畔蒜泰助
研究員
はじめに | 米露関係について | 露中関係について | 朝鮮半島問題について | 総括
はじめに
2012年12月の新政権発足直後から、安倍晋三首相は懸案の北方領土問題の解決を含むロシアとの平和条約の締結に向け、積極的な対ロシア外交を繰り広げている。その戦略的狙いは、2013年12月に閣議決定された『国家安全保障戦略』の中で明記されている。
東アジア地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、 安全保障及びエネルギー分野を始めあらゆる分野でロシアとの協力を進め、日露関係を全体として高めていくことは、我が国の安全保障を確保する上で極めて重要である。このような認識の下、アジア太平洋地域の平和と安定に向けて連携していくとともに、最大の懸案である北方領土問題については、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの一貫した方針の下、精力的に交渉を行っていく。 (下線筆者) [1]
この下線部分が示唆するのは中国と北朝鮮であろう。特に中国の台頭を念頭に置いたロシアとの関係強化が中長期の戦略目標といってよい。
2013年4月、安倍首相はモスクワを公式訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と首脳会談を行った。ここで外務・防衛閣僚による「2+2」閣僚の立ち上げで合意し、同年11月、最初の「2+2」会合が実施された。また同年12月には「2+2」で合意されたテロ・海賊対処の共同訓練が実施された。
安倍首相は2014年2月にもソチで開催された冬季オリンピック開会式に出席するため、再び訪ロし、プーチン大統領と首脳会談を行った。これは前年4月の首脳会談から数えて、実に5度目の首脳会談となった。この場で両首脳は同年秋のプーチン大統領の訪日を実施することで一致していた。
ところがその直後に欧州安全保障秩序と密接に関連したウクライナ危機が勃発する。米国はロシアによるクリミア併合はもちろん、ウクライナ東部で勃発したキエフ政権と親露派反政府勢力の間の内戦にもロシアが深く関与しているとして、ロシアに経済制裁を課し、欧州諸国もEUとしてこれに追随した。すると、ロシアも逆経済制裁を課すなど、米欧諸国とロシアの関係は悪化の一途を辿った。
我が国もG7諸国の結束を重要視する立場から米欧諸国による対ロシア経済制裁の輪に加わった。同時に、安部政権下で関係強化の方向に舵を切り始めていた日露関係へのネガティブな影響を最小限にすべく、その内容を米欧のそれと比較するとかなりソフトなものにとどめた。それでも2014年秋に予定していたプーチン大統領の訪日は事実上の延期を余儀なくされた。
その後、紆余曲折の上、2016年12月、プーチン大統領の訪日は実現した。ただし、これは日露間の領土問題の解決を含めた平和条約締結に向けた両国間の信頼醸成のスタートラインに立ったにすぎない。 [2]
さて、これらの一連の情勢変化に合わせて、東京財団では2014年3月と2015年3月に日露戦略対話を、2015年3月と2016年3月には米国を加えての日米露3極対話を実施してきた。その目的は、日露関係を単なる二国間の文脈の中で捉えるのではなく、米露関係、露中関係、朝鮮半島問題といったより大きな戦略的文脈の中に位置付けて、日露関係の可能性を探ることにあった。
そこで、本情勢分析レポートでは、これら一連の対話も踏まえて今後の我が国の対ロシア政策を考える上での留意点を、米露関係、露中関係、朝鮮半島問題の3つの観点から述べる。
米露関係について
今後の日露関係を考えるうえで、我が国の同盟国である米国とロシアの関係がどうなるかは、無視できない非常に大きなファクターである。
ドナルド・トランプ米共和党大統領候補は、選挙キャンペーン中から対テロでの米露協力の可能性に盛んに言及し、露プーチン大統領に対する肯定的な発言を行っていたことから、トランプ新政権と共に、米国はロシアとの間でいわゆる「ビッグ・ディール」を行うのではないか、との観測が浮上した。
この場合の「ビッグ・ディール」とは、ロシアがいくつかの分野において米国に協力することと引き換えに、米国はウクライナ問題をめぐる対ロシア制裁を解除する、あるいは、より中長期的にウクライナを筆頭とする旧ソ連邦諸国におけるロシアの特別な地位を認めるというものである。これに対して、筆者が今年2月に行った予測は次のようなものだった。
ヒラリー民主党政権が誕生していたらあり得なかった米露関係改善の可能性がトランプ政権下で生まれたのは事実である。しかし、仮にトランプ大統領自身がロシアとの「ビッグ・ディール」を望んだとしても、米議会や軍、情報機関などに根強い反ロシア勢力の強い反対に遭うのは必至であり、現時点での対ロシア経済制裁の解除は、まず有り得ない。その事を十分に理解しているプーチン政権は、ウクライナ問題を巡る対ロシア経済制裁の早期解除などは求めず、まずはトランプ政権との一定の協力関係構築を通じた米国との関係改善の糸口を探っていく。 [3]
実際、シリアでの「対テロ」協力を巡っては、シリア南部での停戦地域の設定などで一定の成果を挙げた。 [4] だが、その矢先、米議会の了解なしには対ロシア経済制裁を解除できない法案が通過し、トランプ大統領もこれに署名したことから、米国の対ロシア経済制裁がトランプ政権下において解除される可能性は消滅した。また、この状況が10年単位で続く可能性も著しく高まった。
ただし、トランプ大統領自身は依然としてロシアとの関係改善を望んでいると言われている。また、今のところ、オバマ前政権時代のような日露関係の改善に反対するような 動きは見られないが、米露関係の長期停滞を“新常態”として受け入れつつ、後述する露中関係も念頭に、日米同盟を決定的に毀損させない中で、中長期の視野に立って、まずは可能な分野・問題から着実にロシアとの距離を縮めていく政策が求められよう。
露中関係について
前述のように、ロシアとの関係強化を目指す我が国が、中国の東シナ海や南シナ海での拡大主義的な活動を念頭においているのは間違いない。つまり、現在の安倍政権の対ロシア外交の背景には、その対中国戦略がある。
ところで、2016年12月のプーチン訪日に繋がる日露関係の転換点は、少なくとも2012年3月に遡る。大統領再登板を目前に控えたプーチン首相(当時)が北方領土問題の解決策は「引き分け」と発言したあの時点だ。同年10月、露安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記が初来日し、同会議と日本外務省との間で戦略対話の枠組みが創設される。この戦略対話の枠組みは、安倍晋三・自民党政権下で国家安全保障局が創設されると、こちらに引き継がれている。
2008年9月のリーマン・ショック以降、ロシアが従来、政治・経済両面において大きく軸足を置く欧州経済が停滞する一方、中国は巨額の公共投資を行い、いち早くリーマン・ショックから立ち直った。中国の海洋政策が積極的な拡張主義へ転じたのもこの時期である。
すると、2011年11月、米バラク・オバマ政権(当時)が前ジョージ・W・ブッシュ政権時代の負の遺産ともいえる中東地域への過度の関与を減らし、アジア太平洋地域へとその重点をシフトさせていくというリバランス政策を発表する。かくして世界の政治経済の中心がアジア太平洋地域へと移行していく中、ロシアもまた過度に欧州地域に依存した政治経済の軸をアジア太平洋地域へと移行させていく政策を取るのは必然と言えた。
そんなロシアにとって、最大の課題はアジア太平洋地域への窓口としてのロシア極東・シベリア地域の開発問題だった。その最重要のパートナーがロシアと長い国境線を接し、いまや世界第二位の経済大国の中国であることは言うまでもない。
ただし、極東・シベリア地域の開発を過度に中国に依存することは、ロシアにとって将来的な政治リスクとなりかねない。そこで中国と並ぶアジア太平洋地域の経済大国である我が国との関係を改善・強化し、その資金や技術を取り込むことで、アジア太平洋地域での政治・経済両面における多角的な外交関係を構築することを目指したのである。
2012年9月に極東の港町ウラジオストクで開催されたアジア太平洋協力(APEC)首脳会議は、そんなプーチン主導の東方リバランス政策を象徴する出来事だった。プーチン大統領が「21世紀のロシアの発展のベクトルは東方の開発にある」と訴えて、東方リバランス政策を正式に打ち出したのは、同年12月の年次教書演説でのことである。
ちなみに、前述のパトルシェフ書記は訪日後、ベトナムに立ち寄っている。ロシアは2009年末、南シナ海において中国と領土問題を抱えているベトナムにキロ級潜水艦6隻の売却契約を締結。これに対して、2012年当時、中国政府は様々なルートを通じてロシアに不満の意を伝えていたと言われていた。そんな中でのパトルシェフ書記の日本、ベトナムへの連続訪問は、それ自体、「ロシアは中国の圧力には屈しない。あくまでの戦略的中立を維持する」との中国政府へのシグナルであったとみる。
ただし、 ロシアが対中国で日米同盟陣営に加わることは期待すべきではないし、あり得ない。その目指すべきは、ベトナムへの潜水艦売却に見られた東アジアにおけるロシアの可能な限りの戦略的中立化であり、それ以上でもそれ以下でもない 。
前述の通り、米国による対ロシア経済制裁の解除が10年単位で見込めないという状況においては、ロシアにとって中国との経済的・戦略的関係の重要性は高いままであり続ける。
その一方で、プーチン大統領は首相時代の2010年10月、ロシア国営放送とのインタビューの中で、次のように述べていた。
中国の野心は隣接領土の天然資源なんかではなく、グローバルな指導的地位を獲得することである。我々はこれについて中国と争うつもりはない。中国にはこの分野で別の競争相手がいるので、彼らの間で白黒つけさせればよい。西側のパートナー達は中国の脅威を言い立ててロシアを脅そうとするが、 ロシアの目標は、高まりつつある中国と米国のライバル関係に完全に関与するのを回避しつつ、第三者として利益を得ていくことだ 。
ところが、ウクライナ危機後の米露関係の悪化とロシアの中国への急接近というトレンドの中で、ロシアがこのまま戦略的・経済的に過度に中国に依存する状態が続くと、米 中二大国の狭間で、中国のジュニアパートナーとなり、独立した戦略プレイヤーとしての立場を失いかねない。ロシアはそのような状況を回避するうえでも、米国はもちろん、中国からも可能な限りの戦略的中立を維持したいと考えていると見るべきだろう。
朝鮮半島問題について
北朝鮮の核・ミサイル問題への対処は中国問題以上に喫緊の課題である。2017年9月6-7日にロシア極東のウラジオストックで開催された東方経済フォーラムに出席した安倍首相は、同フォーラムの特別セッションで行ったスピーチの中で「北朝鮮がこれまでにない重大かつ差し迫った脅威として国際社会に挑戦してきた」として、国際社会が一致して最大限の圧力を加えるべきだと訴えた。
一方、プーチン大統領は日露首脳会談後の記者会見で、北朝鮮による地域の平和と安定への脅威を認めたうえで、あくまで核問題の解決は政治的・外交的手段によってのみ可能であり、その為にも、露中が共同で提案する段階的な問題解決を目指すロードマップに沿って、まずは緊張を緩和して関係するすべての国が対話を行う必要性を強調した。
ここでプーチン大統領が述べた「露中共同提案の段階的な問題解決のロードマップ」とは、中国が発表した「双停」、英語で言えば“dual suspensions”とでも訳すべき北朝鮮核開発問題の解決に向けた中国の新アプローチ、すなわち「北朝鮮がその核実験並びにミサイル実験を凍結するのと引き換えに、米国と韓国も大規模な軍事演習を中止する」というアプローチをベースに、ロシアの「ロードマップ」提案を組み合わせたものである。
このように北朝鮮に対して圧力重視の米日に対して、ロシアは中国と共に対話重視の立場を取っており、同問題を巡る考え方に大きな隔たりがあるように思われる。
「そもそも北朝鮮に対するロシアの主要な関心事は何か?」との筆者の問いに対して、ロシアのある専門家は「主に経済的利害である。特に優秀な北朝鮮労働者の確保は、極東地域開発にとって重要な要素になっている。また、ロシア政府は、朝鮮半島における軍事衝突の結果、大量の不法難民が極東地域に流入し、組織犯罪が横行するなどの事態を非常に懸念している」と述べた。つまり、ロシアの国益の観点からして、米国とその同盟国が北朝鮮に圧力を掛け続けることで、同国が暴発し、軍事紛争が勃発することを最も懸念しているのである。
そんなロシアであるが、この10月20-21日にモスクワで開催された核不拡散問題の国際会議に北朝鮮の政府高官を招待し、米国の元政府高官との対話の機会を取り持つなど、同問題の対話を通じての解決に向け、積極的に仲介者の役割を担おうと動いている。これらの動きをどう理解すべきか。
米露間にはソ連邦崩壊後の核不拡散や原子力の平和利用の分野での協力を通じて形成された国家横断的な人脈が存在する。米国ではいわゆるナン・ルーガー法の起草者の一人、サム・ナン上院議員や、同政権で軍備管理担当の国務次官補や次官を歴任し、現在、NATO事務次長を務めるローズ・ゴッタマラーらがその代表格である。上記の核不拡散問題の国際会議を主催した露Center for Energy and Security Studies(CESS)のアントン・フロプコフ所長もロシア側でその系譜に繋がる人物である。
これに先立つ今年3月に東京財団が主催して開催した日米露3極会議に参加したロシアのある北朝鮮専門家は次のように述べた。
10年前に北朝鮮が大陸弾道弾(ISBM)の開発に成功するなど想像できなかった。朝鮮半島問題をめぐるrule makerは、第一に北朝鮮、次に韓国、最後に米国である。中国もロシアもrule makerではあり得ない。中国への過度な期待は危険である。ロシアと日本はrule takerでしかない。
近い将来、北朝鮮の国内体制が崩壊することはない。また、核抑止は北朝鮮にとって聖域である。さらに北朝鮮への経済制裁は効果がない。
北朝鮮を核保有国として認めることはあり得ないが、その一方で、北朝鮮が核能力を放棄することもあり得ない。としたら、核能力の放棄(denuclearization)に言及することなく北朝鮮との対話を開始する。北朝鮮のミサイル・プログラムの凍結(freeze)が当面の焦点となる。
今年1月末の面談で前述のフロプコフ所長が示した北朝鮮の核・ミサイル開発問題の落とし所もこれとほぼ同じく、北朝鮮のミサイル能力にいかにキャップをかけるか、というものだった。
前述のように、ロシアは中国と共に「段階的な問題解決のロードマップ」提案を行なっているが、このフロプコフ氏の動きは、ロシアがソ連邦崩壊後に培ってきた米国との核不拡散ネットワークを最大限に活用しての米国と北朝鮮の仲介の動きと言える。
この北朝鮮の核・ミサイル問題の行く末は、今後の東アジア地域の秩序を大きく左右する可能性が高い。ロシアは自らの国益を大前提として、米国と中国という同地域の二大国とのネットワークを最大限に活用して、この問題の解決プロセスに積極的に関与しようとしていると見るべきだろう。
また、この動きは、前述した「米中二大国の狭間で、米国はもちろん、中国からも可能な限りの戦略的中立を維持する」というロシア外交の戦略観を反映したものと言える。
なお、前述のように、北朝鮮の核・ミサイル問題の打開を「核能力の放棄(denuclearization)に言及することなく北朝鮮との対話を開始する。北朝鮮のミサイル ・プログラムの凍結(freeze)が当面の焦点となる」という方向で見出すとしたら、それは当面の間、北朝鮮の核兵器保有を事実上、黙認するということを意味する。
そうなった場合、日本や韓国がどのような対応をとるのか。そんな議論もロシアの外交・安全保障サークルでは既に行われていると考えるべきだろう。
総括
2017年8月にロシア大統領府と密接な関係にある露シンクタンク「ヴァルダイ・ディスカッション・クラブ(以下、ヴァルダイ・クラブ)」が発表した日露関係に関するレポートの結論部分に次のような記述がある。
露日関係の改善は、東アジア地域での独立プレイヤーとしてのロシアの立場の強化の一助になり、ロシアのアジアへの回帰政策を大きく後押しし、その政策をよりバランスの取れたものにする。また、日本の外交政策にもより大きな自主性を与える。更に、そうすることは東アジア地域においてロシアと日本がずっと弱い立場になるであろう米国と中国による二極秩序ではなく、両国が重要な役割を果たすことができる多極秩序を構築するのに貢献し得る。 [5]
前述のプーチン・インタビューにも明確に表れているように、従来、クレムリンあるいは、それに近いロシアの外交・安全保障サークルは、今後のロシアの世界戦略を米中露の三角関係の文脈の中で語る傾向が顕著だった。だが、このヴァルダイ・レポートの記述には、その傾向に明らかな変化が見て取れる。そこには、 ロシアが中国からの戦略的中立性の維持を志向しているのみならず、日本との関係改善がその為の重要な鍵を握っているとの戦略観 が示されている。
これに関連して、筆者が注目しているのは、この日露関係に関するレポートが公表された直後の2017年9月6日、ウラジオストックでの東方経済フォーラムにおいて、やはりヴァルダイ・クラブが「ロシア・中国・日本・米国の四角関係:協力の機会はあるか?」というセッションを主催したことだ。ヴァルダイ・クラブが米中露の3カ国に日本を加えたセッションを開催した前例はない。ここにも従来の米中露3カ国を中心としたプーチン・ロシアの対外戦略観からの変化、そして、その延長線上での日本の戦略的位置付けの向上の兆しが読み取れる。
このプーチン・ロシアの対外戦略観の変化と日本の戦略的位置付けの向上を促すうえで、安倍政権による一連の対ロシア外交が大きな役割を果たしているのは間違いない。米露関係の行方など不確定な要因がある中で、日露両国が北方領土問題の解決を含む平和条約の締結が可能となる環境がいつ整うのか、現時点で予測することはできない。ただ、時代の時計の針が、その方向に動き出しているのは間違いない。(了)
[1] 『国家安全保障戦略』p22. http://www.cn.emb-japan.go.jp/fpolicy_j/nss_j.pdf#search='%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E5%AE%89%E5%85%A8%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E6%88%A6%E7%95%A5'
[2] この筆者の現状認識は、2016年10月27日、露ヴァルダイ会議においてプーチン大統領に筆者が直接行った質疑への以下の回答がベースにある。
(質問) 遂に大統領の訪日日程が12月15日と決まりました。大統領の訪日は日露関係の強化に大きな刺激を与えると確信しています。ところで、ウラジオストックでの安倍首相との会談の前日、日露には平和条約を締結するに十分な環境がまだないと言われました。その評価はまだ変わっていないでしょうか? だとすると、近い将来、つまり2~4年の間に日露が平和条約を締結し得る環境を整えることが出来ると期待するのはどれほど現実的でしょうか?
(回答) この場合、期限を設けることは出来ないし、むしろ有害でさえある。例えば、中華人民共和国とは国境での領土問題交渉を40年間行った。そして、我々は最終的に相応の合意文書に調印することに合意した。それが可能となった何よりの理由は、我々が中国との間で前例のないレベルでの協力関係、我々はそれを戦略的パートナーシップ以上の関係、特権的戦略パートナーシップ(привилегированное стратегическое партнерство)と呼ばれる関係を構築している。勿論、残念ながら日本とはそのような質の関係には達していない。しかし、だからと言ってそれが出来ないという意味ではない。更に言えば、日露双方とも全ての問題を最終解決することに関心があると私は思っている。というのも、そうすることが我々の相互の国益に適うからだ。我々はそれを望むし、その為に努力もするが、それがいつ出来るか、どのように出来るか、そもそも出来るのか出来ないのか、現時点で答えることは出来ない。これは我々が過去に合意に達した事柄に立脚しつつ、主に未来志向で共に解決すべき問題である。我々の外務省や専門家がその為に相応の貢献をし、それに立脚出来るように期待している。
[3] 「畔蒜泰助のユーラシア・ウォッチ:(1)米露「ビッグ・ディール」の可能性は?」 2017年3月1日付け東京財団ウェブサイト掲載
[4] 「畔蒜泰助のユーラシア・ウォッチ:(5)ハンブルグで行われた米露首脳会談 -米露停戦合意をめぐる考察-」 2017年7月26日付け東京財団ウェブサイト掲載
[5] Anna Kireeva, Andrey Sushentsov, "The Russian-Japanese Rapprochement : Opportunity and Limitations", Valdai Discussion Club Report , August 2017. p24.