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ワシントンUPDATE ブッシュ前大統領とパリ協定

October 25, 2016

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー

9月にニューヨークで開催された第71回国連総会では、2015年12月に採択されたパリ協定に、新たに31か国が批准したことから、気候変動問題に注目が集まっている。これにより、世界で排出される温室効果ガスの47.7%を占める60カ国がその排出に責任を持つことになり、世界の4.5%を単独で排出するインドが間もなく批准することから、パリ協定の発効に最低必要と定められている全排出量の55%も、間もなく満たすことになるだろう。この協定の発効が現実味を帯びてくる中、オバマ政権によって交渉が進められてきたパリ協定は、実はジョージ・W・ブッシュ前大統領の気候変動政策を驚くほど反映しているということを認識すべきだろう。

ブッシュ前大統領は京都議定書の拒否、そして2001年に同議定書には「根本的な欠陥」があると言及したことから、厳しい批判の的になってきた。ブッシュ前大統領と彼の当時の国家安全保障担当補佐官のコンドリーザ・ライスの二人は、それを「自らで招いた傷」と表現し、欧州の協力国と事前の協議をうまく行っていれば、より効果的な気候変動交渉を進めることができたはずだった、と認めている。

故に、現在のパリ協定は、先進国に温室効果ガスの排出削減を課す一方で、急速に成長を遂げる発展途上国に行動を要求しなかった京都議定書は、政治的にも現実的にも機能しないという(ブッシュ前政権が示した)グローバルな認識を、反映させたものとなっている。

実に、パリ協定の成立を可能にしたオバマ政権の外交政策は、ブッシュ前政権による国際的な気候変動戦略の4つの主要な柱に力を注いできた。すなわち①トップダウン型ではなくボトムアップ型(自発的な取り組み)、②先進国だけではなく全加盟国による参加、③明確で検証可能な基準、そして④先進的なテクノロジーを促進する協力である。そのアプローチは実用的かつ解決指向型で、各国が経済的な痛みや、その結果生じる政治的な制約を伴わないで排出削減を進めることができる革新的技術を育むことに照準を合わせている。

これら4つの柱は、京都議定書の欠陥を埋めるというブッシュ政権の取り組みを受け継いでいる。パリ協定を(トップダウンな)拘束力があるものというより、むしろ(ボトムアップな)自発的なものだとして、不満を示す環境活動家たちもいるが、発展途上国を巻き込み、国内の主な懸念材料を払しょくさせる国際的合意を確保するためには、これが唯一の方法だと、ブッシュ政権は長く認識してきた。今では覚えている人はほとんどいないだろうが、1997年の京都議定書をめぐる交渉の際、米上院は「米国は発展途上国のコミットメントのない気候変動対策の合意の当事者にはならない」というバード・ヘーゲル決議が95対0の全会一致で採択している。賛成者の中には41人の民主党議員がおり、副大統領のジョセフ・バイデン、国務長官のジョン・ケリー、そして上院院内総務のハリー・リードが含まれている。

ブッシュ政権は、2007年に「気候変動に関する国際連合枠組条約」(UNFCCC)の当事国年次会合において、最終的にはバリ行動計画を作り出すことになる交渉により、2015年のパリ協定の枠組み構築に繋がる具体的な貢献を行った。バリ合意は発展途上国による「国ごとの適切な削減」を要求しているが、それは発展途上国の排出削減義務を免除した京都議定書の基となった1994年のベルリン・マンデートを覆すものとなった。また同合意では排出削減は測定・報告・検証が可能なもので行われるべきだという原則が示され、さらにパリ協定のもう1つの中核的要素である(発展途上国への)技術移転もこのバリ行動計画の合意で促進された。

そしてUNFCCCでの加盟200か国との面倒な交渉の取り組みと並行して、ブッシュ政権は温室効果ガスの最大排出国との間で、具体的な技術を中心とした協力に傾注してきた。これは結局、2007年にオバマ政権が、名前を変えて設立して開催してきたMajor Economies Meetingに繋がっている。驚くむきもあるかもしれないが、ブッシュ政権はこの会議の名称を当初Major Emitters Meeting(主要排出国会議)と呼ぶよう提案したが、自国が主要排出国と認めようとしない国々からの抵抗にあった。2015年12月のパリ会議で発表された、世界のクリーンエネルギーの研究・開発の80%を行っている20カ国が、今後5年で投資を二倍にするという「ミッション・イノベーション」というイニシアティブには、主要排出国会議の創設に参加した多くの国が含まれ、(ブッシュ政権が始めた)技術中心のアプローチの上に協力が構築されているのである。

ブッシュ政権は、その父のブッシュ大統領とその政府高官らが今後数十年の間に気候変動を止めて、改善させるための持続的な政治的支援を得るためには、既存の必要不可欠なエネルギー源の価格を上げるようなやり方では駄目で、コストが下がるクリーンエネギーを作ることが必要だという認識のもとに、技術革新に集中してきた。そしてそれは、今日も存在する技術に特化した多国間協力や、米国内でのエネルギー研究への投資を増やすモチベーションの背後にあったのだ。それらの中には、排出された二酸化炭素を固定して貯蔵する「炭素削減リーダーシップ・フォーラム」、オバマ政権下で名前を少し変えた「水素燃料経済のための国際パートナーシップ」、現在は国際原子力エネルギー協力フレームワークと改名された「グローバル原子力パートナーシップ」、農業や炭鉱、埋立地などから排出されるメタンを取り込み再利用を目指す「メタン市場化パートナーシップ」など、多くのものがある。ブッシュ政権はこのようなパートナーシップにより、温室効果ガスの排出削減ための技術革新とその共有が加速化することを望んでいた。

ブッシュ政権に関わった者以外で、今日の気候変動政策におけるほとんどのイニシアティブや合意へのアプローチの起源がどこにあるかを知っている者はほとんどいないだろう。もしパリ協定が発効した際には、その支持者たちは、今ある国際的な気候変動政策を形作った米国の前大統領に感謝の意を示すべきだろう。

オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
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