10月18日,西沢和彦 日本総合研究所主任研究員より「わが国の年金制度と改革の行方」に関して報告を受け,その後メンバーで議論を行った。
1.わが国年金制度の問題点
わが国の年金制度が複雑で難しいと言われるのは、政府の示す2階建ての体系図が年金制度の実態を表していないことに原因がある。年金制度は、もともと様々な制度が分立して成立しており、1986年にはじまった基礎年金もこの分立を前提とし、制度間の財政調整によってその財源を調達している。たとえば厚生年金の加入者は、厚生年金保険料のみを払うが、将来の給付は基礎年金勘定からの基礎年金と厚生年金からの“2階部分”の2本立てとなっており、社会保険方式の基本である給付と負担の対応関係は大きく崩れてしまっている。この他、第3号被保険者や受給資格期間の問題、制度の公平性・透明性といった課題も、基礎年金拠出金という財政調整に起因しているといってよい。この問題を解消するためには、まず1階と2階の財源の分離が必要となる。
2.スウェーデン方式導入の可能性
改革の方向性のひとつとしてスウェーデン方式に言及されることがある。給付と負担の関係も明確で、保証年金の存在により、無年金や極端な低年金もない。理想的な年金制度であるのは確かだが、その成立には様々な前提条件が必要である。男女の就業率や賃金の格差の小ささ、高い出生率や移民による安定的な人口動態、子育て世代や女性に優しい雇用環境、勤労世代への手厚い所得保障、所得の捕捉を含めた税制・徴税制度などがそれである。日本においては、こうした前提条件が持たされていない。スウェーデン方式を導入すれば、薄っぺらな所得比例年金、保証年金への集中を招きかねない。
民主党案はもともとスウェーデン方式を強く志向していたが、6月の中間とりまとめではこの点が従来よりも抽象化されている。この点は選択肢を広げたという意味で、肯定的に捉えている。
3.改革案-カナダ方式の志向
より現実的な改革の方向性としてカナダ方式をあげたい。具体的には、消費税を財源に5万円程度の基礎年金を給付。一方で、納税者番号等の整備によって金融資産所得も含めた総合所得を捕捉できる体制を整え、毎年インカムテストを行って、低所得者に対しては最低所得保障を上乗せする。2階部分については、現行制度を前提に考えれば、基礎年金拠出金分を除いた保険料率は10%くらいになるが、労働時間等の制約もすべて外し、正規・非正規の区別なく加入できるものとする。この改革により、1階・2階の財源が明確になるとともに、未納や未加入の問題はなくなることになる。
4.議論
・税方式にした場合には、今まで保険料をきちんと払ってきた人とそうでない人への給付に差をつけるために、移行期間を長く取る必要がある。
・税方式への移行は、第3号被保険者の問題を解決するというよりは、見えにくくしているだけという人もいる。
・ポーランドでは、少子高齢化が進展する中でスウェーデン方式を導入したため、年金の所得代替率の将来見通しはかなり低いものとなっている。
・保証年金の受給に関して、インカムテストの範囲をどうするかは重要な問題。スウェーデンでは所得比例年金に限定されており、非常に緩やかなものとなっている。カナダでは給与収入と所得比例年金を足したものを対象にしている。