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東京電力管内における今夏の電力需要減少の要因分析(2)

December 7, 2011

3 どの時間帯で電力需要が減少した?

前節では、ピーク時間帯の電力需要が最高気温に依存することを示した。ここでは、比較を容易にするために、気象条件(東京の平均・最高・最低気温)が近い平日を、表1に示したように各年について抽出して、それらの1日の電力需要 [e] の推移を比較した(図3)。「減少幅」は、特に気象条件の近い2008年と2010年の4日分の電力需要の平均と、2011年8月10日の電力需要の差である。

表1 比較対象とした日の東京電力管内における電力需要 [e] と気温(東京) [g]

図3 東京電力管内における夏期の1日の電力需要 [e] の推移の比較(平日)


この図からは、特に日中の9時台から19時台で電力需要の減少幅が大きく、800~1,000万kW程度であることが分かる。7月1日から発効した電気事業法に基づく電力使用制限では、大口需要家(契約電力500 kW以上)に対して、平日の9時から20時の時間帯での電力使用の昨年比15%削減が求められており [h, i] 、上記の電力需要の減少幅が大きな時間帯と整合的である。

4 どの部門で電力需要が減少した?

前節までの分析から、今夏は過去3年と比較して、日中は800~1,000万kW程度、朝・夕・夜の時間帯では400~700万kW程度、深夜・早朝の時間帯でも100~200万kW程度の電力需要の減少が見られることが分かった。本節では、部門ごとの販売電力量と時間帯ごとの電力需要の内訳をもとに、それぞれの時間帯の電力需要の減少に寄与している部門について検討する。

今夏の電力需要は、ピーク時間帯の節電とは別に、恒常的な節電意識などにより各部門で電力需要“量”も減少している可能性がある。図4に2008~2011年度の各月(2011年度は10月まで)の用途ごとの販売電力量、表2に各月の減少率を示した。


図4 東京電力の各月の販売電力量(用途別) [j] の推移 *5, 6

*5 「電灯」は家庭部門(一部はコンビニなど小口業務)、「電力」は小口産業(小規模工場、町工場)、「特定規模需要・業務用」は大口および小口業務(スーパー、中小ビル、デパート、ホテル、オフィスビル、病院、大学)、「特定規模需要・産業用」は大口および小口産業(小・中・大規模工場)に対応する [f]

*6 家庭部門や小口業務・産業は、検針スケジュールの関係で前月の販売電力量の一部が含まれる [d]

表2 今夏の東京電力の販売電力量(用途別) [j] の減少率

特定規模需要・業務用および産業用については、過去3年の平均または昨年と比較して、2011年7月と8月の販売電力量は大幅に減少している。一方で、4~6月や9~10月も同程度の減少が見られる。つまり、ピーク時間帯の節電が強く求められていない時期でも、一定の電力需要量の減少があったということになる。

昼間の冷房需要の削減といった夏期の固有の節電に加えて、(1)震災の影響などによる活動量の減少や、(2)照明などの恒常的な節電対策の定着といった要因が、電力需要削減へ寄与したものと考えられる *7 。大口需要家については、前述の電力使用制限に対応するため、(3)夜間や休日への電力需要のシフトによって、電力需要“量”には表れない形でピーク時間帯の電力需要を削減したことも考えられる。

*7 「特定規模需要・業務用」に含まれる百貨店およびスーパー(大型小売店)については、月ごとの販売額の統計が存在する [k] 。これによると、2011年4月以降の東京電力管内の都県(静岡県の一部を除く)における大型小売店の販売額は、2009年や2010年の同時期とほぼ同じレベルで推移している。このことから、少なくとも業務部門については、電力需要量が減少は?活動量の減少によるものではなく、積極的な節電対策によるものであることが分かる。

家庭(電灯)および小口産業(電力)は、過去3年と比較した場合、7月は逆に電力需要量が増加しており、8月は一転して大幅な減少に転じたものの、9月は減少幅が小さくなるなど、明確な傾向を読み取ることが難しい。これは、家庭部門の電力需要が特に気温に依存するためと考えられる。そこで、2008~2011年の7月から9月について、一般的に冷房需要との相関が強いと言われる「冷房度日(ディグリー・デー)」を東京の気温 [g] をもとに計算し、販売電力量(電灯) [j] との関係を示した(図5)。

図5 東京電力管内における夏期の各月の販売電力量(電灯) [j] と冷房度日(東京)の関係 *8, 9

*8 一般的に「冷房度日」は、1日の平均気温が24℃を超えた日について、平均気温と22℃の差を合計したものと定義されることが多い。本稿では他の部分の解析(例えば図2)との整合性をとるために、1日の最高気温が25℃を超えた日について、最高気温と25℃の差を各月について合計したものと定義した。結果的に、通常の定義の冷房度日よりも本稿における定義の冷房度日の方が、販売電力量(電灯)との相関は強かった。

*9 各月の販売電力量(電灯)は、前月中旬の検針日から当月中旬の検針日までで区切られる。本稿では、前月の15日から当月の14日までの冷房度日の合計と、その月の販売電力量(電灯)の関係を分析した。

この図のように、2008~2010年については、家庭部門の電力需要量と冷房度日の間に強い相関がある。その回帰直線と比べて、2011年の7月と8月(検針日の実態は6月中旬から8月中旬)は家庭部門の電力需要量が減少しており、同じ冷房度日での回帰直線との差をとることで補正した減少率は、それぞれ約9%および約12%となり、気温差を考慮しても今夏の家庭部門の電力需要量は削減されたと言うことができる。

一方で、2011年9月(検針日の実態は8月中旬から9月中旬)については、2008~2010年の回帰直線からの減少率は2%にすぎない。このことは、8月中旬までに電力需給が危機的な状況になることがなかったことから、一時的に節電意識や危機感が希薄になった可能性を示しているとも解釈できる。

これらの結果から、今夏は家庭に節電意識が定着していたことが示される反面、危機感が希薄になることで節電意識も弱くなることも示唆され、来年以降の家庭における節電対策の減退が懸念される。また、図5の結果は、気象条件によって電力需要が大きく増減する家庭部門に、確実な電力需要削減を期待することの危うさも示唆している。

    • 東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 助教
    • 中谷 隼
    • 中谷 隼

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