醜い争いに明け暮れている―に聞いてみればよい。
共和党が全米の州政府において徐々に議席を増やすにつれて、彼らは「永続する多数党」の幻想に取りつかれた。カール・ローブをはじめとする共和党員は、(2004年の連邦議会選挙後)、アメリカ政治は進化したのであり、共和党が新しい環境と新しい技法を使ってアメリカ政治を支配する絶好の機会が到来したと論じた。
しかし、予測できたことだが、どこの政党もそのメンバーが、いったんその党が敵対する政党より優位に立ったと確信するに至ると、彼らにとって自分の党内を制する争いの方が相手方との戦いより重要となり、関心を持つようになる。なぜなら優位にある政党の党内対立は、その国の向かうべき方向を決定する要因となるからだろう。共和党はこのことを、主流派と反主流派が争った(2006年の)連邦議会予備選挙において、身に染みて思い知らされた。また、共和党の各候補がかつてなく激しく争った(2012年)大統領選挙の予備選でも、このことを経験した。ローブは今、穏健な候補者を後押ししながら、まさに彼自身が勢いを与えた保守勢力と戦っているのである。
多数党の分裂は、社会的、経済的、政治的条件―また、そのグループ内に存在する隔たりを埋める際の党指導者たちの力量により―早くもなるし遅くもなる。しかしどの多数党であれ、いったん長期にわたるパワーを勝ち取ったと確信すると、分裂は不可避でありまた容赦ない。そして往々にしてその分裂は(党の存続にとって)致命的となる。
世界中どこを探しても一党独裁は維持できない―実際その通りなのだが―との見方はアメリカの政治家の間に広く行き渡っているのに、その彼らが永続する多数党という見果てぬ夢に囚われているのは大変皮肉なことだ。一党独裁はどのようなものであれ、残酷な暴力―限りなく維持するのは困難であるのだが―が続いたりしない限り、内部の分裂にも耐えられない。旧ソ連では共産党内部の分裂が党内改革派リーダーに権力を与え、最終的にはソビエト連邦の崩壊を招いた。同じことが日本のような民主主義国においても起こった。自民党内の分裂が党を分断し、一時的にせよ野党―同じように分裂していたが―に権力を渡すことになった。また、中国共産党でも党内分裂が(昨年の)指導部交代においてあのようなドラマを作り出したのであって、いくら中国の指導者たちが中国は一党独裁国家だと主張しても、実際には一党独裁とは言えないのである。中国の市民は自分たちでリーダーを選べないかもしれないが、党内の分裂については十分知っており、どちらの側を支持するか、しないかもわかっている。
民主党が長期の興隆期に差しかかっていると考える民主党員は、アメリカや他国の政治史をよく振り返ってみるべきだ。核となる原理原則をどこまで主張しこだわるべきかという点で、民主党は共和党と同じように分裂しているのであって、もし民主党員の大半が、自分たちは押し寄せる人口動態の波にうまく乗っているのだと確信するようになれば、この分裂は先鋭化するだろうし、共和党が直面しているのと同じような分断をもたらすだろう。遅くなるか早くなるかの違いはあれ、それは確実に起こるのだ。