しかし、意欲と能力を持つ障害者の社会参加機会を拡大するには、障害者がもっと高等教育機関に進学できる環境を作らなくてはなりません。
東京財団は障害者の自立支援などを展開する 日本財団 と連携し、障害者の進学を妨げている3つの壁(情報不足、コスト、タテ割り)を検証し、その改善に向けて国や大学が取り組むべき課題や政策・制度を研究し、障害者が大学進学を自然な選択肢にできる社会の実現へ向け、政策提言をまとめました。
「障害者の高等教育に関する提言-進学を選択できる社会に向けて-」の全文(PDF:1.2MB)はこちら
あるべき姿
★一般的に障害者は「一方的に支援を受ける社会的弱者」と見られがちだが、障害者や要介護高齢者、認知症患者などを含めると全人口の10~15%程度が心身に不具合を持っており、「何を以て健常と考えるか」という明確な基準は存在しない。「健常者」「障害者」の線引きは曖昧であり、一般的な理解としての「障害者」とは障害者手帳の有無を基準に作られた概念に過ぎない。
★障害を理由に社会参加機会が失われることは本来的に許されず、意欲と能力を有する障害者が健常者と同等に活躍できる環境整備が必要。障害者の社会参加は消費・所得・税収の拡大や社会保障支出の削減を通じて社会全体に効果が波及することも期待される。
現状と課題
★「合理的配慮」を盛り込んだ障害者基本法が改正されるなど、政権交代を契機に障害者政策の見直しが進んでいる。義務教育、雇用の各段階では支援制度が整備されつつある一方、高等教育分野での政策対応は不十分であり、学生支援は一部の熱心な教職員・学生ボランティアで支えられているのが実情。
★実際、高等教育機関に在籍する障害者は総在籍者の0.3%を占めるに過ぎない。近年増加傾向にあるとはいえ、障害者の社会参加機会拡大を妨げる要因となっている。
★障害者の進学を妨げる要因としては、進学後の支援状況などを事前に把握しにくい「情報の壁」、高校や雇用との接続が上手く行っていない「縦割りの壁」、修学支援に関する費用や手間暇を嫌う「コストの壁」が考えられ、3つの壁を取り払う政策が障害者の進学しやすい環境整備に繋がる。
提言の内容
1)情報開示の充実、各大学の取り組みを評価・比較できる体制整備
・学校教育法、国立大学法人法を改正して障害学生支援に関する大学の取り組みを開示するよう義務化。同時に、自治体決算を参考に第3者による比較が可能な形での開示。
2)障害学生支援組織の設置義務化
・学校教育法や国立大学法人法を改正し、障害学生の相談・支援をワンストップで受け付ける支援組織(例えば支援室)の設置を義務化。
3)大学評価で「障害学生支援」の項目追加
・大学評価に際して、障害学生の総在籍者数や卒業者数などを評価項目として配慮。
4)予算を重点配分する「インクルーシブ高等教育推進拠点校」(仮称)の創設
・ノウハウを持っていない他の大学に対する支援業務、スタッフ養成や職員の派遣、教職員向け研修などの実施、教育・福祉・雇用関係機関との連携を義務化。これらの業務に当たる専門的な知識やノウハウを持つ支援担当教職員の育成・配置。
5)支援職員の待遇改善、支援に関する基本方針やガイドラインの明確化
・支援組織で働く職員の待遇改善や身分保障。
・障害学生支援に関する考え方や手順を盛り込んだ基本方針やガイドラインの作成。
6)優れた支援担当教職員の認定資格創設
・専門知識とノウハウを身に付けた教職員を育成することで支援体制を充実。
7)学生スタッフ拡大に向けたインセンティブ付与
・支援に当たる学生の裾野を拡大するため、一定の基準をクリアした学生を対象に、教員免許試験の一部免除、奨学金の減免、単位振替などを実施。
8)教育現場で働く障害者の増加
・大学の法定雇用率を算出する際、教員と職員を区分して公表。
・障害学生が教員を目指せる教育課程の創設。
9)高校から大学、大学から雇用への移行支援の強化
・特別支援学校教員に対して特別支援学校教諭免許状の取得を義務化。
・法定雇用率の状況、早期離職者数などに関する企業別データの開示を段階的に義務化。
10)教科書・教材データを一元管理する「教材データ機構」(仮称)創設
・文字情報にアクセスできない障害者の教育参加権を保障するため、教科書や教材のデータを一元的に管理し、一定の手数料でデータを配布する機構の創設と、機構の権限、責任を明記した著作権法の改正。