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第30回「介護現場の声を聴く!」

November 3, 2011

第30回目のインタビューでは、東京豊島区で24時間訪問介護事業などを展開している「有限会社マルシモ」代表取締役の下地正泰さん、高齢者向けに配食や見守りサービスを提供している「宅配クックワン・ツゥ・スリー」豊島東・文京店代表の鈴木達也さん、「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」部長の西谷剛さんに対し、豊島区の介護事業所で結成した「豊福会」の取り組みや、介護業界に入った動機などを聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>
<画面左から>
下地正泰さん=「有限会社マルシモ」代表取締役
鈴木達也さん=「宅配クックワン・ツゥ・スリー」豊島東・文京店代表
西谷剛さん==「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」部長
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2011年10月24日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/embed/recorded/18079437/highlight/213464

要 旨

「豊福会」結成の狙い

第30回目のインタビューでは、東京都豊島区の福祉事業者で構成する「豊福会」を結成する理由から始まった。

(→豊福会のブログはこちら)


豊福会は「介護従業者の人材育成を図り、豊島区に地域貢献する」「会社組織の枠を超えた、ネットワークを構築し相談できる『なかま』をつくる」などの点を目指して、今年7月に発足した。中心になったのは豊島区の在宅介護事業者7社で、出演して頂いた3人は中心人物。

西谷さんと下地さんによると、会が始まる以前から飲み会を開いていたが、「何か建設的な話をやろう」ということになり、「飲み会の延長線」として会が発足することになったという。さらに、豊島区の介護事業所同士の繋がりを強固にする目的に加えて、豊島区役所の担当課や地域包括支援センターに参加を呼び掛けるとともに、介護事業者向けに勉強会や人材育成セミナー、交流会などを年間スケジュールで組んで行く予定。下地さんは「地域コミュニケーションを根付かせるのが最大の目的。民間単独よりも役所は外せない。活動を報告している」と語る。

西谷さんと下地さんによると、役所の関係者はセミナー後の交流会(=飲み会)に参加しないものの、セミナーに顔を出すなど好意的に受け取って貰っているという。

さらに、横の繋がりが思わぬ効果も生んでいるとのこと。例えば、西谷さんによると、介護報酬の申請書に関する区役所の指導についても、「何の書類を見られたとか、どういう視点で見て来たかを共有する」「横の繋がりで話ができる。『うちもここを気を付けなきゃ』という話ができる」と話した。下地さんも「現場は頑張っているが、管理レベルになると目線や意識が利用者に目を向けなきゃいけない所を行政指導や実地調査、監査に行ってしまう。ケアマネの仕事の量の多さも、それ(=役所の指導)にならって書類を(作る)」と述べると、西谷さんが「指導内容について結構バラツキがある。違う事業所ではお咎めがなかったのに、うちでは突っ込んで来るとか。(役所の)担当が違うからと言って指導内容が違うのはまずい。そういう声を集約して『この指導は適切なんですか?』と行政と交渉をやっていけるといいな」と応じた。

実際、まだ豊福会として要望を声にしたことはないというが、西谷さんは「一社では(提言は)難しい。もう少し会を組織化して実際に現場のどういった問題があるのか吸い上げて、役所と協議できればいい。提言が出来るような会に育つといい」と抱負を述べた。


9割ぐらい苦しいけど…

続いて話題は介護業界に入った動機や仕事の苦楽に移った。

「9割ぐらい苦しいけど、1割ぐらい喜び、楽しみはある」と答えたのは下地さん。元々は一ヘルパーとして介護業界に入ったらしく、利用者からストレートに「有り難う」と言われたことが心に響いたという。下地さんは「やり甲斐を感じる。自分には『いい仕事をやっている』という感覚はないが、職を選ぶことで必然と社会貢献できていると実感した」と話す。

さらに、経営者に立場が変わった現在は「(ヘルパーなど現場業務は)現役に負けるかもしれない。(ヘルパーは)利用者の生活の流れを汲んでやっている。(そこに)ポンと入っていたとしても自信がない」と話しつつも、「自分がそういう思いをしたので、(楽しみや喜びを)従業員にそう思って貰いたい」と述べた。

学生の時に無気力に過ごしていた西谷さんは色々と探して福祉の世界に入ったという。西谷さんは「我々が卒業する1990年代後半頃には『介護保険が始まるので介護が熱いぞ』と聞いていたので、それで専門学校に行って介護の世界に入った」「最初はヘルパー。今はオフィスが殆どだが、ケアマネを兼務しているので、10人ぐらい担当している」と語った。

元々は飲食店を経営していたという鈴木さん。新しい仕事をしてみたいと思って仕事を探している時期に、高齢者の家に食事を日常的に届ける仕事を初めて知ったという。鈴木さんは「『介護業界に行きたい』というよりは『仕事内容が面白そうだな』と思った。デリバリーはピザ屋や寿司屋しか知らなかった。チョット面白そうだなと思って研究し始めたのがきっかけ」と振り返った。

仕事の楽しみとしては、弁当を配達した時に「昨日の弁当は美味しかった」と言われることに単純に嬉しさを感じるほか、「来てくれて安心できる」と言われたことも嬉しかったという。鈴木さんは「ヘルパーが入っている人ならばまだいいが、独居の方は誰も来ないことがあるので、『安心できる』と(言われると)『お客さんから必要とされるんだな』と(感じる)」という。

その半面、苦労としては、「相談に乗って話が長くなる時もある。そこが苦労に繋がる」と漏らす。

と言うのも、利用者は「大体何時頃に食べたい」と希望を持っているが、鈴木さんは「前の方が具合悪くてケアマネージャーに電話している時とか、話が長くなる時とか、次の人に遅れる時がある。その時に叱咤激励を受ける」と話す。鈴木さんは「前の人をないがしろにするわけにいかないし、その辺のバランスが(難しい)」「(配達は)大切な仕事。バランス見てうまく切り抜ける。配達の皆さんに頑張って頂いている」と苦笑いした。

さらに、悪天候の時の配達も一苦労するようだ。例えば、首都圏を直撃した台風15号の時でも、鈴木さんは「台風だからと言って休むわけにいかない。土日関係なく必ず届ける。新聞配達と似たような状況」と強調。しかし、鈴木さんによると、配達で使用している屋根付きのバイクは風が強い時に煽られるため、スピードを落として安全運転するしかないらしく、暴風雨の中で配達員が出て行く姿を見て、「ご苦労様」「気を付けて」と声を掛けたという。

その後、話題は配食サービスに移った。

弁当は直接に手渡すとともに、弁当代は1回ずつ払う人もいるが、1カ月まとめて払う人もいるため、その過程で安否確認に繋がっており、鈴木さんは「異常がある時に報告。(ケアマネや家族も)忙しいし、毎回電話していたら大変だと思う。バイクで一人回って何かあったら連絡する」とのこと。

さらに、鈴木さんは「(離れて過ごしている)家族の人も安心。新しいサービスが生まれて来る。安否確認するだけということもあるかもしれない」と述べると、下地さんも「今の制度上、独居の方に安否確認は訪問できない。行政も高齢者も助かっている」と応じた。

しかし、介護保険外の自費サービスとして展開しているため、徐々に競争は激しくなっているらしく、鈴木さんは「実際はコストとの兼ね合い。そんなに自費ではサービスを(受けることが)できない」としつつも、「保険適用外だからできる部分はある。歯ブラシやティッシュペーパーのリストがあって、買い物サービスをやっている所もある」と紹介してくれた。

実際、テレビが壊れたという利用者から「テレビを買って来て」と言われたことがあるとのこと。その時は断るとともに、「テレビが必要と言っていましたよ」と家族に連絡したというが、今後については「新しいサービスがドンドンと増えるのでは」と予想。下地さんも買い物代行のニーズとして、「ヘルパーの業務として生活支援が入っており、買い物代行などについても一回家に行って買って戻る」と応じた。

その一方で、鈴木さんは「食材費は下げられないし、人件費を削れない。全体のパイを広げるしかない」と、コスト構造から事業の方向性を分析。その上で、食事の充実と安否確認の向上が重要と強調した。食事の充実については、鈴木さんは「弁当箱に5個ポケットがあり、(おかずは)1000アイテム。3カ月取って全く同じ弁当、同じ食材ということはない。余り良くない食材もあるので、(試食やユーザーのニーズで)ドンドンと切り替える。すぐには変えられないが、意見を吸い上げる」と発言した。

さらに、安否確認に関しても、「(安否確認サービスのコストは)弁当代込みという感覚で無償。食事を手渡しするのは基本。ビジネスモデル自体は元々あった。僕がパイオニアという訳じゃないが、それ(=安否確認の充実)が大切な部分」と訴えた。

このほか、ケアマネージャーの業務も話題となった。西谷さんは「(1人当たりの)件数規制があり、規制として決められているのは40件程度。件数規制ができる前は100件ぐらい持っている人もいた」と紹介。さらに、「うちのケアマネージャーは件数が多いので疲弊している。いつも(高齢者の)状態が安定している訳じゃないので、何件か具合が急に悪くなった方とか、入退院の調整する場合とか、家族がクレームを付けて来る時とか、私みたいな上司から圧(力)が掛かると、重なって来るとメンタルのコントロールが(課題になる)」と話した。

一方、下地さんはケアマネージャーの離職率が高いことに言及しつつ、「(ケアマネージャーの場合には)辞めたら廃業する人が多い。仕事のストレスがあって、『こういうことをやりたくない』と現状から逃れたい時に辞めるしかないという極端な選択になる」と紹介。さらに、こうした事態を回避するため、「できる限り会社の売り上げ云々よりも、まともに仕事できる(範囲を)設定し、その中でしっかりやって貰う。仕事内容よりも、会社としてできる事は休暇の取り方とかでやって行くしかない。後はバックアップをどれだけやって行けるか」と語った。


利用上限引き上げを

最後に、制度改革に向けた注文を質問すると、西谷さんは「介護職員処遇改善交付金」の存続問題に言及した。

同交付金は介護職員の平均給与月額を1万5000円引き上げるため、2009年度第1次補正予算で創設されたが、今年度末に3年間の期限を迎えるため、その取り扱いが年末の介護報酬改定の課題となっている。

西谷さんは交付金を介護報酬に組み込んだ場合、2%分の引き上げが必要になる点を引き合いに出しつつ、「(介護報酬を引き上げた場合には)利用者の負担も上がることになる」と指摘。その上で、要支援1の場合は4万9700円、要介護1は16万5800円、要介護度5の場合は35万8300円といった形で定められた居宅介護サービスに関する月額利用上限について、「現場では限度額がいっぱいの中で、これ以上(負担が)増えた時に限度をオーバーする(利用者がいる)。限度額を上げる方向に行けるといい」と訴えた。

同時に、「そんなに(利用上限引き上げが必要な人は)多くないので、個別性を吟味して『この方を引き上げよう』と柔軟な個別対応ができると、在宅でより長く生活できる方が増える」と強調した。

下地さんは豊福会での活動に触れつつ、「(地域で)情報を共有してスムーズにいくことが多い。そういったことを評価して欲しい。一言二言でも『助かっている』ということがあれば、『やってて良かった』と思う」と述べた。

鈴木さんは「(弁当を)多様化して行って美味しいものを運べるようにサービスを磨いて行きたい。あとは結果として付いて来る」と抱負を語った。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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