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アメリカNOW第125号 NBC Nightly Newsアンカー降板問題:米テレビ・ジャーナリズムにおける含意:前編(渡辺将人)

April 1, 2015

アメリカ3大ネットワーク *1 の1つNBCテレビの 夕方ニュース「NBC Nightly News with Brain Williams」のアンカーマン *2 のブライアン・ウィリアムズが、半年間無給の謹慎処分を下されている。2003年のイラク戦争取材中に搭乗していたヘリコプターが攻撃を受けて不時着したと偽りの発言をしていたことが明らかになったためだ。現在、ウィリアムズの名前は番組から外され、別のアンカーが代役を務めている。復職は正式には不透明ながら、厳しいとの見方も濃厚で、アメリカを代表する大物アンカーの突然の「失脚」に、米ジャーナリズムの現場は動揺している。アメリカではなぜ深刻な問題と捉えられているのか。事態はアメリカのテレビ・ジャーナリズムをめぐる本質論にも及んでいる。前編、後編の2号にわたってこの問題を検討してみたい。

(時差のあるアメリカではNBC Nightly News等の夜のニュースは、東部時間6:30pm、中西部時間5:30pmから30分生放送される。ニュース番組名には各局Nightly、Evening、Tonightなど用いているが、日本の放送では「夕方ニュース」に相当する時間帯であるため、本稿では適宜夕方ニュースと表記する。ちなみに、太平洋岸時間では現地6:30pmに放送されるが、新規のニュースを加えた別バージョンになっている。アラスカ、ハワイなどでも録画放送されている。本稿では「ネットワーク」「アンカー」という米語のカタカナ訳をそのまま使用するが、詳細は文末脚注を記載されたい)。

ブライアン・ウィリアムズの降板の原因と経緯

問題の発端となる最初の報道は2003年3月26日放送のNBC放送の特集番組「Dateline」だった。ウィリアムズが地上波夕方ニュースの「NBC Nightly News」のアンカーマンを前任のトム・ブローコーから引き継いだのは2004年である(2002年時点で交代は決まっていた)。1996年から2002年まで、ウィリアムズはNBCとマイクロソフトが設立した姉妹局MSNBCで「The News with Brian Williams」のアンカーマンを務めていた(ケーブルチャンネルであり、番組認知度はさほど高くなかった)。イラク取材にウィリアムズが出かけたのは、帯番組のアンカー席に縛られていなかった空白の時期で、NBCの看板の地上波夕方番組を背負う直前でもある。つまり、一定の外取材に出られる自由を満喫していた頃、たまたまニュースバリューの大きいイラク戦争が勃発した。不謹慎でもあるが、現実的に「ニュース運」にキャリアを左右されるジャーナリストとしては、タイミングに恵まれたと言える。「武勇伝」の1つや2つを担いで凱旋帰国で新番組をスタートさせたい感情がウィリアムズに湧いたとしても不思議ではない。イラク戦争の「危険に満ちた」取材は、ウィリアムズにとって「現場取材」として特別な思い入れの対象となり、他のアンカーと自らを差異化する経験となったが、これが皮肉にも10年越しで降板の原因にもなった。

ウィリアムズは、自分が4機の大型ヘリのチヌークのうちの1つに乗っていた際(ヘリは橋建設の資材の輸送任務中であった)、突然前を飛んでいる1機がロケット推進擲弾の被弾で消えたと2003年3月26日放送「Dateline」では伝えていた。4機が不時着して砂荒らしの中で3日間耐えた末に救出されたとも伝えている。しかし、ウィリアムズはそれ以上、被弾について大袈裟な報道はしていなかった。

ところがちょうど10年後の2013年3月26日、ウィリアムズはCBSの深夜の人気コメディ番組「Late Night With David Letterman」に出演して、ホストのデイビッド・レターマンに自慢げに砲撃されたことを語った。ロケット推進擲弾と銃弾の被弾を受けた2機のヘリのうちの1つに自分も乗っていたと発言したのである。ホストのレターマンが「嘘でしょう」と驚くと、「RPGとAK47の攻撃を受けました」とウィリアムズは神妙な顔で答えた。また、アレック・ボールドウィンとポッドキャスト・ラジオに出演した際にも、武勇伝を語り、「自分は死ぬかもしれないと思いましたか?」と質問され、「一瞬、もちろんそう思いました」とまで答えている。さらにウィリアムズは2015年1月30日、自分の番組「NBC Nightly News」で「12年前、イラク侵攻の最中、ロケット推進擲弾に撃ち落とされた」と伝えた。アイスホッケーのニューヨーク・レンジャーズの試合観戦に、ヘリ被弾の際にウィリアムズらを救ってくれたという元上級曹長と登場。それを自分の番組で扱った際の補足説明の発言だった。

この報道をきっかけに、「被弾したヘリにウィリアムズが乗っていたとの記憶はない」と、当時現場にいた兵士がFacebookに書き込んだことから、騒ぎが始まる。しばらく沈黙を守って様子を見ていたウィリアムズは、2月4日になって被弾したヘリコプターに自分は乗っていなかったと認めて謝罪した。その後、ヘリコプターのパイロットや関係者が続々と証言をしている事実関係によれば、ウィリアムズとカメラクルーはたしかにチヌークに乗っていたのだが、それは被弾したヘリの約1時間後に飛んでいた後続機で、被弾とは無関係であったという。2003年の被弾報道直後にも、現場のパイロットが基地に帰還後、MSNBCのサイトで放送内容を見て、ウィリアムズの報道は事実と反するとしてMSNBCに抗議のメッセージを送っていたとの話も出てきた(当時MSNBC、NBCからの返答は無かったという)。

ウィリアムズの「虚言」に対する党派横断的な厳しい世論

今回の件に関して、アメリカの世論は非常に厳しい。通常はリベラル偏向と揶揄されるネットワークのニュースへの批判は、保守派のFOX NEWSが熱心に行う。しかし、今回はそうしたイデオロギー対立とも少し違う。ニューヨークタイムズでのコラムニストのモリーン・ダウドの批判が象徴的であるが *3 、リベラル系を含むアメリカのほとんどのメディアがウィリアムズ批判を展開している。ジャーナリストのジェフ・グリーンフィールドは、CNN等の他局番組に出演し、今回の問題におけるリベラル・メディアのウィリアムズ攻撃の激しさに驚いているとコメントした。グリーンフィールドはロバート・ケネディのスピーチライターも務めた人物で、米テレビ報道界では大ベテランの生き字引的存在だ。そのグリーンフィールドが過去に例がないとして驚嘆するほどのバッシングが巻き起こった。ななるほど、擁護論は管見の限り3者のみであった。元CBSアンカーマンのダン・ラザー、タイム誌コラムニストのジョー・クレイン、そしてニューヨーカー誌のライアン・リザである。ダン・ラザーは同じく「誤報問題」で追いつめられてCBSを去った経緯があり、ウィリアムズへの同情による私的感情も挟まっているだろう。ライアン・リザは極限状態における記憶は完全ではないという科学的な議論を提起して、批判に慎重な視点を提示していた。しかし、後にウィリアムズの別の「虚言疑惑」が報じられてからは、リザも「もしこの報道が事実ならウィリアムズは病理的な嘘つきだ」とTwitterで断じるに至っており、現時点で著名ジャーナリストでの擁護者はジョー・クレインぐらいしかいない。

ちなみこのウィリアムズの「別の虚言疑惑」とは、アメリカ海軍特殊部隊のSEAL Team Sixにビンラディンが殺害された直後に放送された「NBC Nightly News」を指している。ビンラディン殺害作戦を実行した部隊とイラク戦争中に飛んだことがあるとウィリアムズが発言したものである。元海軍特殊部隊の人物が、プレスの取材班が部隊に同行したことなどないと証言し、「虚言疑惑」が明るみになっている。この他、ウィリアムズはハリケーンカトリーナの際にも、死体がホテルの横に浮かんでいたのを目撃したとリポートしていたが、ウィリアムズらNBCが拠点にしていたリッツカールトン付近には死体が浮かぶような水位まで水かさが増していた事実はなかったとホテル関係者が証言し、これまた新たな「虚言疑惑」となっている。

なぜ世論が厳しいのだろうか。4つの理由が複合的に存在すると考えられる。1つ目は「虚言」の対象である。前線の戦場を経験をしている元軍人からすれば、地上戦の現実は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を誘発することも少なくない生々しいものである。素人が安易に英雄伝に転化できるものではないし、ましてや最大限守られている範囲で撮影をしている3大ネットワークのスターアンカーに、武勇伝のネタに利用されたのではたまらないという思いがあったはずだ。ウィリアムズの「虚言」疑惑はいずれも戦場、被災地などだ。「本当の混乱の現場はそんなものではない。たまにやってきて安全なラインから覗いて、武勇伝にするな」という思いが当事者にはあろう。同じ「虚言」でも別の柔らかいニュースならここまで叩かれていないだろう。

2つ目は、「被弾した」という体験リポートから導かれる分析や新たな事実がこれといって見当たらないことだ。要するに「米軍のヘリに自分も乗った」「イラク取材で危ない目にあった」とアピールしているに過ぎない。勿論、ジャーナリズム、とりわけテレビでは「新しいものを見せる」「記者が代わりに体験して伝える」ということ自体に価値があることも事実だ。「初めてカメラが入りました」というナレーションに象徴される、テレビで伝えられるのは初めてという映像の価値だ。数少ない擁護論者のクレインも「チヌーク型ヘリコプターの内側を見たこともない評論家がNBCのアンカーを降板させるべきかを判断するのは独善的」との観点から擁護している *4 。しかし、クレインの擁護論を額面通りに受けると、イラクの戦場に行ったことがない者は戦場報道を批評してはいけないことになってしまう。現場の経験に勝るものはないが、その現場経験からイラク戦争への新たな示唆が提供されなければ意味がない。もしブッシュ政権の命運と戦局を左右する前代未聞の新輸送機のようなものが存在し、その中にNBCが初めて入るならともかく、よくある輸送ヘリにただ「乗った」ことがニュースだと思うなら、過剰な「体験主義」だろう。「ヘリに乗った」「イラクに行った」だけではニュースバリューがないと知っていたのは当のウィリアムズであり、だからこそ「撃ち落とされた」「死にかけた」ことにしてしまったのかもしれない。

3つ目は、ウィリアムズの一連の自己宣伝的な態度である。ウィリアムズはニュース報道以外の場面で「武勇伝」を吹聴し過ぎたようだ。今回の問題で、デイビッド・レターマンの番組の映像が何度も放送されたことで、「ウィリアムズは記憶間違いだったのかもしれない」という擁護論の形勢も悪くなっている。高視聴率のコメディ番場組に出て自慢げに語り、救出してくれたという元軍人とアイスホッケーの観戦をしてそれをカメラに撮らせて自分の番組のニュースにしてしまった。さすがに武勇伝を売り物にしていると言われてもしかたがないし、「うっかりの誤報」という説明はもはやつかない。モリーン・ダウドらが最も激しく批判するのもこの点である。ダウドは「夕方ニュースのアンカーは権威ではない。彼らはエンターテイメント、ブランディング、クロス・プロモーション・ビジネス(cross-promotion business)の一部である」と断じている。2003年の報道だけに留めていれば、少なくともレターマンの番組で語ったりしなければ、問題は露見せず、今もアンカー席に座り続けられたかもしれない。

そして最後4つ目は、ウィリアムズがネットワークの夕方ニュースのアンカーマンだったことだ。同じネットワークでもマイナー番組であったり、アンカーマンではなく現場の記者だったり、あるいはネットワーク局でなければ、ここまで世間的に大きなニュースにはなっておらず、局内で処分を受けて終わっているだろう。

アメリカのネットワークのアンカーマン再考

意外に重要なのは、上記のうち4つ目の理由、ネットワークのアンカーマンをめぐる問題にある。一見すると、ネットワークのアンカーともなれば、名誉、高収入、メディアでの権力のすべてを手に入れていたのだから、真相が露見したときの代償の大きい「やらせ」的な発言を意図的にするはずがないと考えられがちだ。一部の擁護論もこの点からウィリアムズを信じようとした。しかし、ウィリアムズが高い代償のリスクにも関わらず「虚言」に走ったのは、むしろネットワークの夕方ニュースのアンカーマンであったことが無関係ではない。言い換えれば、アメリカの夕方ニュースのアンカーマンという職にとって不可避にもたらされるある種の「歪み」である。そこで確認しておくべきは、アメリカのネットワークの夕方ニュースのアンカーマンという職業の特殊性である。日本のニュースキャスターと何が違うのか。

まずアメリカではニュース番組のアンカーマンは記者でなければいけない厳格なルールがある。つまり、彼らは100%ジャーナリストである。ニュースの「読み役」ではない。日本では長くニュースをアナウンサーが中心に担ってきた歴史があるので、「キャスターニュース」の到来以降もアナウンサー出身のキャスターと記者出身のキャスターが混在してきた。記者がキャスターを務めていても、「あのアナウンサーが」と表現される状況が続いている。しかし、アメリカでは頑固といえば頑固なのだが、ニュースのアンカーは記者でなければいけない。このルールの定着には経緯があるのだが、ここでは詳細は省く。いずれにせよ、まずもって豊富な取材経験と原稿執筆経験のある記者でなければならず、その記者の中で読みや中継が上手で、ルックスや声もいい者が、アンカーへと昇格していく。どんな美男美女で美声の持ち主でも(それは相当に有利な要素であるが)、取材経験がない、自前で原稿が書けないという人はアンカーの資格がない。特にネットワークの夕方ニュースのアンカーは放送記者のキャリアの最高峰と信じられてきた。

次に「編集長」としての役割だ。これが記者出身者がアンカーマンを務める理由の1つなのだが、ネットワークのアンカーマンは番組の編集長、筆頭デスクを兼ねている。当日のニュースで何を扱うか、どういう順番でどの程度の尺で扱うか、どの記者を現場に派遣するかなど、人事権まで握っている。権力の範囲はアンカーマンによって、局や番組によって濃淡はあるが、かつてのNBCのトム・ブローコーのように局の経営陣まで交代させてしまった例まである。だからネットワークの夕方ニュースは必ず編集長であるアンカーマンの冠番組である。「NBC Nightly News with ~」「CBS Evening News with ~」「ABC World News Tonight with ~」といった具合だ(withの後の~にアンカーの個人名が入る。「~によるNBC Nightly News」というニュアンスである)。日本でも過去にTBSの「筑紫哲也NEWS 23」の例などがあるが、「冠」は特定の局や番組の試みに留まっている。また、ネットワークのアンカーに近いスタイルで編集権を有した例は、日本のキャスターニュースの歴史でも存在するが、ネットワークのスターアンカーほどの強大な権限を個人で持ったキャスターは過去にいない。ストレートニュースを扱う番組では、新聞記者ではなく生粋のテレビ記者出身がアンカーになるのも、現代までに定着しているアメリカのルールである。

夕方の同じ時間帯に3大局が揃い踏みで、アンカーの個人名「冠」の30分ニュース番組を放送し続けるアメリカは、夕方ニュースだけに関しては変化がない。うちだけ「冠」をやめる、うちだけオンエアを1時間にする、うちだけニュースの時間をずらす、という日本の放送界では日常茶飯事の制作上、編成上の「工夫」がまるで無いのだ。アメリカでは夕方ニュースをアンカー部分抜きで番組を見ると、どの局のニュースか区別がつかないとよく言われるのだが、この金太郎飴のような画一的フォーマットで構わないと長年考えられている。実際には、番組ごとにCGや字幕スーパーのデザインや色に特色があるし、そもそも出演する記者が違うので区別がつくが、一般の視聴者にとっては3局ともそっくりなフォーマットに見える。そのため、アンカーが誰であるかで視聴率のほとんどが左右されるのであり、そこだけが他局との差異化のポイントでいいという考えがあまりに長く根付きすぎた。それがアンカーへの莫大な報酬の根拠でもある。夕方ニュースの編集長であるアンカーマンは、局の報道全体の顔でもあるため、同じ時間に各局が横並びで「顔見せ」をする伝統も自然に思われてきた。そしてネットワークの夕方ニュースのアンカーマンの編集権は聖域化されてきた。こうした変わらぬネットワークのニュースの伝統に対する「外圧」がなかったわけではない。それは24時間ニュース放送と、ネットワークニュースの視聴率の低下という形で忍び寄ってきた。ウィリアムズの今回の「事件」も、文脈的にはその延長線上にある。詳細を次号で検討したい。

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*1 :ネットワークというのはキー局のことである。アメリカには寄付金で運営されている公共放送(PBS)はあるが、NHK的な規模の公共放送は存在しない。そのため歴史的にテレビ報道といえば民放が主流である。1930年代末から1940年代にかけて、ラジオが国民的なイベントを報道するメディアになり、ラジオの聴取者数が新聞の購読者数を抜いた。戦後、テレビがラジオにとってかわる地位を占めるようになり、1960年代には90%近くの世帯がテレビを保有し、テレビ報道といえばCBS、NBC、ABCの3つのネットワーク(キー局)という時代を築いた。

*2 :アンカー(Anchorman, Anchorperson, Anchorwoman)とは、アメリカのニュース番組における番組司会者で日本におけるキャスターに相当する。アナウンサー(Announcer)という職種はアメリカも存在するが、日本におけるアナウンサーとは職務内容が異なり、ニュースの読み手として画面に顔を出す人ではなくオープニングの番組名などのナレーションのみを担当する。日本ではニュース番組の出演者としてのアナウンサーの印象があるので、ウィリアムズを「アナウンサー」と報じている日本の新聞もある。これは文化翻訳を交えた「意訳」としては必ずしも間違いではなく、むしろ日本の読者には親切かもしれない。
しかし、日米で両者は似て非なる職種で、「私はアナウンサーです」とアメリカで自己紹介しても、バラエティの司会からニュースキャスターまでをこなす日本のアナウンサーを想像してはもらえない。他方で報道番組に出演している日本のアナウンサーが、英語で自己紹介したり履歴書を書く際に、超訳で「アンカー」と名乗れば、必ず記者だと勘違いされてしまう。アナウンサー、元アナウンサーがアメリカ留学する際にしばしば生じる問題であるが、マルチなコミュニケーターである日本式アナウンス職を理解してもらうのは至難の業である。「どうしてゲームショーのホストとイブニングニュースのアンカーを同一人物が、別の時期にやっているのか」とアメリカの大学関係者は英文履歴書を眺めては首を傾げる。韓国は比較的日本の放送界と職種事情が似ているが、例えばコロンビア大学にKBSから派遣留学で来ていたアナウンサーは英文名刺の肩書きをAnnouncerのままにしていた。たしかにAnchorという超訳でアメリカ式の記者アンカーを想像させてしまうよりも、正直にAnnouncerと書いて、アメリカのアナウンサーの仕事との違いを別途口頭で補足説明するほうが、誤解を最小限にできるようにも感じる。
尚、日本のアナウンサーの名誉のために補足すれば、アナウンス室から報道局に異動したり、記者クラブに一時期出て、記者訓練を積むアナウンサーも近年増えているし、記者に完全に転向して成功している元アナウンサーも皆無ではない。読みの上手い記者をアンカーに昇格させるアメリカ方式に反して、もともと「読み」のプロであるアナウンサーに事後的に記者経験も積ませるのは、アナウンサーという職種が信頼と華やかさを伴って強く浸透している日本独自の社会風潮を背景にした、日本オリジナルの方式である。

*3 : Maureen Dowd, "Anchors Aweigh" New York Times (Feb. 8, 2015)
*4 : Joe Klein, "Accept Brian Williams's Apology" TIME (Feb. 6, 2015)

渡辺将人 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授

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