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アメリカ大統領選挙UPDATE 9:「保守派はこの選挙をどう評価したのか?」(中山 俊宏)

November 26, 2012

共和党は2008年の選挙に次いで、2012年の大統領選挙においても敗北した。これで過去6回の大統領選挙のうち、一般投票で共和党が民主党に勝ったのは、2004年の大統領選挙においてジョージ・W・ブッシュ大統領が僅差でジョン・ケリー候補を破ったときのみということになる。共和党指導部から見ると、反省すべき点はかなりはっきりしている。ヒスパニック票をどうにか開拓し、「プロライフ」という基本姿勢は維持しつつも、女性票を疎外しないよう原理主義的アプローチ(近親相姦、レイプの際も中絶を容認しないという態度)からは距離をおくこと、さらに若者票をつかむこと。最後の点については、たとえば共和党は今後同性婚については、より寛容な姿勢で臨む必要があるだろう。アメリカ全体についていえることだが、とりわけ若い層のあいだでは、同性婚に関する意識は容認する方向にかなりはっきりと動いている。

今回、共和党が負けたのは大統領選挙だけではない。本来ならば勝てるはずだった上院でも議席数を減らしている。その敗因もかなりはっきりしている。共和党予備選挙でワシントンのリーダーたちが推した「勝てる候補」を退け、保守派が躊躇なく思いを託すことができた「真性保守」を当選させたからだ。今回の選挙ではワシントン不信がとりわけ強かったため、穏健派ベテラン議員がグラスルーツの保守派の格好の標的となった。しかし、彼らの多くは一部の例外を除いて、本選挙で勝つには保守的すぎた。

大統領選挙の予備選挙でも同じような力学が作用した。要は、共和党の予備選挙は誰が一番右旋回をできるかを競う戦いのようになってしまった。その結果、立場的には疑いなく右にポジションどりをしたものの、右派の心をつかめないままでいたミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が共和党の大統領候補に指名されたのは周知のとおりである(ロムニーに対する保守派の不信感については ここ を参照)。ロムニーの敗因については、 袴田コラム が詳しいが、ロムニー候補は右旋回せんと、厳しい不法移民対策を打ち出したが、これがヒスパニック票を強く疎外したことは疑いない(ヒスパニック票については 西川コラム を参照)。結局、今回の選挙戦を通じて、ロムニーという政治家の信念みたいなものは結局浮かび上がってこなかったが、政策的にはかなり保守主義の方に傾斜しつつも、保守派のエネルギーに火をつけることはできず、その一方でリベラル派の間の危機意識を高めてしまった。

2008年のジョン・マケイン候補も保守派の間では不信の念をもって見られていた。つまり、保守からしてみると、2008年と2012年の2回、連続して妥協的な候補で戦ったために負けたことになる。選挙直後、 多くの識者 は選挙結果を受けて共和党は大胆に変わらない限り低迷期に入り込むとの認識を示したものの、いわゆる「ムーブメント・コンサバーティブ」と呼ばれる草の根の活動家たちは、一様にこれとはまったく異なった結論を導きだしている。

このような兆候はいくらでも見いだせるが、例えば草の根の保守主義運動を一貫して支えてきたリチャード・ヴィゲリーが運営するホームページ「 ConservativeHQ 」を見てみよう。ここでは共和党が「真性保守」を正面に掲げて戦わなかったことが最大の敗因とされ、悪かったのはロムニーであり、保守主義ではないことが強調されている。ConservativeHQは、選挙の翌日には会合を開き、保守派は保守主義から離脱すべきではなく、むしろそれを純化すべきことを確認している。歴史の教訓として言及されるのは1964年のゴールドウォーターの敗北である。ロムニーがゴールドウォーターだったというのではなく(むしろ正反対だ)、ゴールドウォーターの歴史的敗北にもかかわらず、当時の保守派の活動家たちは一切妥協せずにむしろ保守主義の方向に強く傾斜し、最終的にはレーガン革命を実現させたことを想起すべきだということだ。

2014年に行われる中間選挙は二期目の政権からしてみると戦いやすい選挙ではない。苦戦も容易に想像できる。場合によっては、2010年の中間選挙の時のように保守派が活気づいて、連邦議会において共和党がそれなりに勢力を盛り返す可能性も否定できない。つまり、2008年、2010年、2012年、そして2014年の教訓を踏まえ、2016年の大統領選挙では「今度こそ真性保守を」という力学が共和党内で作用しないともかぎらない。そうなると共和党の再生には2020年まで待たなければならないということになるかもしれない。党内穏健派の存在が確実に希薄になっているのも気がかりだ。これは民主党にとっては朗報かもしれないが、アメリカ政治全体にとっては歓迎すべき事態ではないだろう。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
    • 中山 俊宏

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