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アメリカ大統領選挙UPDATE 6:「ロムニー選対)「チーム・ロムニー」鉄の結束?- 側近は旧知の仲間、政策顧問はブッシュ色強く」(袴田 奈緒子)

July 2, 2012


ボストン中心部を流れるチャールズ川沿い、イタリア人街のはずれにたたずむ3階建てビル。どこにでもありそうな無機質な建物がロムニー選対の本部だ。出入りするスタッフに中の様子を聞こうとしても、返ってくるのは「発言を許されていない」「何も話せない」などそっけない答えばかり。「クレムリン並みの秘密主義」(地元紙ボストン・グローブ)と形容されるほど組織の統制が効いている様子がうかがえる。

ロムニー氏は投資ファンドのCEO(最高経営責任者)だった経験を生かし、企業を統治するかのごとく、選対を運営しているとされる。トップの責任について「組織全体のトーンや進む方向を定め、皆の役割を明確にすること」と語っており、選対本部にも「ロムニーイズム」が浸透しているのだろう。
ロムニー陣営は4年前、組織の規模が膨らみすぎた影響で内部対立を招き、予備選の敗北の一因になったとの反省があった。今回の予備選は前回の約半分の少数精鋭で臨む戦略が奏功したわけだが、党大会を控えた今、大拡張の時期を迎えている。90人足らずだったスタッフは400人超に増員する計画だ。

ただ、組織が大きくなろうとも、その要がロムニー氏と長年に渡り「鉄の結束」を築いた側近たちであることに変わりはない。中心を占めるのは、マサチューセッツ州知事時代から続くボストン人脈だ。なかでも、メディア対応を担当するエリック・ファーンストロム(Eric Fehrnstrom)と副大統領候補選びを任されているベス・マイヤーズ(Beth Myers)の2人は側近中の側近として知られる。
元ボストン地元紙記者のファーンストロムは、2002年の州知事選で選対副本部長を務め、当選後は州知事の広報担当補佐官に就任。08年予備選に続き、今回もメディア対応を一手に引き受ける。遊説先も含め、ロムニー氏とともに行動する時間が最も長い側近の一人だ。

「日和見主義者」「信念がない」などロムニーに向けられる批判の矢面にたち、時には攻撃的に反論する忠実な擁護者。6月に出演したテレビの討論番組では、オバマ政権を「指導力が欠如している」と手厳しく批判。オバマ陣営の選挙参謀になぞらえて「ロムニー陣営のアクセルロッド」と称されることも多い。

ベス・マイヤーズは州知事時代の首席補佐官で、08年の選挙では選対本部長を務めた。政治の世界に足を踏み入れたのは80年代。ブッシュ前大統領の側近、カール・ローブ氏とともにテキサス州で活動していた。
ロムニー氏が最も厚い信頼を寄せていると言われるボブ・ホワイト(Bob White)は、投資ファンド、ベインキャピタルを創設した仲間の一人。ベイン時代に始まり、ソルトレイクシティー冬季五輪、州知事、4年前の大統領選、そして今回と長い年月を共にしてきた個人的な友人でもある。

ロムニー個人との関係が深いこれらの側近たちに加え、「チーム・ロムニー」の中核を占めるのがブッシュ前大統領のもとで働いていた面々だ。選対本部長のマット・ローズ(Matt Rhoades)は大半の時間をボストンのオフィスで過ごし、公の場に出ることが少ない「陰」の存在。08年の予備選ではロムニー陣営の広報担当を務めた。対抗馬に関する情報収集能力への評価が高く、04年大統領選ではブッシュ/チェイニー陣営の調査担当として活躍。今年も、序盤の大きな節目となったフロリダ州予備選の前に、ギングリッチ氏への攻撃材料をかき集め、同州でのロムニー氏勝利に貢献したとされる。主要演説の執筆やCM戦略を担うメディア・コンサルタントのスチュアート・スティーブンズ(Stewart Stevens)も2000年と04年の選挙でメディア担当としてブッシュ陣営に参加した。

政策顧問の主要メンバーもブッシュ色が強い。40人強で構成する外交顧問のうち、7割程度がブッシュ前政権出身者とされる。なかでも米国の絶対的パワーを信奉し、単独での軍事介入も辞さない「ネオコン」(新保守主義者派)が目立つのが最大の特徴だ。

イラク戦争を推進したネオコン系シンクタンク「PNAC (Project for the New American Century:アメリカ新世紀プロジェクト)」創設者のロバート・ケーガン(Robert Kagan)、元イラク駐留米軍報道官でイスラエルとのつながりが深いダニエル・シノー(Daniel Senor)、ブッシュ政権の国防次官やチェイニー副大統領の補佐官などを歴任したエリック・エデルマン(Eric Edelman)、ブッシュ政権下の国連大使ジョン・ボルトン(John Bolton)など、ロムニー陣営の外交ブレーンには米国を代表するネオコンが名を連ねる。ケーガン、シノー、エデルマンはPNACの後継組織で、09年に設立されたネオコン系シンクタンク「Foreign Policy Initiative(FPI)」の理事でもある(FPIのもう一人の理事は保守系政治雑誌「Weekly Standard」編集長のウィリアム・クリストル)。

外交チームのもう一つの特徴は、スコウクロフト元大統領補佐官やキッシンジャー元国務長官など共和党のなかでも「穏健派」とされる国際協調主義者で、対イラク武力行使に反対していた重鎮たちが入っていないことだ。マイケル・チャートフ(Michael Chertoff)元国土安全保障省長官やミッチェル・リース(Mitchell Reiss)元国務省高官などわずかに存在するロムニー陣営内の「穏健派」はアフガン政策などでネオコンと意見を異にするが、数や影響力で圧倒的な劣勢にあるとされる。両派閥が比較的バランス良く混在していた4年前のマケイン陣営と比べると、ロムニー陣営のネオコン傾斜は際立っており、パウエル元国務長官が「かなり右寄りの布陣だ」と述べるなど、不安視する向きも少なくない。実際、ロムニー氏からはネオコンの影響力が色濃く出ていると思われる発言をよく聞く。今年3月には「ロシアは米国にとって地政学上の最大の敵だ」と指摘、時代錯誤的と批判を浴びた。6月下旬のヴァージニア州の演説では「アメリカは強くあり続けなくてはいけない」と強調し、財政再建を理由に軍事費削減をすすめようとするオバマ政権を批判した。

経済に強いと自負しているロムニー氏の自信の表れか、経済政策顧問はわずか4人。その中心はブッシュ前大統領のもとで米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたグレン・ハバード(Glenn Hubbard・現コロンビア大学ビジネススクール校長)とグレゴリー・マンキュー(Gregory Mankiw・現ハーバード大教授)だ。ハバードは富裕層優遇としばしば批判される「ブッシュ減税」を推進したことで知られる。

「現在の景気低迷はブッシュ政権の責任」とする世論が依然として6割を占めるなか(WSJ/NBC世論調査 6/20-24)、ブッシュ色が強い経済チームはオバマ陣営につけ込む隙を与えている。6月中旬、オハイオ州で演説したオバマ大統領は、富裕層への減税、歳出削減、規制緩和を掲げるロムニー氏が当選すれば「(米国を苦境に追い込んだ)ブッシュ前大統領の失敗を繰り返すことになる」と警鐘を鳴らした。

    • 政治アナリスト
    • 袴田 奈緒子
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