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東京電力管内における今夏の電力需要減少の要因分析(3)

December 7, 2011

5 ピーク日の電力需要減少の内訳は?

以上の分析の結果から、東京電力管内における今夏の各部門の電力需要について、7月と8月の販売電力量の減少率(家庭部門については気温差を考慮した減少率)をもとに、表3に示したような削減率(昨年比)の仮定を置いた *10

*10 家庭部門については、平日の睡眠の行為者率が70%を上回る0~5時台(NHK放送文化研究所の調査 [l] による)は5%削減、起床在宅の行為者率が50%を上回る6~7時台と18~22時台 [l] は15%削減、それ以外の時間帯では10%削減と仮定した。業務部門および産業部門については、それぞれ15%削減および10%削減とした。ただし、大口業務および大口産業については、実測されたピーク日・時間帯における電力需要が29%削減したと報告されていることから [d] 、電力使用制限の対象となっている時間帯に前後1時間を加えた8~20時台は、休日への電力需要のシフトなども想定して、それぞれ削減率が35%および25%になるものと仮定した。小口業務についても、8~20時台は削減率が20%になるものと仮定した。

表3 東京電力管内における今夏の各部門の電力需要(平日)の削減率(昨年比)の仮定

資源エネルギー庁 [m] は、夏期のピーク日(昨年のピーク日を想定していると思われる)における時間帯ごとの電力需要の内訳を推計している。ここでは、ピーク時間帯の約6,000万kWの内訳は、家庭部門が約1,800万kW、業務部門のうち大口が約800万kW、小口が約1,700万kW、産業部門のうち大口が約1,300万kW、小口が約400万kWとされている。上記の仮定と、この内訳をもとに、今夏のピーク日の電力需要を試算し、実際の電力需要(最大4,922万kW)の再現を試みた(図6)。ただし、昨夏のピーク日(7月23日)と比べて今夏のピーク日(8月18日)はやや最高気温が高かった(それぞれ35.7℃および36.1℃)ことを考え、家庭部門には9時から18時の時間帯で60万kWの電力需要の上積みがあったものとした *11

*11 前節の分析より、最高気温0.4℃の差は、家庭部門の1日の電力需要量600万kWhに相当する。気温差による電力需要量の差を日中の10時間に均等に配分すると、電力需要の差は約60万kWと推計される。また、図2の最高気温に対するピーク時間帯の電力需要の増加幅からは、0.4℃は電力需要60万kWに相当する。この増加幅が全て家庭部門によるものと仮定すると、上記の分析結果と整合的である。

図6 東京電力管内における今夏のピーク日の電力需要の試算結果


このように、表3のような仮定に基づいて、今夏のピーク日の電力需要をほぼ再現することができた。部門ごとのピーク時間帯における削減幅は、家庭部門が100~150万kW、業務部門が600万kW程度、産業部門が350~400万kWと見積もられる。業務部門と産業部門を大口と小口に分けると、大口は600~650万kW、小口は350万kW程度の電力需要の削減があったと推計される *12, 13

*12 東京電力による分析 [d] では、家庭、小口、大口の電力需要の削減幅を、それぞれ約100万kW、約400万kW、約600万kWと試算しており、本稿における推計と大きくは異ならない。

*13 東京電力による分析 [d] では、大口の削減幅が大きい理由として、今夏のピーク日(8月18日)が木曜であり、一部の大口需要家が休日をシフトしたことによる電力需要削減が100万kW程度あったとされている。ただし、今夏の7月と8月の平日(夏日のみ)のピーク時間帯(14時)の電力需要の平均は、月~水曜が4,208万kWであるのに対して木・金曜は4,196万kWと大きな差があるとは言えず、電力需要の休日へのシフトの効果としては過大評価のようにも思われる。

6 来年以降の節電対策に向けて

ここまでに述べてきた今夏の電力需要減少の要因分析の結果から、来年以降の節電対策に向けた示唆を得るとすれば、以下のようになろう。

1 東京電力管内では、業務部門の電力需要削減の余地が大きい。そのためのコスト増加の可能性は否定できないが、今夏においても活動量(販売額)への直接的な影響は見られなかったことから、来年以降の節電対策においても、業務部門が中心的な役割を担うことが望ましい。

2 産業部門は、結果的に今夏の電力需要削減に大きく寄与した。しかし、夜間や休日への電力需要のシフトなど活動量に影響を与えかねない対策もとられていたことから、来年以降も同様の節電対策を継続するかどうかについては、慎重な検討が求められる。

3 家庭部門における電力需要削減のためには、節電意識や危機感を減退させないことが求められる。ただし、気象条件への依存が特に大きい家庭部門に、夏期のピーク日・時間帯における確実な電力需要削減を期待することの危うさも認識しなければならない。

今夏の電力需要削減のための節電対策は、いわば必要に迫られて不可避的に実施されたものであった。そして、少なくとも表面的には、大きな混乱もなく乗り切ることができた。しかし、原子力発電所の再稼動が現実的に困難である状況では、特に原子力発電の比率が高い地域において、来年以降も夏期や冬期における電力需要の削減が求められることは想像に難くない。それに加えて、従前の節電対策の主な目的であった化石資源への依存度の低下や温室効果ガスの排出削減の観点も、これまでのように原子力発電への依存度を高めることを前提とできない以上、改めて検討されなければならない。

今夏の東京電力管内における電力危機を通して、これまでは利用できなかった様々なデータが公表され、現実的な制約のもとでの各部門における電力需要削減の「ポテンシャル」を把握することができたことは、今後のエネルギー政策においても重要な意味を持つであろう。すでに資源エネルギー庁は、今夏のフォローアップとして、各業界に対して節電対策の内容や実績、そのためのコストについてヒアリング調査を実施し、その結果を公表している [c] 。今夏の経験を最大限に活用するためにも、こうした結果を多角的に解析し、短期的な節電対策のみならず、中長期的な温暖化政策やエネルギー政策へも反映させることが求められる。


参考文献

[a] 染野憲治:「今夏の電力危機に向けて」、東京財団 論考、
http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=264 (2011年4月2日掲載)

[b] 染野憲治・中谷隼:「今夏の電力危機に向けて(2)」、東京財団 論考、
http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=267 (2011年4月14日掲載)

[c] 資源エネルギー庁:「今夏の電力需給対策のフォローアップについて」、
http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111014009/20111014009.html (2011年10月14日公表)

[d] 東京電力:「今夏の電力需給状況について」、プレスリリース、
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11092602-j.html (2011年9月26日更新)

[e] 東京電力:「でんき予報|過去の電力使用実績データのダウンロード」、
http://www.tepco.co.jp.cache.yimg.jp/forecast/html/download-j.html

[f] 電気事業連合会:「FEPC INFOBASE 2010」(2010)

[g] 気象庁:「気象統計情報|過去の気象データ検索」、
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php

[h] 経済産業省:「電気事業法第27条による電気の使用制限について」、
http://www.meti.go.jp/earthquake/shiyoseigen/index.html (2011年9月7日更新)

[i] 経済産業省:「電気事業法に基づく電力使用制限の発効について」、
http://www.meti.go.jp/setsuden/pdf/seigenrei.pdf (2011年6月30日更新)

[j] 電気事業連合会:「電力需要実績」、
http://www.fepc.or.jp/library/data/demand/index.html

[k] 経済産業省:「商業動態統計調査」、
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html

[l] NHK放送文化研究所:「2010年 国民生活時間調査報告書」(2011)

[m] 資源エネルギー庁:「夏期最大電力使用日の需要構造推計(東京電力管内)」、
http://www.meti.go.jp/setsuden/20110513taisaku/16.pdf (2011年5月26日更新)

    • 東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 助教
    • 中谷 隼
    • 中谷 隼

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