第19回のインタビューでは、「社会福祉法人世田谷区社会福祉事業団」特別養護老人ホーム上北沢に勤務しつつ、介護関係者の勉強会「介護ラボしゅう」を運営する中浜崇之さん、小規模デイサービスなどを展開する「株式会社日本介護福祉グループ」の管理部長代理を務める落合伴重さんに対し、宿泊付きデイサービス(お泊まりサービス)など介護サービスの実情や将来像を聴いた。
インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
中浜崇之さん=「介護ラボしゅう」代表、「社会福祉法人世田谷区社会福祉事業団」特別養護老人ホーム上北沢ホーム勤務
落合伴重さん=「株式会社日本介護福祉グループ」管理部長代理、「一般社団法人日本介護ベンチャー協会」事務局
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2011年7月25日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/flash/viewer.swf
要 旨
ショートステイと、お泊まりデイの違いは?
第19回のインタビューでは、施設系サービスと在宅系サービスの違いが主な話題となった。介護保険のサービスは特養、老人保健施設、介護型療養病床などの施設系と、短期入所生活介護(ショートステイ)、訪問介護、通所介護(デイサービス)などの在宅系に大別され、分かりやすく区分すると、中浜さんの勤める特養は施設系、落合さんの勤める会社は在宅系になる。中浜さんの勤める特養は入居者が100人いるほか、最短2~3日、最大2週間程度のショートステイとして20人を受け入れている。一方、落合さんの会社は民家を改修したデイサービス事業所を全国で展開している。
こうしたサービスについて、中浜さんは「自宅で最期まで生活したい人が多い。自分が(高齢者になった時のことを)考えても同じ」と語り、在宅系の潜在的なニーズが強い点を指摘。その反面、「家庭の事情で家にいられない方もいる中で、特養は受け皿となる」と話した。すると、落合さんも家庭の事情という点について、一人暮らしの高齢者から鍵を預かる時もあることを披露しつつ、「色んなサービス会社が来ている場合、その分、合い鍵を(何種類も)作る。(高齢者と)家族の関わり方は様々。家族の事情が凄く見える」と応じた。
さらに、中浜さんはショートステイについて、家族が出掛けたり、介護疲れを癒したりするための「レスパイト施設」(=一時休止)という認識が強いため、中浜さんの特養では「利用希望者が多く、(希望日を聴取する日には)先着順で取れるか取れないか。日程が合うか合わないか(で取り合いに)になる。」という。
一方、首都圏を中心に近年増加している「お泊まりデイ」も、高齢者を一時的に受け入れている点で、特養やショートステイと同様の機能を担いつつある。介護保険制度上では通常、デイーサービス事業所で高齢者を受け入れることができるのは4~6時間か、6~8時間。
これに対し、お泊まりデイは介護保険サービスの対象外として高齢者の宿泊を受け入れている。落合さんは「(お泊まりデイを利用している期間が)年単位の人もいる。それぐらい施設が足りていない」と話した上で、「家族から見れば、お泊まりデイも特養も泊まりということでは同じ。(施設系と居宅系の)概念は凄く近くなる」との見解を示した。
さらに、お泊まりデイサービスが増加している背景について、中浜さんは「突然、ショートステイに来ても(施設側が)対応できない。お泊まりデイサービスは普段から(利用者を)見ているので家族も安心する。自宅とショートステイのギャップを埋めるための存在」「ショートステイに入れない事情があり、お客さんのニーズがあるのに対応できないところで(お泊まりデイは)発生して来た」と解説してくれた。
その後、施設系と在宅系の違いも話題となった。
まず、中浜さんは職員の定着率が低い点を挙げた。介護現場の離職率は他の産業よりも高く、財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査結果」によると、介護従事者の離職率(2008年10月~2009年9月)は17%と高止まりしている。
中でも、中浜さんは在宅系に比べると、施設系は離職する割合が大きい点を指摘した。その理由としては「施設の方が(高齢者の)要介護度が高いため、施設の方が肉体的にきついため」という。
さらに、落合さんは「施設系と在宅系の間で(転職する)職員の移動は少ない」と述べた。落合さんによると、施設から認知症対応型共同生活介護(グループホーム)に転職するケースは散見されるが、施設系から在宅系に移る人少ないらしく、転職のパターンとしては「施設系⇒施設系」「在宅系⇒在宅系」が多いという。
このほか、介護サービスを利用する男女比率も話し合われた。中浜さんが「元は女性の職場。6対4で(職員は)女性の方が若干多い」と紹介してくれたほか、利用者の比率も女性が9割程度占める点を明らかにした。その理由として、男性の方が「他人の世話になりたくない」という思いが強いことに加えて、女性の方が長生きすることも挙げた。
確かに厚生労働省の推計によると、男性の平均寿命は79・64年、女性の平均寿命は86・39年と、8歳近くも違う。このため、認知症や寝たきりの高齢者に関しても、平均寿命の長い女性の方が多い半面、夫に先立たれる女性の割合は多くなる傾向にある。
しかし、2人によると、妻を先に亡くした男性の方が周囲から孤立する可能性が高く、中浜さんは「ホームにいる人は奥さんが亡くなった後、子供が近くに住んでいなくて入って来る男性。コミニティを作るのは、女性の方が圧倒的に上手」と発言。
すると、落合さんも「独居は(妻に先立たれた)男性が多い。女性は家族なり、親戚なりが同居しているのではないか。男性は『依存したくない』という気持ちがある」と、訪問介護の際の実感を披露した上で、「奥さんに先立たれたら弱い。女性の方が左右されない。女性は強い」と話した。さらに、落合さんは「自分も子どもに介護して貰うのは嫌かな…。正直、自分が介護されることをり合うに話し合うことはない。外に置いてしまっている」と述べた。
介護職の苦労として腰を痛めるリスクも話題となった。
第18回インタビューで、高齢者をベッドや車椅子から運ぶ際、その重量が腰に負荷を与えるため、腰痛に見舞われる職員が少なくないことが話題となったが、中浜さんは腰が痛くて仕事できなくなったことはないという。一方、約7年前に介護業界に入った直後、落合さんは腰を痛めた経験があり、「腰が1週間ぐらい痺れていた。(最初の頃は)力に頼る」と振り返りつつも、「体の使い方に気を付ければ腰(を痛めることは)は確実に防げる」と強調した。
さらに、介護福祉士が看護師のような業務独占ではなく、名称独占の資格である点も話題に上り、落合さんが「(事業所の重要事項説明に)有資格者の人数を入れる所があるが、通所介護や入浴介護は無資格でも働ける」「外国の方が介護職のレベルが高い。看護師並みの知識があり、医療行為もできる」と語った。
「介護ラボしゅう」の挑戦
インタビューでは、中浜さんが運営する勉強会「介護ラボしゅう」の話題も出た。勉強会は昨年5月にスタートし、毎回15~20人程度が参加している。
また、名称の「しゅう」を平仮名にしたのは「集」「習」「修」「秀」「就」などの意味が込められており、介護業界の関係者や介護に興味を持っている人が「今の仕事を選んだ理由は?」「介護職の喜びは?」「食事介助で気に掛けていることは?」「入浴介助の際に気に掛けていることは?」「生活で安心を感じて貰うために必要なことは?」「といったテーマについて、中浜さんの地元である東京都世田谷区で毎月1回開催している。
第15回(8月18日開催)の勉強会で使っていたのは「KJ法」と呼ばれる方法。まず、この時は「チームケアに必要なことは?」というテーマについて思い付いたことをカードに書き出し、集まったカードをグループごとに分類する。その上で、グループ化されたカードを1枚の大きな紙に配置して図解を作成し、重要な事柄を整理して行く方法だ。今後は「自分が高齢者だと、どんな介護職に見て貰いたいか?」といったテーマで話し合うことも想定しているという。
中浜さんは勉強会を始めた理由として、「在宅サービスと施設の職員では、仕事の内容が違う。考え方が違う所で、お互いに話すと、自分の知識だけじゃない考え方が広がる」と話した。例えば、利用者との接し方を見ても、施設系よりも在宅系職員の方が「お客様」という態度が鮮明という。その反面、特養などの施設系では狭い空間で長時間接するためか、中浜さんは「(施設系の方が)馴れ合いが出てくる。それが良かったり悪かったりする」という。
一方、お泊まりデイサービスと特養の間でサービスの違いが少なくなっている点を引き合いに、「(将来的に)施設や在宅(のサービス内容)が一緒になることを考えると、特養でしか学べない知識、在宅じゃないと学べない知識を(お互いに)今から入れた方がより良い介護士になれる」と語り、施設系と在宅系が勉強会で交流する意義を強調した。
なお、最初は宣伝せず、知り合いの口コミで始めたため、最初は施設系が多かったとのこと。しかし、現在は在宅系、施設系で半々ぐらいになっており、中浜さんは「(外部の)当たり前の意見を聴かないと、現場にいると頭が固くなる」として、介護業界以外からの参加も呼び掛けていた。