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第4回「介護現場の声を聴く!」

April 22, 2011

第4回目のインタビューでは、全国各地で在宅介護サービスなどを手掛ける「株式会社日本介護福祉グループ」の生活相談員として千葉県市川市の事業所で務めている横尾日出美さん、都内で介護や保育関連施設を展開する「株式会社global bridge」の民家改修型施設「やすらぎ家鎌ヶ谷亭」でケアを担当する船造留美さん、神奈川県南足柄市などでデイサービス事業を展開している「メガエフシーシステムズ株式会社」介護福祉事業部統括マネジャーの小川剛さんに対し、東日本大震災の対応や現場が直面する課題、介護業界に入った動機などを聞いた。

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
三原岳(東京財団研究員兼政策プロデューサー)

<インタビュイー>(画面左から)
横尾日出美さん(株式会社日本介護福祉グループ茶話本舗デイサービス卯月生活相談員)
船造留美さん(株式会社global bridge介護部やすらぎ家鎌ヶ谷亭)
小川剛さん(メガエフシーシステムズ株式会社介護福祉事業部統括マネジャー)

※このインタビューは2011年4月11日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/flash/viewer.swf

要 旨

計画停電で暖房がストップ

インタビューは今回も東日本大震災の影響から始まった。

ケアプラン作成を担うケアマネージャーや家族から相談を受け付ける生活相談員の横尾さん。それほど大きな影響は感じていない半面、独居や寝たきり高齢者の健康状態に関してケアマネージャーからの相談は増えているという。

震災当時、施設で勤務していた船造さんは物資やガソリンの減少に加え、計画停電の時に備蓄がないのに、商品が品薄で何も買えない事態が続いたため、「1週間ぐらいは心配する雰囲気があった」と話す。

また、小川さんはガソリン確保に腐心したと述べた。品薄でガソリンスタンドの前に長蛇の列ができたため、小川さんはデイサービスの3事業所について、燃費や備蓄量からガソリンの残存量を予想したり、給油できるガソリンスタンドの確認作業に追われたりした。

さらに、計画停電の煽りも受けた。小川さんによると、停電時間が午後3時20分から7時40分の時間帯にセットされた時が一番辛かったと振り返る。まだ3月中旬と言えば肌寒い時期。それにもかかかわらず、停電で施設のコタツやストーブが止まり、高齢者からは寒さを訴える声が相次いだためだ。

高齢者の入浴時間についても調整に苦労したという。事業所では午前9時45分から午後4時まで風呂に入れるよう決めており、午後4時以降に風呂に入れると、介護保険の対象外になる。しかし、計画停電で風呂に入れる時間が制限されたため、規定の時間内に入浴を済ませる上で苦労したという。

高齢者との触れ合いがやりがい

質問は介護職を志した動機に移った。

介護職に就いて2年目の横尾さんは「中学校の時に見た祖母の笑顔が動機」と振り返った。中学生の時、祖母がパーキンソン病にかかり、介助がなければ衣食住できない状態で病院に入院していたという。その際、「看護師や医学療法士が良くしてくれて、(祖母が)私でも見たことのない顔を見せて、私もやりたいと思った」という。

実際、介護職に従事した今も、横尾さんは「高齢者の笑顔を見ると、私も安心する。やってて良かったと思う」と話した。

一方、「人の心をケアしたい」と考えて福祉職を志した船造さん。中でも高齢者をケアする介護職に従事したのは「人の最期の時間を一緒に過ごして、その人の考え方や価値観を見ることができるのではと思った」という。

実際、「利用者と話している時、特にケアを通して触れ合えている瞬間が楽しい」と話す。例えば、認知症患者と接した際、「風船バレーをやろう」と言って風船を飛ばしたところ、「やらないわ!」と言いつつも、高齢者が笑顔で風船を返した瞬間、「やってて良かった」と思うという。

その反面、以前に働いていた特別養護老人ホームでは高齢者と会話する余裕がなかったようだ。

今から考えれば「特殊だったかも…」と振り返る特養はユニット型で入居者10人に対し、職員2人。このうち、1人の職員は早番で朝7時半から勤務する一方、もう1人は夜勤で2つのユニットを見る必要があり、食事を準備しながらコール対応や掃除・排せつ物の処理、記録といった事務に当たらなければならず、日常業務に忙殺されて高齢者と接する時間はわずかに止まったという。

介護職に従事するきっかけとして、子育ての経験を口にしたのは小川さん。

小川さんの勤務するメガエフシーシステムズは従来の飲食業に加えて、約3年前から介護に進出。その時点から会社側から介護職に就くよう誘われていたが、「子育ての排せつ処理や服の着替えを通じて(介護職の)イメージが付いた」という。

また小川さんによると、介護職と飲食業に共通点が多いという。介護の世界と言えば、身体的介助のイメージが先行しがち。しかし、小川さんは「実際には精神的ケアの方が重要。利用者が何気ないことで視線をそらしたり、急にしかめっ面になったりするといった部分で、人間を観察する力は介護に必要」と話す。

さらに、飲食業では「グラスを傾けた時のシルエットでドリンクの残りを予測する」「グラスを置いた後、氷がカランと鳴ったらドリンクがなくなっているので、お代わりを勧めに行く」といった部分が重視されているため、こうした細やかな配慮が介護職と共通しているという。

「サービス業全般は『有り難う』と言われると、人の役に立っていると感じられる仕事」。小川さんはこう強調する。

一方、ケアの時に辛く感じる瞬間は認知症患者の思いを理解できないこと。小川さんによると、認知症患者が怒っている時にも相応の背景や理由があるにもかかわらず、どうしてもケアしている側は利用者の思いを全て理解し切れず、もどかしさを感じるという。

介護予防に力点を

離職率の高さが指摘される介護業界。横尾さんと小川さんによると、就職した翌日に来なかった人がいたという。

中でも、小川さんによると、その職員は「特養だと忙しくて高齢者と触れ合えないので、小さい事業所に来ました」と言っていたのに、1日目の仕事が終わった後に「(利用者との)距離が近過ぎて嫌だ」と言って辞めたという。

小川さんは「高齢者にお世話させてもらうことによって存在価値が得られる。高齢者と距離を縮めることで、『生きてて良かった』と思ってもらえる。ただ、単に『行けば(給料を)貰える』という気持ちで来れば、すぐに辞める人が出て来る」と話した。

今後の制度改革に向けては、横尾さんは「今の保険制度ではお金を持っている人は幾らでも(サービスを)使えるけど、そうじゃない人のケアが足りない」と指摘。船造さんは「特養が完成すると、利用者待ちの人が応募してくる。そうならないよう特養を造れないのか」と話した。

また小川さんは「介護予防に力点を置いてほしい。地域包括センターを活用し、介護予防で介護される人が少なくなれば、『何歳まで生きれば国から支給される』といった形で、お年寄りの(長生きする)楽しみを増やしてあげるのはどうか」と話した。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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