第38回のインタビューでは、介護講師などを務める「LLCかいごにあ」代表の坂井雅子さん、高齢者住宅の建設などを手掛ける「元気悠遊株式会社」で福祉事業推進室長を務める平山玲子さんに対し、人間関係に起因した職場のトラブル対応や、職員に対する利用者のセクシャルハラスメント対策などを聴いた。
インタビューの概要
<インタビュイー>
<画面左から>
坂井雅子さん=「LLCかいごにあ」代表
平山玲子さん=「元気悠遊株式会社」福祉事業推進室長
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2012年1月10日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/embed/recorded/19675005
要 旨
現場の介護記録は重要
第38回も前回に続いて、介護事業所内部での人間関係、中でも男女間のトラブルが中心議題となった。
前回に続いて、坂井さんが例に挙げたのは老人保健施設で働いていた際のエピソード。認知症の男性利用者が赤の他人である女性利用者を妻と思い込んで、同じ部屋のベッドで一緒に寝ていたため、坂井さんが布団の中を覗いて話し掛けることで、二人を引き離したという。
当時を振り返って、坂井さんは「最後は(リハビリを目的とする)老人保健施設なので、期限が来たら出なきゃいけないので、(二人は)別れた。家族が当日迎えに来て、(男性は)連れられるがまま。女性も取り乱した感じではなかった。(男性は)連れて行かれて帰って来れないと思っていなかった。(認知症だったので)『何処かに行くんだ』『帰って来るのか』と思っていたかもしれない」と語った。
さらに、坂井さんはグループホームに勤める21歳男性の事例も紹介してくれた。男性が夜勤で1人勤務していると、利用者の女性高齢者が迫って来るらしく、いつも逃げ隠れしているとのこと。相談を受けた坂井さんが「ちゃんと職場で言っているの?」と聞くと、職場の仲間には言っていないとの答え。坂井さんによると、女性利用者は放送禁止用語を連発したり、男性を押し倒そうとしたりするため、男性は恐怖に怯えていたし、「職場を辞めた方が良いか」と悩んでいた様子。坂井さんが「(職場のスタッフに)事実を伝えた方が良い」と助言すると、男性職員は「恥ずかしい」と答えたという。
この事例を引き合いに出しつつ、坂井さんは「職員も話したがらない。上司の主任から根掘り葉掘り聞かれる。色々と聞かれてしまう。私も若い頃は言いづらかった。『記録に残せ』と言われても何処まで書いて良いのか(分からない)」と指摘。すると、平山さんも「若い職員は『(記録に残すのは)辛い』と言う」と応じた。
しかし、平山さんは「しっかり記録が残り、(利用者の)言った言葉をカギカッコで残すと、介護記録を見て貰って家族に納得して貰える。家族から本人に話して貰い、止めて貰うことは時間を掛けてやったことがある」と述べ、介護記録を残す必要性を強調した。実際、「『ここぞ』という記録がなかったばっかりに、(家族から)『オタクの対応が悪かったんじゃないですか』と理解して貰えない時もあった。職員にとってはストレスだが、1回2回じゃなく、何カ月分か残してくれないと信憑性がなくなる」と指摘しつつ、「『頑張って記録に残して下さい』『情報共有して下さい』と(研修では)言っている」と語った。
坂井さんも同様のケースに出くわしたらしく、「(利用者の発言を)そのままの言葉で書いた方が良い。家族との話し合いで、家族から『記録を提示しろ』と言われたが、その時に書いていなかった。(職員間で共有する)申し送りノートに書いてある程度。家族から『言い掛かりじゃないか。何も書いていないじゃないか』ということがあった」と経験談を披露。その上で、「(介護記録は)時系列なんで、(事案の起きた)時刻も残した方が良い。自分を守るために記録が大事」と強調した。
さらに、坂井さんは「『指名はないのか』『洗い手が男か。外れだな』という(男性)利用者もいる。(男性、女性の)両方が(シフトに)入るようにしている。男性は『女性がダメ』と言う人はいないが、女性も男性介護禁止の人がいる」「オムツ交換の時に(欲求の)体の変化がある」などの事例を披露してくれた。
実際、こうした事例は氷山の一角らしく、坂井さんは「(利用者から職員に対するセクハラは)何処でも聞く。(表沙汰として)出て来ないだけ。それが原因で辞めてしまう職員もいるので、そういうことが必ずあったら、『1人で悩まず言いなさい』と言っている」「表に出て来ないから『ヘエ~ッ』となるかもしれないけど、介護現場ではそういう話はたくさんある」「昔から進歩していない。(表立って)言う人もいないし、話題にならない」と指摘した。
トラブルと直視を
トラブルの根本的な解決策として考えられるのは、男性が男性利用者を、女性が女性利用者を解除する「同性介助」。しかし、坂井さんは「同性介助を売りにしているところもあるが、(夜勤など職員配置の事情から)実際にはできていない」と述べつつ、「(男女間のトラブルは)生理的な欲求。目を背けちゃいけない」と指摘した。
一方、平山さんも「極端な話」とことわった上で、「介護を受けている人は特別じゃない。今までできていることができなくなっている。できなくなっていることを助けるだけで生活の質(QOL)を保障というけど、できていた事ができなくなって、助けが欲しいと言っているので、そこ(=生理的な欲求)を補うだけでいい。生活の中にあるのならば、そこに近いような形でサービスを提供する必要がある」と持論を述べた。
さらに、坂井さんは自己主張の激しい団塊世代(1945~1947年生まれ)の高齢化に触れつつ、「団塊世代は求めるものが変わって来る。現場でしか離せない経験を包み隠さず話すべきと思っているので、授業で言っている」と力説。
平山さんは「男性の利用者が若い女性のお尻を触るのは、小学生が好きな女の子にスカートめくりをやるのと同じ」と形容し、現場では何処でも起きることと強調。その上で、受講生の反応として、「セクハラに関して授業で掘り下げて言わないので、他の先生がやった資料を基に、『どういう心理でこういうことが起きるんでしょうか?』と(いう質問が来る)」「(受講生が)『どうしているんだろ?』と思っているのに、誰も言わないので、(二人の授業が)『やっと言ってくれる人がいる』という反応」「気にはなっていたけどサラッとセクハラの話しかしないので、『こういうことが起こったらどうなんだろう?』ということが残っている中で、偶然にも私達が話す(ので、反応が良い)」と紹介した。
これに対し、坂井さんは「『何よ!』と終わる人もいるけど、大変なことと悩む免疫のない女性もいる。実技や研修、授業でも(女性の実習生から)『女性(の利用者)と組ませて欲しい』という相談がある」と述べつつ、「マニュアル化は難しいかもしれないけど、『こういうことがあるよ』と言っといた方が良い」と応じた。