概 要
第1回では、都内で訪問介護サービス事業などを展開する「いきいきらいふ」社長の左敬真さん(日本介護協会代表理事)、神奈川県相模原市を中心にデイサービス事業などを実施している「メガエフシーシステムズ株式会社」社長の中島康博さん、全国各地で在宅介護サービスなどを手掛ける「株式会社日本介護福祉グループ」副社長の斉藤正行さんに対し、東日本大震災の対応や今後の制度改革に向けた課題などを聞いた。
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
<インタビュイー>(画面左から)
左敬真((社)日本介護協会 代表/株式会社いきいきらいふ代表取締役 )
中島康博(メガエフシーシステムズ株式会社 代表取締役社長 )
斉藤正行(株式会社日本介護福祉グループ 取締役副社長)
※このインタビューは2011年4月11日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/flash/viewer.swf
要 旨
震災直後はガソリン確保に苦労
3月11日に発生した東日本大震災。避難生活の長期化など影響は今も続くが、介護分野でも直接的な被害を受けた被災地に加え、首都圏の介護事業所でガソリン不足に陥るなど様々な形で、震災の影響が波及したという。
斉藤さんによると、「(震災によって)事業が継続できなくなる被害は出なかった」としつつも、被災地の営業所に関しては、ライフラインの寸断、人員・食料の不足などの事態に見舞われたため、5カ所ほどの事業所が2~3週間程度、営業中止に追い込まれたという。
左さんも「(首都圏の営業所では)デイサービスで高齢者を迎えに行こうとしても、ガソリンが不足していたので、ギリギリの対応だった」と話した。
ただ、休止していた日本介護福祉グループの営業所は4月から再開。いきいきらいふの事業所も平穏を取り戻しており、現在は被災地から避難して来た高齢者を対象に、デイサービスセンターの風呂を夜間に開放しているという。
一方、メガエフシーシステムズの中島さんは「震災による影響は特段なかった」と振り返った。同社の事業所では当日の地震後も余震が相次いでいるにもかかわらず、高齢者を安心して預けてくれるデイサービス利用者が多かったという。
さらに、東日本大震災は緊急連絡体制の不備を浮き彫りにした。左さんは「携帯電話が不通になり、(道路渋滞などで)すぐに駆け付けられない。空白の1日が起きた。(事前に準備していた)緊急マニュアルのフローが通用しなかった」と話す。
斉藤さんの所属する日本介護福祉グループでは、首都圏で震災の混乱が落ち着いて来たのを受けて、社内の危機管理マニュアルを改定したという。具体的には、事業所ごとにブログやツイッターの開設を義務付けたほか、食料の備蓄も促した。
このほか、インタビューでは被災した要介護高齢者の受け入れ態勢も話題となった。厚生労働省は被災地の高齢者を全国の施設で受け入れるよう要請しており、数多くの施設が受け入れを表明した。
しかし、実際には「認知症患者は不可」「寝たきりはダメ」などの条件を付けている施設も少なくなく、受け入れは難航しているという。
例えば、斉藤さんによると、日本介護福祉グループは福島県南相馬市の要介護度の重い高齢者18人をデイサービス事業所で受け入れているが、デイサービスは高齢者を一時的に預かる介護保険サービスのため、高齢者に長期間宿泊してもらうことを想定していない。このため、受け入れに際して、地元自治体から「半年ぐらい長期間住む形になるのならば老人ホームの規定に変わる。全国には多くの受け入れ余地があるため、デイサービスで長期間の宿泊を伴う受け入れは好ましくない」とクギを刺された。
しかし、マンパワーを割かれる要介護度の重い高齢者については、受け入れに難色を示す施設が多いため、実態は大きく異なるという。
「後出しジャンケン」は避けるべき
介護保険制度の改革に向けた課題も議論された。
介護保険制度は2000年の創設後、3年に1回の頻度で制度を見直しており、24時間対応の定期巡回サービスの創設や療養病床の廃止期限延長などを柱とする介護保険法改正案が通常国会に提出されているが、参加者からは現行制度に対して注文が相次いだ。
まず、財政難からサービスの選択肢が狭められている点。介護保険制度は従来の措置制度(=行政が福祉サービスを実施する制度)の代わりに、利用者が民間による様々なサービスを選択できる仕組みを採ったことが特色。
しかし、斉藤さんは「(制度の創設で)一気に事業者が増えたが、(財政難を受けて)ルールを細かくしたり、事業所参入に規制を掛けたりして、利用者にとって選択できない環境が作られている」と指摘。その上で、「(利用者による自由なサービス選択を認める)本来の趣旨に立ち返って、利用者の選択肢を広げるべきだ」と注文を付けた。
中島さんは「高齢者にとっては、何でも自分でできる方がいい。介護(保険制度の基本)は自立支援にある」と強調した。現行制度では寝たきりの高齢者を増やすと、施設に入る介護報酬が増える仕組みとなっている。このため、中島さんは「介護職員がリハビリを実施して介護度が下がった時、介護収入が上がるメリハリの効いた制度設計が必要」と語った。
左さんは「後出しジャンケン的な制度の作り方」を問題視した。
制度創設後、様々な民間事業者が参入し、民間の工夫によって介護サービスも多様化したが、左さんは「(役所サイドから)進む前に『だめ』と判断されると、お客さん目線の事業の先が見えなくなるし、働いているメンバーのモチベーションも下がり、最終的に措置制度に戻る」と懸念を表明。
その上で、左さんは「(サービス供給を)民間に任せたならば(現場の裁量を)走らせながら、方向修正すればいい」と注文を付けた。