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2009年度第2回国連研究プロジェクト研究会(議事録概要)「スーダンの現状」

June 5, 2009

作成:関山健(東京財団研究員)

1.出席者:

北岡伸一(主任研究員)、鶴岡公二(外務省国際法局長)、星野俊也(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)、蓮生郁代(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)、池田伸壹(朝日新聞GLOBEシニアライター)、酒井英次(海洋政策研究財団海技研究グループ国際チーム長代理)、ジョン・A・ドーラン(海洋政策研究財団)、坂根徹(日本学術振興会特別研究員)、関山健(東京財団研究員)

2.報告者・議題:

石井祐一氏(駐スーダン特命全権大使)「スーダンの現状」

3.報告

(1)はじめに

・国連の潘基文事務総長も就任直後からダルフール問題を重視するなど、国際社会のスーダンへの関心は高いが、その印象はネガティブなものが多い。
・一方、日本では、PKOなど現地国連活動への邦人派遣、ODAによる人道支援、日系NGOの活動などがあるものの、国内ではスーダンへの関心が低い。
・そこで本日は、スーダンの現状、国連との関係、日本との関係などについて話をし、スーダンについて正しい認識を持ってもらえればと思う。

(2)スーダンの特徴

・スーダンはアフリカ大陸最大の国であり、日本の約7倍(世界で10番目)の国土に4000万人の人口、約450の部族・氏族、130以上の言語を擁する広大で多様な社会である。

・これらの点からすれば、スーダンは「統治の非常に難しい国」であると言えよう。

(3)1990年代以降のスーダン

・1989年6月に軍部の無血クーデターによりイスラム原理主義的なバシール政権が発足。国連の制裁決議や米のテロ支援国家リストへの掲載及び経済制裁等による国際社会からの孤立、更に国内的には南北内戦、国内避難民問題、膨大な対外債務、干ばつ等の自然災害等困難な多くの問題を抱え、国際的なイメージも悪化。
・その後、イスラム原理主義の行き詰まり、石油の生産・輸出の開始、近隣諸国との関係改善の必要性、対スーダン政策見直しを説く米のG.W.ブッシュ政権の誕生、9・11事件の発生等の要因が重なり、今世紀初頃からスーダンも徐々に和平、安定、繁栄を模索する道へ政策転換。
・スーダンは、現在、国内に3つの和平問題(南北包括和平合意、ダルフール問題、東部スーダン和平合意)を抱えており、その解決と履行なくして安定はなく、安定なくしては発展もままならない。

(4)南北包括和平合意(CPA)

・スーダンでは、アラブ系人口の多い北部とアフリカ系人口の多い南部との間で、1955年に内戦が勃発。1972年に南部の自治権を認めて一旦停戦したものの、1983年に右自治権を反古(南部にもイスラム法の適用等)にしたことから内戦が再燃。
・その後20年以上の内戦が続き、死者200万人、国内避難民400万人、国外難民50万人を出したが、内外の情勢変化により、2005年1月、南北間の包括和平合意(CPA)が成立。
・CPAは、南北の歴史的和解であり、スーダンの将来を決める屋台骨。また、国際社会がCPAの履行を支援するため、国連PKO(UNMIS)が展開。2010年2月には大統領選を含む6つの中間選挙、2011年には独立か統一かを問う南部住民投票が予定されており、これからの2年間が正念場。南部スーダンにとって、統一か分離独立かは極めて困難な選択。

(5)ダルフール問題

・スーダン西部のダルフール地域で、スーダン政府・アラブ系民兵と反政府勢力との間の紛争(ともにイスラム教徒)が2003年より激化。紛争に伴いダルフール地域の治安が悪化し、「21世紀最大の人道危機」と呼ばれる状況が発生。死者20万人、国内難民200万人、海外難民25万人を出したと言われる。
・その背景は複雑であるが、疎外されてきたダルフールの人々による開発や権利の要求運動が本質であり、南北内戦のような分離独立運動や宗教対立ではない。
・国連が2004年1月に警鐘をならしたのを機に同地域での人道支援活動が本格化し、現在までに国連人道機関や国際NGOを含め総勢約1万名以上が人道支援活動に従事している他、国連・AU合同のPKO(UNAMID)が展開されているが、和平合意はなかなか達成されずにいる。

(6)東部スーダン和平合意(ESPA)

・スーダンにおける第3の和平問題であったが、2006年10月、東部スーダン3州の東部戦線と政府との和平合意が成立。

(7)スーダンの課題と国際社会との関係

・1. 南北包括和平合意の履行とダルフール和平合意の達成、2. 国際社会との関係改善、3. 国際刑事裁判所(ICC)によるダルフールでの人道に対する罪および戦争犯罪に係わる大統領等訴追問題の解決が、目下スーダンの課題。
・南北包括和平合意については、その履行に遅れはあるものの、国際社会や国連による支援の下に進展しつつある。しかし、今後の課題も山積。ダルフール和平については、AU・国連の合同による和平プロセス支援の下、リビア、カタールにて和平交渉が進められているが、最終的な和平合意には到達していない。なお、ダルフールの治安情勢は、2003年当時の状況に比して、最近不安定ながらも改善の兆しあり。
・国際社会とは、89年のクーデター以来ギクシャクした関係が続いている。特に米国は経済制裁を続けているが、中国がスーダンを支援していることから制裁の効果が低下し、欧米諸国としては打つ手があまりない。他方、中長期的にはスーダンにとって欧米諸国との関係改善は必須。
・ICC問題は、スーダンが完全拒否の立場を執っているために袋小路の状態。この状態からの脱却が望まれる。その行方は、CPA履行やダルフール和平にも影響。スーダンはICCメンバーではなく、その決定に拘束されることはないというのがスーダン政府の立場。しかし、国際社会の関心が高い同問題の解決なくしては、スーダンにとって国際環境の改善は見込めない。

(8)日本との関係

・アフリカの平和定着支援は我が国の対アフリカ外交の柱の一つであり、スーダンはその中心的存在。
・CPAについては、ODAの実施、PKOへの自衛隊員派遣、本邦NGOの活動、国連諸機関での邦人職員活動など、日本も「金を出すからには口も出す」べく関与に努めている。
・しかし、南北和平については、「資金」すなわちODAでは米、英、ノルウェー、オランダ、EUの後塵を拝しており、さらに、CPA成立への関与がなかったため同合意で定められている現行和平プロセスに入り込む余地を失っている。
・この反省を踏まえ、ダルフール問題においては、和平合意の達成を目指す和平交渉・調停プロセスへの積極的な関与に努めているところ。
・ただし、和平プロセスに入っていけば、和平維持(例えば、停戦監視等)・復興への支援を期待されるが、日本として軍事的な和平支援が困難である以上、支援の仕方については知恵を絞る必要。
・なお、ダルフール問題での日本関与など、アフリカで日本の立場に理解を示してくれる関係者は、多くがTICADに関連して日本に来たことがある人達であり、この点TICADの効果を実感。
・当該地域の安定と発展の鍵を握るスーダンにとって、和平なくして安定なく、安定なくして発展もないのであるから、日本としてもスーダンの和平のために汗を流すべきと思料。

    • 東洋大学 国際教育センター 准教授
    • 関山 健
    • 関山 健

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