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第35回「介護現場の声を聴く!」

December 8, 2011

第35回目のインタビューでは、東京都豊島区で訪問介護事業などを展開する「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」部長の西谷剛さん、同社副部長の向笠恒一郎さん、豊島区で24時間訪問介護などを手掛ける「有限会社マルシモ」代表取締役の下地正泰さん、同社の居宅介護支援事業所である「有限会社マルシモケアプランサービス」主任ケアマネージャーの下地由美子さんに対し、ケアマネージャー業務の苦労や楽しさ、地域包括支援センターとの連携などを聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>
<画面左から>
下地正泰さん=「有限会社マルシモ」代表取締役
西谷剛さん=「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」部長
下地由美子さん=「有限会社マルシモケアプランサービス」主任ケアマネージャー
向笠恒一郎さん=「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」副部長
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2011年11月21日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/embed/recorded/18659502

要 旨

地域包括支援センターの役割は?

第35回目のインタビューでは、ケアマネージャーの業務が主な話題となった。

ケアマネージャーの正式名称は介護支援専門員。要介護認定を受けた人や家族の相談を受け、居宅サービス計画(ケアプラン)を作り、介護サービス事業者との連絡、調整などを取りまとめる職種。

今も現役のケアマネージャーを務める向笠さんによると、基礎になっている資格がヘルパー、介護福祉士、看護師、理学療法士、医師など数多くあり、大きく分けると在宅、施設のケアマネージャーの2種類あるという。例えば、利用者から「施設に入りたい」と希望された場合、向笠さんの事業所は在宅介護のため、施設のケアマネージャーに繋ぐらしく、向笠さんは「通所介護はケアマネージャーが必要ない。ショートステイ、ケアマネが(これらの)サービスが有効だと思えば繋いで行く」と語った。

一方、下地正泰さんはケアマネージャーの役割として、「介護が必要となった方をマネジメントする。そのサービスが必要になった方々が何が必要なのか、どういうサービスを入れた方が在宅生活をより良く送れるのかを見定めて整えて、介護サービスを導入して行く引率者。介護のプランを立てて、家族や本人と調整する介護の調整役」と説明。その上で、「状況とニーズを照らし合わせて、目的は利用者が少しでも良くなるという前提の下で、家族の介護状況を判断しながら家族が大変であると判断すれば、『こういうサービスはどうでしょうか?』と提案する」と語った。

西谷さんも「(高齢者が)介護の問題で困った時、地域包括支援センターに相談に行って、そこで様々な相談を受ける。『困った』と認識できない時もあるので、民生委員とか、隣近所の人が『あの人、最近おかしいんじゃないか?』と(相談する)。高齢者の相談は地域包括支援センターが受け付けるので、そこから居宅のケアマネージャーに話が来るのが大きな流れ」と話した。

しかし、地域包括支援センターと言っても、一般に馴染みのない存在。その多くは区民センターや介護施設に併設されており、4人が事業活動を展開している東京都豊島区でも同じという。

向笠さんは「老人ホームや役所、区民センターに併設されているので、そういう所に行かないと分かりにくい」と説明。下地由美子さんも「豊島区(の地域包括支援センターは)は8カ所あり、以前3つに分かれていた。保健所と福祉センターを併せて中央、西部、東部から派生していたものを分割した。(今は)何かしらの看板が出ている。区民センターか何かとくっついている」と応じた。

また、下地正泰さんは相談が来るパターンとして、「(豊島区には)独居高齢者が多いので、アパートの大家さんから『あの人が心配だ』と区に訴えるケースが多い。団地だったら団地組合が動いている」と紹介。しかし、「社会との壁があって社会性が失われる。介護保険適用者じゃないとヘルパーは伺えないけど、孤独死を防ぐため、介護ヘルパーを導入して様子を伺わせて(サービス利用の)取っ掛かりをやるケースも多い」「(ケアマネージャの)看板を掲げているので、飛び込みで入って来て『(サービスに)入る方法を教えてくれ』『サービスを導入したらどうしたら良いんだ』(という)」と語った。

これに関連し、西谷さんは「困った段階で(利用者は初めて)調べて(地域包括支援センターに)繋がる。包括の情報は区民だよりに載っているが、若い人は区民だよりを読まない。『地域包括は高齢者相談のエリアだよ』と広報で知らしめた方が良い」と注文を付けた。

一方、向笠さんの事業所は薬局が母体となっていることが強みになっているようだ。向笠さんは「(元々は)薬局をやっているので、近所に薬を貰いに来る人とか、薬局に買い物に来る人が薬局の店員の雑談の中で、『こんなことで困っている』という話が出ると、我々が行って『こうした方が良いですよ』『地域包括センターに行って下さい』と案内が出来る」と発言。しかし、「そういう機会がない人だと、自分で調べてじゃないと繋がりが難しい」と漏らした。

下地由美子さんもケアマネージャーに相談が来る経路として、「口コミで(の波及)力が強い」と述べつつも、「媒体として医者(というルート)もある。近隣の医者から相談を頂く」と語りつつ、「『どうすれば良いのか』と聞ける関係作りを目指してやっている」と話した。

その後、介護職、中でもケアマネージャーを志した動機が話題となった。

向笠さんは保健・医療に興味があったものの、当時は福祉に余り興味を持っていなかったとのこと。しかし、大学在籍中に参加したセミナーで、2000年度に介護保険が始まる話を聞いて、「面白そうだな」と思って調べた所、ケアマネージャーが在宅介護の中核的なポジションを占めることが分かり、興味を持つに至った。その後、ヘルパー2級の資格を取って介護業界に入り、色々な人から「有り難う」と言われることがやりがいを感じる瞬間という。

向笠さんは「やったらやった分だけ(反応が)返って来る。『貢献できているんだ』と実感できて、よりやってみたいという思いが強くなった」と、業務の醍醐味を強調した。

下地由美子さんは介護保険導入前から有料老人ホームに勤めていたが、「ずっと在宅に興味があり、有料(老人ホームでの勤務)で自信が付いてきたので、在宅をやってみたいと思った」という。その後、在宅介護をやり始めた所、介護保険が始まることになったため、「そのまま第1期生で受けてケアマネージャーをやっている」と紹介してくれた。

西谷さんは「(大学時代は)無気力な学生。『人に役に立ちたい』『間違いなく人のためになるだろう』と思った。その時に介護保険が始まるので、(就職案内でも)介護系の案内が来た。『業界も熱くなる』と聞いていたので、飛び込んでみようと思って学校に行った。単純に有り難うと言われるのがやり甲斐だった」と振り返った。

下地正泰さんも「(業界に関わったのは)介護保険が始まる前だったので、一般的に介護と言われるのが施設介護を指していた時代。『介護って何だろうな?』『人の世話をできるんだろうな』と漠然と入って見たら、単純に『凄いな』と思って(続けている)」と述べた。


チームの連携が上手く行くと喜び

その後、話題はケアマネージャー業務の楽しさに移った。4人は「利用者の反応がやり甲斐に繋がっている」と口を揃えて強調した。

まず、下地正泰さんは「利用者のマネジメント、プランニングをするので、(高齢者の生活が)その人の腕に架かってる部分がある」と指摘。このため、「他人の人生背負えない」と苦痛に感じる人もいるという。しかし、下地正泰さんは「『自分がその人を支えている』と実感できた時、凄い嬉しさがある。そこら辺を感じられるのであれば、続けて行ける」と語り、「有り難う」と言われてやりがいを感じると話した。

西谷さんも「(介護保険の)導入時期は困っている方が多い、寝た切りで褥瘡(じょくそう)が凄いとか、『入院した方が良いんじゃないか』という方も自宅にいる時がある。(こうした人に)関わって行く中で色んなサービスを使って、(介護保険制度の目的である)自立支援に繋がったケースを目の当たりにすると、自分の存在価値を凄く感じる」と強調した。

実際、西谷さんによると、人数は少ないが、元気になる人や劇的に症状が改善する人がいるとのこと。西谷さんは「認知症の原因になる疾患が別の所にあり、その疾患を治したことで改善される時がある。(ケアマネージャーは)その原因を探るのに関わる」と意義を語った。

下地由美子さんも「率としては少ないけど、そういうケース(=症状が改善するケース)に当たると幸せに感じる。ケアマネ冥利に尽きる」と発言。同時に、在宅介護の場合には独居高齢者が多い半面、「家族」との関わり合いもキーワードになると述べた。具体的には、介護疲れから家族が崩壊し掛けたり、自殺・虐待が起きたりしかねない状況があるとして、「(そういう極限状況で)笑顔さえない方々が介護サービスで負担軽減に繋げて行き、少し元気になり、いい親子関係が出来たりとか、初めて笑顔が見れた時とか嬉しい」と述べた。

さらに、下地由美子さんは嬉しさを感じる瞬間として、本人や家族を中心に、ケアマネージャーやヘルパー、医師、看護師などがケアの在り方を考えるチームケアが上手く行った時を挙げた。昔は医師を中心とする縦社会だったというが、「本人・家族や関係機関とチームを作り、具体的に上手く回った時。医者が相談してくれて、対等な立場で話が出来るのは『プロなんだな…』と思って嬉しい」と話した上で、「介護保険はあって良かったと思う」と持論を述べた。

これに対し、向笠さんもケアマネージャー業務の楽しさとして、チームワークが取れて困り事が解決して行く時を挙げた。向笠さんによると、チームは多くて10~15人。少ない場合は2~3人らしく、「新たな困り事が出て来るとか色々とあるけど、(チームに)団結力が出て来て、『やってて良かった』『チームが良いな』と思う。上手くまとまって行くチームは『頑張ってまとめなきゃ』と思わなくても、自然とまとまる。こういうのが面白いなと思う」と話した。

一方、ケアマネージャー業務の苦労として、向笠さんは家族・周囲との関係に言及した。向笠さんは「家族が両親に対し、本当は思ってやっているのだけど、ちょっとしたボタンの掛け違いで親子関係がギクシャクする。お互い思っているんだけど、ダメになってしまう」と指摘。その場合の課題として、「(親子間の)思いの違いを修正して行くのが難しく、まとめ切れない(ケースがが良くある)。長年付き合ってきた家族の歴史に踏み込んで行くのは難しい。いつも悩まされる」と語った。実際、こじれた親子関係に踏み込んだ場合、「何で土足で踏み込んで来て…」という反応が返って来る時もあるとのこと。

下地由美子さんも「(利用者の家族に)踏み込んだり、引きずられたり、引き込まれたり……。自分自身がいけないんだけど、巻き込まれてしまう」としつつ、「寄り添ってくれるのは嬉しいけど、(利用者への対応で)何処までが業務か分からない時も出て来る」「謝ってばっかり。親戚一同、近所の方を集めて頭を下げながら調整する。(こういう対応で疲れて)辞めて行く人が多い」と悩みを吐露した。同時に、「(役所向けに)煩雑な書類業務が出て来る。一番困っているのは書類」と不満を漏らした。

これに対し、下地正泰さんは「ケアマネージャーの仕事はサービスの手配。(情報が)ケアマネに集約される」と指摘した上で、「ケアマネが都合の良い時に全部情報が来る訳じゃないので、休みが奪われる所で苦労している人は多い。実際は24時間(勤務)になってしまう」と話した。

西谷さんは管理職の立場として、「うちのケアマネ事業(開始から)5年で、ケアマネは3人。辞めている状況はないが、(他の職種で)スタッフが辞めて行くのが辛い。どうして行くか考えないといけない」と述べた。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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