2008年7月2日開催の第2回研究会では、前回に引き続き「自殺と文明」をテーマに、以下のような議論を行った。
【自殺に関するデータ】
- 前回の研究会 では、戦後の3つの自殺率ピーク(1953年頃、1983年頃、1998年以降)に着目し、各ピークにアノミー的自殺、群発自殺、失業を契機とする自殺、といった主な特徴があるのではないかと推測したが、いずれについてもそれを裏付ける有意なデータは入手できなかった。
- そこで、今回は事前に「都道府県別の自殺率年次推移」、「性別・年齢別自殺率の長期推移」、「年齢コホート別自殺率」、「平均余命と自殺率との相関」、「完全失業率と自殺率の相関」、「職業別自殺率の推移」についてデータを収集し、政策研究部担当者より発表を行い、議論の出発点とした。
【主な議論】
その後、ゲストにお招きした専門家よりコメントを頂き、それを踏まえて以下のような議論を行った。
- 自殺が連鎖する現象は必ずしも現代に特有ではないとのことだが、一連の硫化水素自殺のように、マスコミによって自殺のニュースがより速く大量に多くの人々に広まり、それによって自殺の発生規模が拡大しているとすれば、それはまさに現代に特徴的であり病理的であると言えるのではないか。
- 1986年に発生したアイドル歌手の自殺報道に見られたようなセンセーショナルな報道は近年は徐々に改善されつつある。しかし、ひとつひとつの報道が改善されたとしても、報道全体がまるで津波のような効果をもたらしているのが現状である。
- テレビ局によっては、硫化水素自殺や少年自殺の報道に関するガイドラインがあるとのことだが、自殺報道全般についてのそもそもの原則はないのか。
【今後の進め方】
■ 自殺
上記のような議論の結果、本テーマについては、「自殺とマスコミ」の観点から、これまでの議論を一旦整理することとした。近年マスコミで大きく取り上げられた自殺の事例を洗い出し、マスコミ報道が人の死の連鎖とどのようにかかわりがあるのかを具体的に検証していく。
■ 今後のテーマ:金融
上記と並行して、次に「金融」を研究会テーマとして取り上げることとし、以下のような検討を行った。
- 為替や金融取引、原油取引において、実需に基づかない投機的取引が急増している。この無限の拡大が「病理」ではないかと仮定しているが、データでの検証が困難。
- バーチャルマネーの登場やあらゆるものの「証券化」など、貨幣の概念自体が拡張しており、そこが問題ではないか。
- フリードマンに代表される経済学の理論は、人間が無限に合理的であり、市場が自由化すればするほど理想的であるという前提に立っており、IMF、WTOといった国際機関はこうした経済学に基づいて動いている。
- しかし、実体経済を見れば、現実に人間が行っていることと経済学の理論にもとづく予測には大きなギャップあり、こうした経済学の前提自体が非現実的であることは明らかである。
- 知の体系のもとは自然から学ぶべきだ。自然界のものには必ず抵抗(物理学でいう「粘性項」)が入っている。お金に関しても額に応じて移動する速度に上限があるという概念が必要なのではないか。そういう仕組みがないから、無限のスピードアップとバーチャル化が進むのではないか。このままでは金融システムが破綻する。
- 経済学がおいている諸々の前提条件が、リアルに人間が行っていることとかみあっていないことを具体的に示すことが必要だ。経済学者は前提以外の要素は「効用」の中にすべて入っているというが、そこを議論する必要がある。
次回の研究会では、経済学の専門家を交えて、上記観点から議論を行う予定である。また、現代社会における「都市化」「キャッシュ依存」といった視点からのテーマも並行して検討していく。
(文責:東京財団政策研究部 吉原祥子)
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