「FOXはロムニーびいきだ」今月に入り、保守派のサントラム氏とギングリッチ氏が相次ぎFOX ニュースを批判した。米国では一般的にメディアはリベラル寄りとされており、論調などで保守派から批判を受けることが多いが、保守系メディアの代表格であるFOXは例外的な存在。サントラム氏、ギングリッチ氏ともに同局でコメンテーターを務めていたこともあるだけに、今回の批判は注目を集めた。
背景には、予備選を通じて顕在化した主流派VS草の根保守派という共和党内の亀裂がある。「真性保守」を自任するサントラム氏やギングリッチ氏は、ロムニー氏のもとで早期に団結したい主流派の考えを反映するFOXは自らを過度にネガティブに報道していると訴えた。批判の客観的根拠を探すのは難しいが、昨年秋ごろから予備選の序盤まで、次々と先頭走者が代わる混戦ぶりに焦点をあてレースを盛り上げてきた同局が、獲得代議員数でロムニー氏が圧倒的優位になったスーパーチューズデー以降は、あたかもロムニー氏を「候補者」のように扱うことが増えたのは事実だ。
FOXの「ロムニーびいき」疑惑は一定の物議を醸したものの、米メディアの今年の予備選の報道ぶりは、民主党でオバマ対ヒラリー・クリントンが白熱した予備選を展開した08年と比べると総じて低調だ。もともとアメリカの大統領選は、現職大統領の再選がかかった年はリスクをとって出馬する人が少なく、候補が小粒になるため盛り上がりに欠けるとされる。ピュー・リサーチ・センターによると、08年のスーパーチューズデーの週のニュースに占める大統領選関連の比率は全体の55%、今年は30%に過ぎなかった。大統領選のニュースを「非常に熱心に追いかけている人」の比率も08年2月時点で約4割に達していたのに対し、今年3月時点では28%にとどまる。
時系列にみると、大統領選関連のニュースを取り上げる割合はスーパーチューズデーの週を境に低下したことが分かる。
大統領選関連のニュースが占める割合(%)
出典)Pew Research Center
だが、共和党サイドに目を向けると、事情がやや異なるようだ。中傷合戦の長期化で厭戦気分の広がりが懸念されていたが、最近の世論調査や投票率によると、2010年の中間選挙の勝利で勢いづいた「打倒オバマ」熱が依然として健在であることがうかがえる。
FOXニュースが4月12日に発表した世論調査では、今秋の大統領選に「非常に強い関心がある」と答えた人の割合は、民主党支持者が33%なのに対し、共和党支持者では42%。「ティーパーティー(茶会党)」に限っては50%に達した。ニューヨークタイムズとCBSが3月に実施した世論調査でも、「過去の大統領選と比べて今年の選挙に対する熱意は?」という質問に対し、共和党有権者は40%が「より熱心(more enthusiastic)」と回答。29%だった民主党有権者と比べ、政権交代への強い思いを持っているようだ。
予備選中盤の1月末から3月上旬のスーパーチューズデーにかけて低迷していた投票率も最近は回復傾向にある。スーパーチューズデーまでに予備選を実施した州の投票率の平均は11・5%。2008年(13.2%)、2000年(12.2%)に比べて低調だったが、スーパーチューズデー以降の主要な州の予備選では総じて投票率が上昇。なかでも、ロムニー氏とサントラム氏の事実上の一騎打ちとなったウィスコンシン州やオハイオ州、ギングリッチ氏も交えた三つどもえで盛り上がった南部のアラバマ州やルイジアナ州は軒並み投票者数が軒並み10%以上増加した。
(ミシシッピー州は08年の予備選時点で候補者が既に決まっていたため、特に大きな伸びとなった)
★主な党員集会・予備選の投票者数★
ここから垣間見られるのは、一部の例外をのぞき、共和党の中心的地盤(ベース)である南部など、保守層が積極的に動員された州では総じて投票者数が多いという実態だ。反面、穏健派が主流の地域では盛り上がりに欠ける傾向がある。保守派と穏健派が混在するフロリダ州では、ギングリッチ氏が勝利した保守的な地方部では投票率が08年を上回ったものの、ロムニー氏が勝った穏健な都市部周辺では08年を下回った。
中道派のロムニー氏に対する保守層の不信感はいまだに根強く、3月中旬の世論調査(ギャラップ調べ)では、ロムニー氏に「非常に熱狂的に投票する」とした共和党支持者の割合は35%。08年の候補者マケイン氏の場合、47%に達していた。今年の大統領選については、保守派、穏健派に共通する「打倒オバマ」の思いこそが、共和党支持者を投票所に向かわせる原動力になるというのが定説だったが、予備選での投票率を分析していくと、「投票率を押し上げるのは『オバマを負かしたい』というネガティブな動機だけでは十分ではなく『○○氏を当選させたい』というポジティブな動機が必要だ」(保守系ストラテジスト)という見方が説得力を増してくる。候補者に熱狂する人の多さは、選挙ボランティアや小口献金の出し手のすそ野の広さにも直結するため、本選挙に向けても重要な指標となる。
通常、共和党予備選でベースの支持獲得のため右傾化した候補者は、本選挙に向け中道に戻すというのが王道だが、予備選を通じ、保守派が優勢な地域でほとんど勝利できなかったロムニー氏には、今後も保守派からの確かな支持の獲得という宿題が残った。本選挙で接戦もしくは劣勢が予想される現状で、ロムニー氏に熱狂しない保守派が棄権してしまえば致命傷になりかねない。副大統領候補に保守派を据えたり、保守的な政策を提案したりすることで、共和党のベースを積極的に関与させる戦略を進めると同時に無党派層の開拓に取り組む必要がある。予備選を制したロムニー氏は今後もさらに一段と難しいかじとりを迫られそうだ。