「文明と環境プロジェクト」(安田喜憲主任研究員)では、2007年11月6日、7日に、「秋田ワイズユース・リレーシンポジウムin 男鹿/阿仁」を開催しました(主催:秋田県、共催:東京財団、国際日本文化研究センター安田研究室、後援:男鹿市、北秋田市)。
現在、我が国の多くの農山村は、若者の地域流出や少子高齢化に伴い過疎化が進行し、地域機能の低下など切実な課題に直面しています。今回のシンポジウムでは、こうした現状を背景に、元気な地域づくりと、さらには深刻化する地球環境問題解決の糸口として、地域の知恵や資源をいかに今の時代にあった形で利活用するか(=“ワイズユース”)について、豊かな自然の残る秋田県男鹿市と阿仁(北秋田市)にて議論しました。
1日目、男鹿でのセッションは「地域環境史のワイズユース」と題し、まず安田喜憲主任研究員が基調講演を行いました。安田先生は、男鹿市一ノ目潟での年縞(※)調査において過去約3万年分に相当する国内でも屈指の明瞭な年縞が採取されたことを紹介し、年縞の連続的形成は秋田の地がいかに持続的に自然環境を維持してきたかの証であるということを指摘しました。 (※用語集参照)
つづくパネルディスカッションでは、秋田大学・林信太郎教授、秋田県文化財保護室・大野憲司室長をはじめとするパネリストが、秋田の豊かな自然環境やなまはげ文化、菅江真澄(江戸時代後期の紀行家で秋田に延べ29年間滞在した)が残した史料などを例に、男鹿の持つ魅力について議論を行い、地域づくりや環境教育において、こうした地域の歴史や文化を再認識することの重要さを訴えました。
2日目は、男鹿から車で約2時間半の阿仁(北秋田市)にて、「食のワイズユース」というテーマでセッションを行いました。秋田在住の作家・あんばいこう氏による秋田の食文化についての基調講演に続き、日本各地の食文化に詳しい佐野つとむ氏(静岡県体文協事務局長)の講演、さらに東京財団広報ディレクター・安井美沙子による都会の食事情の実態について講演が行われました。また、北秋田市商工観光課の鈴木奏子氏より、2004年から阿仁で始まった地域料理継承のための取り組み「食の祭典」が紹介され、人と自然のつながりや人と人とのつながりを考える上での原点としての「食」について、活発な議論が行われました。
また、会場では、実際に地元の方々の手作りの家庭料理5品(岩魚の押し寿司、山菜の煮付け、漬物の盛り合わせ、しそ寒天、ゴマときな粉のゆべし)がふるまわれ、参加者は地産地消の味わいを実体験しました。
最後に、秋田県総合政策課将来構想推進監の小野勇氏が、総括として「日本は高度成長期に人口が急激に増加したが、秋田は50年前から人口が減少し、もう少しで明治時代の頃の人口に戻る。もしかしたら、秋田県は人口減少社会における地産地消の未来モデルを先行して実践しているのかもしれない。そう考えて地域資源の“ワイズユース”に明るく取り組んでいきたい。」と述べ、2日間のシンポジウムを締めくくりました。
なお、1日目の基調講演にて紹介された一ノ目潟での年縞調査結果を含む、安田先生の学術調査結果については、2008年3月にフォーラムを開催し詳しく発表する予定です。(詳細が決まり次第、ウェブサイトでご案内します。)
(文責: 吉原祥子 )