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第32回「介護現場の声を聴く!」

November 17, 2011

第32回目のインタビューでは、東京都豊島区で民家改修型のデイサービス「すずめが丘」を運営している「株式会社K’s Holding」代表取締役の山崎祥司さん、東京都板橋区と名古屋市で往診の歯科医を運営する「医療法人社団 同人会」常務理事の花岡龍介さんに対し、介護事業を産業化する上での課題や、社会保障改革に向けた意見などを聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>
<画面左から>
山崎祥司さん=「株式会社K’s Holding」代表取締役
花岡龍介さん=「医療法人社団 同人会」常務理事
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2011年11月2日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/embed/recorded/18257016

要 旨

介護の産業化に向けた課題

32回目のインタビューでは、介護事業を産業化させる上での課題が話題となった。

酸素カプセルから起業した山崎さんは介護事業に進出した後の2年弱を振り返って、「そこまで離職率は高いとは思っていない」と総括。しかし、「それなりの対価が必要になる。2~3年、5~10年と若干でも右肩上がりの(給与)体系を取れる仕組みづくりが出来れば、そこまで離職は増えない。『3~5年後も同じ職場で、同じことをやって、同じ環境で…』となったら、従業員もモチベーションを保つのは大変。若い職員にチャンスを与えられる環境づくりを意識している」と、職員のモチベーションづくりに向けて、給与体系の見直しが必要と主張した。

花岡さんも1級ヘルパーを半数以上配置している事業所に対し、介護報酬を加算する仕組みを念頭に、「『ヘルパー2級を辞めて1級を増やせ』みたいな(形で)加算する。その御蔭で2級のヘルパーが集まらない。介護事業所はヘルパーがなくて困っている」と述べた。

さらに、「昔はケアマネージャーが足りなくて困っていたけど、今はケアマネが余っている。昔(のケアマネ)は月給50~60万円ぐらいあったが、今は現場に行ってくれるヘルパーがいなくて何処も困っている。資格を持っている人はたくさんいる」と述べた上で、ヘルパーの給与が安いことを指摘しつつ、「デパートで売り子をやった方が時給が高くなる。これはおかしい。だから離職率が高くなる」と語った。

その上で、花岡さんは「患者(の数)が同じであれば、患者を増やす以外ない。ずっと拡大し続けることで人を雇える。報酬が一定であれば、それに掛けられるコストは上げられない」と話した。

さらに、花岡さんは介護保険の対象外となるサービスが拡大する可能性に言及した。

花岡さんは2000年に介護保険が発足する前、「元気な高齢者が旅行に行くのが不安だから一緒に行く」「疲れたら買い物に行く」などのサービスがあったと紹介。現在も買い物サービスが拡大しているとして、「車いすでもヨレヨレしてても、お年寄りは自分で買い物に行きたい。車で連れて行ってあげて一緒に手を引いて買い物に行ってあげる。代行は代行。自分で見て選ぶのとは違う」「おばあちゃんは買い物好き。スーパーに昼、年寄りが来て買って食べている。楽しみになっている」「最近、一人用のものが多くて充実している。一人で料理するよりも、あれこれできない。たまにはデパチカ(=デパートの地下街)に行って買って食べる」といったニーズを挙げた。

しかし、こうしたニーズを汲み取るサービスは現在、介護保険の対象外。花岡さんは「(昔から)金儲けのテーマは美と健康。(介護サービスを)産業化すべきだ。産業化すれば伸びることはできるが、規制で『介護報酬いくら』とやられるとできない」と不満を漏らした。

さらに、現状の診療報酬・介護報酬の課題として、「サービスを同じ時間、同じことをやっても同じ報酬。心を込めてやろうが、どんなにスタッフが乱暴にやろうが、同じ報酬。それは問題がある」「オペの上手い先生だろうが、この間インターンを卒業した先生であろうが、同じ診療報酬。ベテランの先生からしたら、やっていられない。そういう先生に(診療の希望が)集中するので、余計に疲れる。そういう問題を何処かで解消した方が良い。同じメニューでも松竹梅に分けても良いのでは」と注文。

その上で、「給付している立場からすれば、いちいち区別していられないのかもしれない。では、給付じゃない形を考えた方が良いかもしれない。そうすると、サービスの競争が生まれて、良いサービスをした方がリターンがあり、リターンがあるとスタッフに還元できる」との認識を披露した。

その一例として、花岡さんが「宝くじみたいな話」として切り出したのが、ある会社で聞いた話。あるヘルパーが独居の金持ちのお年寄りをずっと一生懸命やった結果、高齢者は「ほんとに良くやってくれた」として、ヘルパーに遺産2億円を相続させたとのこと。花岡さんは「子供がいない(人だった)ので残しても仕方がない。そういうつもりでやっていない。それを狙ってやるんじゃなく、一生懸命やってたまたま当たった。ヘルパーはすぐに辞めたらしいが、心と心で触れ合った結果としてある」と話した。

このほか、花岡さんは医療・介護の広告規制にも触れて、「介護でも医療でも宣伝できない。行こうと思う人にとっては、どこがどうなのが分からない、口コミ以外にない」と不満を述べた。

山崎さんは年末に控えた介護報酬改定に向けて懸念を示した。2011年の「介護事業経営実態調査」(速報値)で通所介護事業所の収支差率は11・6%だったため、山崎さんは「事業所も努力して数多ある中で、お客様にいいと思って来てくれているから、それなりに利益が残るモデル。利益が残るからこそ、従業員に還付して従業員のモチベーションが上がっていいサイクルになる」と述べつつ、「『単価が高くて利益が大きいから小さくする』『利益が出ているから(介護報酬を)削りましょうか』と言って削られそうになっている。どうやってモチベーションを保って良いのか」と疑問を呈すると、花岡さんも「毎回そう。(利益が)出た分から削る」と応じた。

このほか、花岡さんは「医療関係(の業界団体)はあるけど、介護全体はない。細分化されている」と語り、業界団体がまとまる必要性に言及した。確かに医療の世界は日本医師会、日本看護協会などの団体が存在しており、中でも医師会は開業医を中心として政府・国会に働き掛けを行っている。これに対し、介護は「日本在宅介護協会」「全国有料老人ホーム協会」「日本ホームヘルパー協会」「全国老人福祉施設協議会」などの団体があり、花岡さんは「バラバラでニーズが違うので要求がまとまらない。ニーズが違う。ある意味で為政者としては上手くやっている」と指摘するとともに、「(業界団体に上がって行くまでに)手打ちしちゃってる」と訴えて意見集約の難しさを強調した。


政府の議論はカネだけ

政府の進める税・社会保障改革が主な話題となった。

まず、花岡さんは「所得格差もあるし、マス(=大衆的)の部分、最低の医療を国がギャランティすべきだ。国民皆保険制度がベースで、プラスのサービスがあっても良い」との認識を披露した。その一例として、花岡さんの所属する医療法人が実施している歯科治療で言えば、往診の部分を医療保険でカバーする一方、「75、85歳になって今更インプラントはない。(歯を)何年使うんですか。そういうものには対応力を持って保険で何でもできるが、若い人はインプラントかあってもいい」と話した。

さらに、「(社会保障費は)永久に増えない。200歳まで生きる人はいない。(いずれ自然増の)カーブは緩くなる。(政府の掲げる)ずっと伸びるモデルは嘘じゃないけど全部が本当でもない」「2030年に高齢化がピークを迎えるが、(花岡さんの医療法人が診療所を構える東京都)板橋区のピークは2015年度。(高齢化のペースは)23区でもバラバラ。青森と東京都でも違うのに、(政府は)マクロで2030年と言う」と発言。さらに、花岡さんは「今まで予測が一回も当たったことはないけど、『50年、100年先の日本ってどうなるの?』というモデル化すれば分かる。ここ(=今後15年程度)だけのカーブで言うのはおかしい」と注文を付けた。

同時に、小泉純一郎政権期に医療・介護費をGDP(国内総生産)にスライドさせるアイデアが浮上したことについて、「あれは全く暴論。人口構成とGDPは何も関係ない。食べ物を食べるように医療、介護も必要。それが伸びるのは分かり切っている話。もっと前から分かった話だが、手を打って来なかっただけ」と批判した。

介護報酬の各種加算に関しても、花岡さんは「聖域みたいな感じになっている」と述べた。さらに、「(介護分野の)事業が急拡大しているので、やり方で伸びる余地は相当ある。マーケットがシュリンクしている事業だと、どんな工夫したって大変だけど、需要がドンドン増えている。需要が増えているから金が掛かるから、どうやって財政的に抑えようかみたいな感じ。伸びているのだから伸びに合わせた制度改正が必要」と訴えた。

同時に、花岡さんは「この国は税金をバンバン取るけど、国民が困った時に何もしてくれないということが(東日本大震災で)分かった。自分の事は自分で守らなきゃ。『うちのスタッフをどう守ったらいいんだ』となってしまう」と発言。

さらに、「『困った時は国、自治体が助けてくれるんだ』と思えば、色々とチャレンジできる。セーフティーネットと綺麗な事を言っているけど、ネットはボロボロに破れている。網が大きくて掛からない。細かい問題はいっぱいある」と述べた。同時に、「端的に言うと、(税・社会保障一体改革に関する政府の議論は)カネの話になっている。保障の問題、どういうサービスは二の次になっている。国民に対して『どういうサービスを考えていますよ。年を取って何かあった時、こういうサービスを受けられるよ』という話は説明が全くなくて、マクロで『医療費、介護費がこれだけ伸びる。人が伸びる、だから金が足りない。だからこれだけ消費税を上げる』で終わり。何をしてくれるか全く言わない」「数値とデータの世界になっている。国として10年、20年、国民に対してどういうサービスをするんですよと。そのために金がこれだけ掛かるから税金が欲しいとか。税金を取るのはいいけど、稼いでいる人から取れるようにしないと、稼げないようになったら、痩せた鶏は絞め殺すしかない。稼げるようにして欲しい」と注文を付けた。

このほか、花岡さんは「人口の形態が変わって来て女性が働かないと、働く人が足りないというのはマクロで分かる。しかし、昔の日本は子育ては女性がする。結婚したら辞めて、家の母親が子供を中学生ぐらいまで守る。それで日本の色んな秩序、社会の体制が守られて来た。しかし、子供が帰っても両親が働いて誰も(家に)いない。児童所へ行くかとか、下手すると保育所に入れないので0歳から行かせるとか」「年金は下手すると68歳とか、70歳まで貰えない。ではいつまで働くの。自分の健康に何かあった時は何を見てくれるの。みんな、不安で仕方がない。75歳を超えるとリスクが高くなるが、70歳で年金を貰い出して5年。(70歳まで働ける)職場もない。そういうグランドデザインを考えないと無理」と、子育てや年金問題に関しても注文を付けた。

このほか、花岡さんは「あるデータを見ていると、毎年40万人死亡者が増える。死亡者の看取りをどうするかになっている。墓、葬儀屋をどうするか」との問題意識を披露した。

花岡さんは父親を在宅で看取ったらしく、「(状態が)危なくなったら医者が死亡診断書を書いてくれた。それをやっていないと、解剖で警察を呼ばなきゃならない。遺体を持って帰られちゃう。(変死じゃないことを確認するために)必ず警察が来る。あれは困る。凄い大変」と自身の経験を披露。その上で、「医者が誰でも死亡診断書を書いてくれるとは大間違い。(状態を)見ていないと(診断書は)書けない。だから病院で死亡率が高い」と指摘しつつ、「(死亡者が)40万人に増えたらどうなるか。大混乱する。その制度も変えた方が良い」と提案した。

こうした高齢者が亡くなった場合のケースとして、医師配置が必要な特別養護老人ホームは対応が可能。しかし、デイサービス事業所に医師の配置は義務付けられておらず、山崎さんは「(高齢者が亡くなるケースは)今まだ出ていないが、そうなったら大変なんだろうな…」と話した。

介護保険と医療保険の重複も話題となった。

介護保険の在宅サービスに関しては、同じ内容が医療保険でも提供されている場合、原則として介護保険のサービスが優先して適用されるが、利用者にとって介護保険と医療保険の線引きは曖昧。

花岡さんは「最近のお年寄りは忙しいので、デイに行っている時、『風邪を引いているので医者の往診に来て貰えると嬉しいな』と思っても、介護保険を使っている時に医療保険は使えない。(歯科医は)帰って来る時間に診療しなければならない」との事例を紹介しつつ、「ヘルパーがいないと診療できない人もいる。しかし、医療保険と介護保険がダブるのはダメ。全部(の制度)が国民本位になっていない」と、見直しの必要性を訴えた。

【文責: 三原岳 東京財団研究員】
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