SPLIT(スプリット)ー。過去に何度も予備選の行方を決定づけてきたスーパーチューズデー、今年の結果を伝える新聞を飾ったのは「分ける」を意味する見出しだった。ロムニー氏6勝、サントラム氏3勝、ギングリッチ氏1勝と三者が勝利を分け合ったことを指したものだが、一枚岩になれず「分裂(スプリット)」状態にある共和党の現状を表しているかのようでもあり、団子レースを続けてきた今回の予備選を象徴する結果となった。
10州で予備選、党員集会が実施された今年のスーパーチューズデー。最大の焦点はまぎれもなく中西部オハイオ州だった。代議員数(66人)ではジョージア州より少ないものの、人種構成などが全米の縮図とされ、本選挙での代表的な激戦州でもあるオハイオでの勝利は、オバマ大統領に勝てる候補であることを示す上で重要な意味を持つ。特に今回は、製造業が盛んでブルーカラー層が多いという共通点がある隣のミシガン州で直前に実施された予備選でロムニー氏とサントラム氏が接戦を演じたことから、その再試合としても注目を集めた。
「小学生で初めてアンと出会ったときのことはよく覚えていないけれど、大学生で久しぶりに再会したときはすぐさまデートに誘いました」予備選を目前に控えた3月上旬、オハイオ州クリーブランドで開いたタウンホール集会で、ロムニー氏は妻とのなれ初めについて、ユーモアを交えて語りだした。推定資産2億5000万ドル(約200億円)に上る資産家で名門のハーバード大大学院出身、企業経営の経験もあるロムニー氏には「庶民感覚に欠ける」との批判がつきまとう。共和党有権者の約8割が年収10万ドル以下、約3割が大学を出ていないとされるオハイオ州では「エリート臭」が致命傷になりかねない。ロムニー陣営は、予行練習しにくく失言のリスクがあるものの、有権者と直接対話するタウンホール集会こそ等身大のロムニー氏を分かってもらうために最適な形式と判断、予備選直前のキャンペーンの軸に据えた。州内各地を精力的に回り、来場者にホットケーキをふるまうなど有権者と気さくに触れ合うロムニー氏の姿が見られた。
同州予備選では、炭鉱労働者だった祖父を持ち「ブルーカラー」出身をアピールするサントラム氏が一時は世論調査で大きくリードしていたものの、2月末のミシガン州、アリゾナ州での勝利を弾みにロムニー氏がサントラム氏を猛追、大接戦のまま投票日に突入した。結果はロムニー氏が0.8ポイント差で勝利。手続き上の不備があったサントラム陣営は、複数の選挙区で代議員を獲得できないというハンデが課されたため、獲得した代議員数では得票率以上に大きな差がついた(ロムニー35人、サントラム21人)
しかし、オハイオ州での投票結果を細かく分析すると、ロムニー氏の先行きに暗雲が垂れ込める。ロムニー氏を支持したのは「富裕層」「高学歴」「高齢者」「候補者に求める資質としてオバマ大統領に勝てるかを最重要視する人」などこれまでの各州でも同氏を支持してきたグループ。ロムニー氏のアキレス腱であり続けてきた「非常に保守的な層」「中低所得者(年収10万ドル以下)「大学を出ていない人」のグループでは、いずれもサントラム氏への支持が上回った。獲得代議員数レースで圧倒的優位に立ちながら、依然としてロムニー氏を候補者として受け入れることに抵抗を感じる人は多く、支持基盤を拡大できていないことがうかがえる。
スーパーチューズデーに予備選を実施したバージニア州では、立候補手続きに不備があったサントラム氏、ギングリッチ氏の名前が投票用紙に載らなかったため、ロムニー氏の圧勝が予想されていたが、ロムニー氏の得票率60%に対し、ポール氏も40%と健闘。反ロムニー勢力の広がりを示すとして、専門家やメディアは驚きをもって受け止めた。投票日直前の世論調査で首位のサントラム氏に数ポイント差まで迫り、ロムニー氏勝利の可能性もささやかれたテネシー州でも結局はサントラム氏が手堅く勝利(サントラム氏の得票率37%、ロムニー氏28%)。「マサチューセッツ州のリベラル」と揶揄されるロムニー氏にとって、保守派の牙城である南部の壁が厚いことを改めて証明した(3月13日のアラバマ州、ミシシッピー州での敗北でロムニー氏の「南部問題」は一段と深刻になりつつある)
スーパーチューズデーを総括すると、ロムニー氏がほぼ間違いなく勝つと思われていたマサチューセッツ州、バーモント州、バージニア州、アイダホ州で予想通りの勝利。保守的な南部(オクラホマ州、テネシー州、ジョージア州)を保守派のサントラム氏とギングリッチ氏が分け合い、激戦のオハイオ州はロムニー氏が僅差で勝利という結果になり、大統領候補が誰になるのか鮮明にすることもなければ、大勢を揺るがすような番狂わせもない現状追認型の決選だったと言える。もともと今回のスーパーチューズデーは、予備選・党員集会を実施する州が前回の半分の10州にとどまったほか、代議員獲得方法の変更で勝利しても獲得できる代議員数が限られるため、もともと「スーパー」になりにくかった面もある。
指名獲得への勢いを巡る「モーメンタム(Momentum)」競争で苦戦するロムニー氏だが、肝心の代議員獲得競争では着実に前進している。スーパーチューズデー以降の予備選でも、ハワイ州や米領サモアで勝利。アラバマ州、ミシシッピー州では順位こそ3位だったが、首位のサントラム氏とわずか7人差の25の代議員を獲得。3月17日時点の累積代議員数は495人に達し、2位のサントラム氏(252人)に大差をつけている。数字上のロムニー氏の有利は明らかだ。
この優位性をいかに支持基盤の拡大につなげていくかがロムニー氏にとって最大の試練だ。資金力、組織力で他の候補を圧倒しながら波に乗れない「本命」ロムニー氏を、保守派のサントラム氏、ギングリッチ氏がお互いを攻撃しあいながら追いかける、という展開が続いてきたが、サントラム氏は保守的な南部のアラバマ州、ミシシッピー州を制したことで、保守系候補の筆頭格としての地位を確実なものにした。ギングリッチ氏への撤退圧力は日増しに高まっており、もし保守派候補がサントラム氏で一本化され、勢いを増すことがあれば、ロムニ―氏の代議員数が(指名獲得に必要な)1144人に届かない事態もあり得る。「(8月末の)党大会までもつれる可能性は十分ある」(米世論調査機関ゾグビー社のジョン・ゾグビー社長)
4年前、オバマ、クリントンが戦った民主党予備選の長期化は民主党全体を活気づかせ、本選挙での勝利にも貢献したというのが通説だが、共和党主流派で今や長期戦を望む声は少数派。早期に一致団結して本選挙にそなえる必要性を唱える声が大勢だ。そんな期待をあっさりと裏切り、候補者決定までの道のりがまだまだ続くことを予感させるスーパーチューズデーだった。