2008年9月22日開催の第3回研究会は、ゲストに東京大学大学院総合文化研究科の中西徹氏を迎え、「フィリピンの都市貧困層の社会ネットワークに学ぶ」というテーマで議論を行った。
マニラ首都圏のマラボン市の河川敷(公有地)には、1960年代から人々が集住して形成された、「パス地区」という仮名の不法占拠区(スラム)がある。中西氏によると、この区域は行政上の区域ではないものの、集落族内婚の繰り返しによる親族・姻族関係の強化、およびカトリックの習慣である儀礼親族関係の連鎖によって、稠密(ちゅうみつ)かつ自立的なコミュニティを形成するに至っている。彼らの生活は現在においても住民の約5割が国連の定める貧困線以下にもかかわらず、人間関係の豊かさに価値を置く彼らの幸福度は極めて高いという。
中西氏は、現代における新しい富裕層を生んだ「インターネット」というネットワークは、匿名かつ無数の経済主体を結びつける「市場」をもたらし、冷徹なマネーゲームの世界的な発展に貢献したが、フィリピンの都市貧困層の意外な「幸福度の高さ」の源泉は、非匿名かつ適当な数の人間を結びつける「コミュニティ」、すなわちインターネットとは似て非なる人間間の豊かなネットワークであると指摘し、スラムに住む人々の幸福の源泉が必ずしも経済発展にあるわけではないことを示唆した。
全体議論では、こうした現在の市場メカニズムとは異なるコミュニティのあり方を起点として、「地域コミュニティ」や「ユニット(経済単位)」といった視点から、現代社会の特徴を考えるための議論を行った。
(文責:政策研究部 吉原祥子)